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*あなたのかおり



相変わらず潮の香りに慣れない。
岐阜の山の香りとはあまりにもかけ離れていて緊張する。
そう、私が言うと

「それでも、来てくれたんだな」

まんざらでもなさそうにバネさんこと黒羽春風はそう答えた。

「はい、だって、コレがバネさんの香りでしょう?」

黒潮の、房総の海の香り。
千葉の海辺の街に暮らすバネさんの香り。

「それなら、私は大好きな香りに違いないですし、
こうやって二人で時を重ねていけばすぐに慣れるんじゃないですかね」

今日はバネさんの誕生日。
学校が終わってから部活もそこそこにダッシュで電車を乗り継いで
バネさんの住む街までやってきた。
そして今、駅の近くの海岸の堤防に二人で並んでお祝いしている。
9月も末の空気は既に冷えたものだけれども二人でくっついていると暖かい。
帰りの電車のこととか門限のこととかを考えると
二人であって居られる時間なんて限られているけれども
それでも、今日ここで、バネさんの暮らす街で逢いたかった。
ふたりでお誕生日をお祝いしたかった。
ふと、プレゼントを渡すことを思い出して慌ててカバンの中から包みを取り出す。

「そうそう、はい、プレゼントです!」

背が高くてスッキリとしたスタイルのバネさんに似合いそうな秋物のシャツ。
気に入ってくれると良いんだけど。

「おっ、サンキュー」

バネさんは嬉しそうに顔をほころばせる。

「でもな、赤月。俺はお前がここまで来てくれるだけで充分だったんだけどな」

その一言に体中の血が頭に上がったような気がした。
それをバネさんはめざとく気づく。

「そーゆーとこ、かわいいよな、お前」

そういって、自然と私を肩を寄せてそこに顔を埋める。

「バッ…バネさん!?」

あまりの動作とその台詞に動揺を隠せない。
普段冷静そうに見えて案外さらっと大胆なコトするんだなあ。

「……んっ、お前からは岐阜の山の香りはしないなあ……甘い香りがするだけで」

「そりゃそうですよ、今東京に住んでるんですし」

甘い香りという言葉に照れを感じるけれども
シャンプーや石けんだってバネさんの好みに合うように気を抜いてはいない。
その甲斐があったかなと嬉しく思う。

「ま、いいか。いずれお前からも潮の、俺の香りがするんだからよ」

そういって、コレまでにないほどお互いの身体が密着する。
今日逢っただけでもう、潮の香りになれてしまった気がした。
頬に寄せられた唇がくすぐったい。



END
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