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デートかもしれない話。攻め巴と逆転を狙う観月。
かつてキリリクにて献上させていただいた話を加筆修正して再掲です。
***
11時。
大きなラケットバッグを背負って、赤月巴が駅前の待ち合わせ場所にたどり着くと、彼女を待っているらしい人物━━━観月はじめは電話をしていた。
「……はい……じゃあ、15時からの予約だったんですね……わかりました。その時間で結構です、それじゃあよろしくお願いします。失礼します」
通話が終わり、巴の気配に気付いた観月は彼女に向き合う。
「観月さん?」
「失礼しました、巴くん。キッチリ時間通りですね。━━━なのに申し訳ないんですが…」
非常に申し訳ないといった表情で観月は言い淀む。巴はちょっとした不安そうな表情でその話の続きを視線で促す。
「テニスコートの件なのですが、予約は13時からと申し込んでいたのですが、こちらの確認ミスで15時からになっていたんですよ。この待ち合わせ時間だと…随分空いてしまいますね、すみません」
昼食を一緒に食べることを考えてこの時間に待ち合わせを決めたのだが、15時まではかなり時間が空いてしまう。
「本当にすみませんね。貴重な時間を取らせてしまって」と観月は再度謝った。そんな殊勝な態度の観月を見ることはあまりないせいか、巴もそんなに悪い気はしないらしく、にっこり笑って謝意に応えた。
「いえ、いいんですよ、それより…この空いた時間、どうしましょうか?」
「そうですね…最初から昼食を途中でとるつもりでしたし、とりあえず予定通りにまず動きますか」
観月はそう答えて巴を促し、二人で駅の構内へと向かっていった。
「私のことよりも、観月さんは大丈夫ですか?高校受験とか、Jr選抜合宿のこととかで色々忙しいのにテニスの練習に付き合ってもらっちゃったりして」
「ボクは大丈夫ですよ、普段から自分のことはキチンと管理していますし、大体今日テニスに誘ったのはボクですよ?余裕がなければ誘いませんよ。それに最近テニスの森で打ってませんからね、ひさしぶりにあのコートで練習がしたかったんですよ。いいコートですから」
今日は二人は、よくテニスの大会の会場として使われる場所へ行く予定をしていた。
いつも通っているテニススクールのコートもいいコートだが、たまには場所を変えてやるのも良い気分転換になる。
巴は久し振りに訪れるテニスの森のコートを懐かしみ楽しみにしていた。
それに、あの場所に行くには東京での観光スポットを通過する交通機関を利用する。車窓からそれを観月と眺めるというのも楽しみだった。
さすがに練習として誘ってくれた観月本人にいうことは出来なかったが。
昼食は大幅に時間もあることだしと、観月の提案で人気の臨海スポットに途中下車することにした。
観月の苦手な騒がしい空間であることは、その場所へ向かう車内からも察することが出来たが、彼は今日に限っては目をつぶることにした。
なにより、「このスポット初めて来ました!」と目を輝かせている少女が隣にいるというのに、それをあえて無視できる人間がいたらお目にかかってみたい。むしろ観月は殴りに行きたいと思った。そんな奴がいるならば。
ここで言うべき言葉はただ一つ「じゃあ、ここで降りて時間を潰しましょうか?」それだけだ。
観月は、それに従う。
巴の狂喜乱舞ぶりは何も観月のデータを披露するまでもなく予測できることだった。
こんな自分を一年前の自分は想像出来ただろうか?出来るわけがない。
この観月はじめが騒がしい店内で栄養価の低いファストフードで腹を満たし、衛生面で不安のある移動屋台で糖分を過剰摂取し、自分では見えないけれど多分全開の笑顔で進んで観覧車に乗っている。
外には相変わらず濁った色をしている東京湾と淀んだ空気にかすむ街の風景が広がっている。
風の吹く澄んだ晴天の日には富士山も眺められるそうだが、今現在は確認できそうにない。確認できるのは目の前に座った少女の喜色満面な顔つきだけだ。
「ああっ、観月さん観月さん!あそこにも観覧車がありますよ!」
「あの場所だと…江戸川区の公園の観覧車でしょうか」
「変わった船が!」
「水上バスですね…確か有名な漫画家がデザインしたそうですよ」
1年前の自分ならばくだらないと切り捨てるような会話に今の自分は乗り気だ。自分自身信じられず、驚きで一杯だ。
彼女といるとどうして自分はこうなってしまうのだろう。脳内でハチマキを付けたチームメイトが「観月は赤月にメロメロだね」とせせら嗤う。アヒルみたいなチームメイトも「お熱いダーネ」と彼をからかう。
けれども、実際にそう言われても今の自分は気にならない。だって本当にそうなのだから。
でなければ、何故自分が必死に彼女を誘い出して観覧車にまで乗ったりするだろうか。
頭の中に描かれたチームメイトを閉め出しながら、徹底的に巴との会話を楽しもうと観月は決心する。狭い密室で気になる女子と楽しむことに専念しない男はいない。それが例え観月はじめであったとしても、だ。
向かいに座る彼女は何か見つけるごとに「観月さん!」と問いかける。
楽しそうに興味深そうに弾む声。これまでこんな甘い声で自分の名前を呼ばれたことがあっただろうか?陶然としながらその声に応える。
これまで、自分の名前に関して好き嫌いを感じたことは無かったが━━━長男だからはじめというネーミングセンスに関してはその単純さを不快に思うことがあったが、彼女の声が呼んでくれるならとても素晴らしい名前のように感じる。
ただ名前を呼ばれているだけなのに全身を愛撫されている気持ちになるのは何故だろう。
もっとも、彼の中ではとっくに出ている答えだった。こんな気持ちにさせてくれるのは彼女以外に存在しないのだから明白だ。
この観覧車が地上に到着しなければいいのにと思ってしまう理由もそれに準じている。もっとも地上に着かない観覧車など無いのだけれど。
観覧車を降りて観月は腕時計に目をやった。信じたくはないけれど、自分の腕に嵌めた電波時計は正確だ。時間を間違えようがないことを非常に残念に感じた。
「さて、そろそろ時間ですね。なかなかここも楽しいですけれど、コートの予約時間が迫っていますから移動しましょうか?」
「はぁい」
いかにも残念そうに巴も答える。正直言えば観月自身も残念だった。まだ14時で、デートならまだまだこれからの時間だ。
最初から素直にテニスをしようなんて誘わずにデートしようと誘えば良かったと思う。駅に向かうわずかな距離も名残惜しい。
「少しの時間でしたけど、なんだかデートみたいでしたね!このスポット、カップルも多いですし私たちもそう見えちゃいましたかねえ?」
駅の階段を上りきったところで、えへへ、と照れくさそうに巴はそう感想を述べた。そんな表情も可愛いですね、と言ったらば彼女はどう反応するだろうか、ふとそう思った。それを想像するだけで、こちらの方が照れくさくなり急に心拍数も上がったような気がするから人間とはふしぎなものである。自分の心拍数を随時データ化したらどういう結果が出るだろうか。
「ボクは最初からデートのつもりだったと言えば?」
暴れ出す感情を必死に押さえて、券売機で二人分の切符を購入しながら余裕を装って観月はそう問い返した。
「え?」
「いくらボクがデータマンでもキミの気持ちまでは測れませんからね。キミをデートに誘って断られるのが恐かった…と言えば?」
切符を手渡しながら観月は巴に本音を伝える。触れた彼女の指がぴくりと反応したことに満足を覚えた。彼女をデータで測りきれないのなら、偽りをぶつけてみても仕方のないことだと思った。
これまでの様子から巴が観月に対して親愛の情を抱いているのは分かっている。
それが恋愛感情から来るものなのかどうかは分からないが、勝算が全くないというわけではない。
「……っていうんでしたら」
「巴くん?」
巴はうつむき加減でぼそっとなにかを呟いていたと思えば、急に観月に近づいて半ばヤケのような口調で言い放った。
「……デートだっていうんでしたら、中途半端じゃなくちゃんとそれらしくして下さいっ」
「っ!」
巴の唇が観月の頬に触れた。
キスというよりもぶつかったという方が近いかも知れないそれは、しかしながらそれでも観月のただでさえ高かった心拍数を更に跳ね上げさせるには充分の威力だった。死なないだけで僥倖であるとしか言いようがないくらいに。
「こっ、こういうのもデートの行程に含まれると思うんですけどっ」
巴は顔を真っ赤にしながらそう言い、照れ隠しなのかそのまま一人先に改札を抜けていった。
あまりの展開にしばし呆然としていた観月は、すぐに気を取り直し彼女を追う。ホームへ向かう階段で追いついてきた彼に背を向けたまま、巴はかのじょには珍しく観月に聞こえるか聞こえないか微妙な程度の声量で言葉をこぼした。
「……次は、ちゃんと観月さんからして下さい」
観月はノックアウト寸前になりながらも負けじと答える。頬のほてりと顔のにやけが止めるのに苦労するが、彼女が前を向いているのが幸いであった。
「ま、ボクならキミと違って頬にぶつかるようなことはしませんけどね。キミのもっと柔らかいところを狙います。ボクにきちんとさせたいなら覚悟を決めて下さいよ。待ちませんから」
んふっといつもながらの少し意地の悪い笑みをみせながら観月は巴の前に出る。そして1段高いところから手を差し出す。
「階段は危ないですからね。ボクがエスコートして差し上げますよ?」
「ええっそんなこと…大丈夫ですっ!いつもの観月さんなら放っておくじゃ……」
あわてて拒否しようとする巴の言葉を奪う形で観月は答える。
「これは、デート、なんでしょう? じゃあそれらしくするのは当然じゃないですか」
キミが言ったんですよ?そういって強引に手を引くことにした。
もっとも巴には拒絶する理由もなく、そしてその強引な態度と言葉に一瞬二の句を告げなくなってしまった。
「……テニスコートからはデートに含まれませんからね……」
巴は、悔し紛れに顔を真っ赤にさせながらそう足掻くのが精一杯だった。
まだまだ巴より上の立場でいたい。シナリオ通りの展開が最近上手くいかないことに内心焦りを覚えつつも、観月はこころからにっこり笑って「上等ですよ、かかっていらっしゃい」そう答えながら心拍数を安定させて優位を目指す。
END
かつてキリリクにて献上させていただいた話を加筆修正して再掲です。
***
11時。
大きなラケットバッグを背負って、赤月巴が駅前の待ち合わせ場所にたどり着くと、彼女を待っているらしい人物━━━観月はじめは電話をしていた。
「……はい……じゃあ、15時からの予約だったんですね……わかりました。その時間で結構です、それじゃあよろしくお願いします。失礼します」
通話が終わり、巴の気配に気付いた観月は彼女に向き合う。
「観月さん?」
「失礼しました、巴くん。キッチリ時間通りですね。━━━なのに申し訳ないんですが…」
非常に申し訳ないといった表情で観月は言い淀む。巴はちょっとした不安そうな表情でその話の続きを視線で促す。
「テニスコートの件なのですが、予約は13時からと申し込んでいたのですが、こちらの確認ミスで15時からになっていたんですよ。この待ち合わせ時間だと…随分空いてしまいますね、すみません」
昼食を一緒に食べることを考えてこの時間に待ち合わせを決めたのだが、15時まではかなり時間が空いてしまう。
「本当にすみませんね。貴重な時間を取らせてしまって」と観月は再度謝った。そんな殊勝な態度の観月を見ることはあまりないせいか、巴もそんなに悪い気はしないらしく、にっこり笑って謝意に応えた。
「いえ、いいんですよ、それより…この空いた時間、どうしましょうか?」
「そうですね…最初から昼食を途中でとるつもりでしたし、とりあえず予定通りにまず動きますか」
観月はそう答えて巴を促し、二人で駅の構内へと向かっていった。
「私のことよりも、観月さんは大丈夫ですか?高校受験とか、Jr選抜合宿のこととかで色々忙しいのにテニスの練習に付き合ってもらっちゃったりして」
「ボクは大丈夫ですよ、普段から自分のことはキチンと管理していますし、大体今日テニスに誘ったのはボクですよ?余裕がなければ誘いませんよ。それに最近テニスの森で打ってませんからね、ひさしぶりにあのコートで練習がしたかったんですよ。いいコートですから」
今日は二人は、よくテニスの大会の会場として使われる場所へ行く予定をしていた。
いつも通っているテニススクールのコートもいいコートだが、たまには場所を変えてやるのも良い気分転換になる。
巴は久し振りに訪れるテニスの森のコートを懐かしみ楽しみにしていた。
それに、あの場所に行くには東京での観光スポットを通過する交通機関を利用する。車窓からそれを観月と眺めるというのも楽しみだった。
さすがに練習として誘ってくれた観月本人にいうことは出来なかったが。
昼食は大幅に時間もあることだしと、観月の提案で人気の臨海スポットに途中下車することにした。
観月の苦手な騒がしい空間であることは、その場所へ向かう車内からも察することが出来たが、彼は今日に限っては目をつぶることにした。
なにより、「このスポット初めて来ました!」と目を輝かせている少女が隣にいるというのに、それをあえて無視できる人間がいたらお目にかかってみたい。むしろ観月は殴りに行きたいと思った。そんな奴がいるならば。
ここで言うべき言葉はただ一つ「じゃあ、ここで降りて時間を潰しましょうか?」それだけだ。
観月は、それに従う。
巴の狂喜乱舞ぶりは何も観月のデータを披露するまでもなく予測できることだった。
こんな自分を一年前の自分は想像出来ただろうか?出来るわけがない。
この観月はじめが騒がしい店内で栄養価の低いファストフードで腹を満たし、衛生面で不安のある移動屋台で糖分を過剰摂取し、自分では見えないけれど多分全開の笑顔で進んで観覧車に乗っている。
外には相変わらず濁った色をしている東京湾と淀んだ空気にかすむ街の風景が広がっている。
風の吹く澄んだ晴天の日には富士山も眺められるそうだが、今現在は確認できそうにない。確認できるのは目の前に座った少女の喜色満面な顔つきだけだ。
「ああっ、観月さん観月さん!あそこにも観覧車がありますよ!」
「あの場所だと…江戸川区の公園の観覧車でしょうか」
「変わった船が!」
「水上バスですね…確か有名な漫画家がデザインしたそうですよ」
1年前の自分ならばくだらないと切り捨てるような会話に今の自分は乗り気だ。自分自身信じられず、驚きで一杯だ。
彼女といるとどうして自分はこうなってしまうのだろう。脳内でハチマキを付けたチームメイトが「観月は赤月にメロメロだね」とせせら嗤う。アヒルみたいなチームメイトも「お熱いダーネ」と彼をからかう。
けれども、実際にそう言われても今の自分は気にならない。だって本当にそうなのだから。
でなければ、何故自分が必死に彼女を誘い出して観覧車にまで乗ったりするだろうか。
頭の中に描かれたチームメイトを閉め出しながら、徹底的に巴との会話を楽しもうと観月は決心する。狭い密室で気になる女子と楽しむことに専念しない男はいない。それが例え観月はじめであったとしても、だ。
向かいに座る彼女は何か見つけるごとに「観月さん!」と問いかける。
楽しそうに興味深そうに弾む声。これまでこんな甘い声で自分の名前を呼ばれたことがあっただろうか?陶然としながらその声に応える。
これまで、自分の名前に関して好き嫌いを感じたことは無かったが━━━長男だからはじめというネーミングセンスに関してはその単純さを不快に思うことがあったが、彼女の声が呼んでくれるならとても素晴らしい名前のように感じる。
ただ名前を呼ばれているだけなのに全身を愛撫されている気持ちになるのは何故だろう。
もっとも、彼の中ではとっくに出ている答えだった。こんな気持ちにさせてくれるのは彼女以外に存在しないのだから明白だ。
この観覧車が地上に到着しなければいいのにと思ってしまう理由もそれに準じている。もっとも地上に着かない観覧車など無いのだけれど。
観覧車を降りて観月は腕時計に目をやった。信じたくはないけれど、自分の腕に嵌めた電波時計は正確だ。時間を間違えようがないことを非常に残念に感じた。
「さて、そろそろ時間ですね。なかなかここも楽しいですけれど、コートの予約時間が迫っていますから移動しましょうか?」
「はぁい」
いかにも残念そうに巴も答える。正直言えば観月自身も残念だった。まだ14時で、デートならまだまだこれからの時間だ。
最初から素直にテニスをしようなんて誘わずにデートしようと誘えば良かったと思う。駅に向かうわずかな距離も名残惜しい。
「少しの時間でしたけど、なんだかデートみたいでしたね!このスポット、カップルも多いですし私たちもそう見えちゃいましたかねえ?」
駅の階段を上りきったところで、えへへ、と照れくさそうに巴はそう感想を述べた。そんな表情も可愛いですね、と言ったらば彼女はどう反応するだろうか、ふとそう思った。それを想像するだけで、こちらの方が照れくさくなり急に心拍数も上がったような気がするから人間とはふしぎなものである。自分の心拍数を随時データ化したらどういう結果が出るだろうか。
「ボクは最初からデートのつもりだったと言えば?」
暴れ出す感情を必死に押さえて、券売機で二人分の切符を購入しながら余裕を装って観月はそう問い返した。
「え?」
「いくらボクがデータマンでもキミの気持ちまでは測れませんからね。キミをデートに誘って断られるのが恐かった…と言えば?」
切符を手渡しながら観月は巴に本音を伝える。触れた彼女の指がぴくりと反応したことに満足を覚えた。彼女をデータで測りきれないのなら、偽りをぶつけてみても仕方のないことだと思った。
これまでの様子から巴が観月に対して親愛の情を抱いているのは分かっている。
それが恋愛感情から来るものなのかどうかは分からないが、勝算が全くないというわけではない。
「……っていうんでしたら」
「巴くん?」
巴はうつむき加減でぼそっとなにかを呟いていたと思えば、急に観月に近づいて半ばヤケのような口調で言い放った。
「……デートだっていうんでしたら、中途半端じゃなくちゃんとそれらしくして下さいっ」
「っ!」
巴の唇が観月の頬に触れた。
キスというよりもぶつかったという方が近いかも知れないそれは、しかしながらそれでも観月のただでさえ高かった心拍数を更に跳ね上げさせるには充分の威力だった。死なないだけで僥倖であるとしか言いようがないくらいに。
「こっ、こういうのもデートの行程に含まれると思うんですけどっ」
巴は顔を真っ赤にしながらそう言い、照れ隠しなのかそのまま一人先に改札を抜けていった。
あまりの展開にしばし呆然としていた観月は、すぐに気を取り直し彼女を追う。ホームへ向かう階段で追いついてきた彼に背を向けたまま、巴はかのじょには珍しく観月に聞こえるか聞こえないか微妙な程度の声量で言葉をこぼした。
「……次は、ちゃんと観月さんからして下さい」
観月はノックアウト寸前になりながらも負けじと答える。頬のほてりと顔のにやけが止めるのに苦労するが、彼女が前を向いているのが幸いであった。
「ま、ボクならキミと違って頬にぶつかるようなことはしませんけどね。キミのもっと柔らかいところを狙います。ボクにきちんとさせたいなら覚悟を決めて下さいよ。待ちませんから」
んふっといつもながらの少し意地の悪い笑みをみせながら観月は巴の前に出る。そして1段高いところから手を差し出す。
「階段は危ないですからね。ボクがエスコートして差し上げますよ?」
「ええっそんなこと…大丈夫ですっ!いつもの観月さんなら放っておくじゃ……」
あわてて拒否しようとする巴の言葉を奪う形で観月は答える。
「これは、デート、なんでしょう? じゃあそれらしくするのは当然じゃないですか」
キミが言ったんですよ?そういって強引に手を引くことにした。
もっとも巴には拒絶する理由もなく、そしてその強引な態度と言葉に一瞬二の句を告げなくなってしまった。
「……テニスコートからはデートに含まれませんからね……」
巴は、悔し紛れに顔を真っ赤にさせながらそう足掻くのが精一杯だった。
まだまだ巴より上の立場でいたい。シナリオ通りの展開が最近上手くいかないことに内心焦りを覚えつつも、観月はこころからにっこり笑って「上等ですよ、かかっていらっしゃい」そう答えながら心拍数を安定させて優位を目指す。
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