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拍手お礼サルベージ。
***
部活動が中止になってしまったとある放課後。
巴は真面目に帰宅する気にもなかなかなれず、少し遠回りだけど河川敷の遊歩道をブラブラして帰ることにした。
もうすぐ4月だというのに、春めいた気配が一切ない河川敷は荒涼としていて寂しい。
今年の春の到来がもう少し早ければ、この時期にはツクシやヨモギが芽生え、土手に観るも鮮やかな緑の絨毯が敷かれることだろうに。
少し残念に思いながらも、それでも巴は散歩の足を止めることはなかった。
彼女の足が止まることになったのは、土手に座る見慣れた姿を見つけたからだ。
「切原さん!」
癖の強い髪に、平均値ながらも周囲の学生離れした連中と比べれば少し小柄な身体。
巴はもはや見間違えることはない。切原赤也その人だった。
先日のジュニア選抜合宿では、ライバル校の選手──しかも新部長でありながらうっかりと親密な関係になってしまった彼だったからだ。
親密な関係とは言え、今日ここをブラつくことは伝えておらず、したがって偶然の出会いに心底驚いてしまった。
「よお、巴」片手をひらひらさせて巴に挨拶する彼は、とくに巴の存在に驚いていないようで、そのことも巴には驚きの材料だった。
「どうしたんですか、何でこんなところに……?」
まるで赤也が幻かどうかを確かめるように、巴は目をしばたたかせながら彼の座る場所へと足を急いだ。
至近距離まで近づいて、ようやく実体であることに納得した。
──影もあれば、身体も生々しく、これが幻であると判断することは難しかった。
「今日は、私がここに来るって事は……言ってないですよね?」
「ああ、聞いてねえよ。俺がここにいるのは不思議か。──愛の力、って言ったら信じるか?」
あくまで不思議そうにしている巴に対して、切原は意地悪っぽくそう返した。
巴は『愛の力』という単語に思わず赤面してしまった。
その表情に切原は満足したように「いいね、その反応」とにやりと笑い、そのからくりを説明した。
「今日は練習試合の件でそっちの新部長に電話したんだよ。で、そん時にお前のこと訊いたってワケ」
「──愛の力の方が良かったです」
女子ならば、誰だってそう言ってもらったほうが嬉しいだろう。そこに気付かないのがまだ中学生であり子供っぽさの残る切原たるゆえんだ。
けれど、彼のそんなところも良いなと思ってしまう巴も巴で、結局は似た者カップルといったところだろうか。
甘い愛の言葉とか駆け引きとか、そんなものはまだまだ似合いそうになかった。
「愛の力の方が良かった、か。まあそう言うなよ──ほら」切原は片手に握りしめていたらしいものと巴の手に預けた。
巴の手に乗せられたのは鮮やかで眩しすぎるくらいの黄色。
「タンポポ……!」
「今年一番最初に見つけた、たんぽぽだ。──摘んだのは良くねえかも知れないけど、やるよ、それ。なんて言うか……その、お前ってそんなカンジだよな」
鮮やかで、強い、タンポポのような──切原にとってそういうイメージなのだろうか。
だったら、嬉しい。
巴は先ほどよりも赤面していることをはっきり自覚していた。
切原も同じくそう見えるけれど、それを指摘したら怒るだろうか、照れるだろうか、それとも笑い飛ばすのだろうか。
その反応は巴にはまだ読めなかった。
二人の付き合いは、この春のようにまだ始まったばかりだったから。
荒涼とした河川敷に最初に咲いた花のように、二人の気持ちは芽生えたばかりだったから。
END
お題「School-Candy」、お題配布元紫龍堂さま
***
部活動が中止になってしまったとある放課後。
巴は真面目に帰宅する気にもなかなかなれず、少し遠回りだけど河川敷の遊歩道をブラブラして帰ることにした。
もうすぐ4月だというのに、春めいた気配が一切ない河川敷は荒涼としていて寂しい。
今年の春の到来がもう少し早ければ、この時期にはツクシやヨモギが芽生え、土手に観るも鮮やかな緑の絨毯が敷かれることだろうに。
少し残念に思いながらも、それでも巴は散歩の足を止めることはなかった。
彼女の足が止まることになったのは、土手に座る見慣れた姿を見つけたからだ。
「切原さん!」
癖の強い髪に、平均値ながらも周囲の学生離れした連中と比べれば少し小柄な身体。
巴はもはや見間違えることはない。切原赤也その人だった。
先日のジュニア選抜合宿では、ライバル校の選手──しかも新部長でありながらうっかりと親密な関係になってしまった彼だったからだ。
親密な関係とは言え、今日ここをブラつくことは伝えておらず、したがって偶然の出会いに心底驚いてしまった。
「よお、巴」片手をひらひらさせて巴に挨拶する彼は、とくに巴の存在に驚いていないようで、そのことも巴には驚きの材料だった。
「どうしたんですか、何でこんなところに……?」
まるで赤也が幻かどうかを確かめるように、巴は目をしばたたかせながら彼の座る場所へと足を急いだ。
至近距離まで近づいて、ようやく実体であることに納得した。
──影もあれば、身体も生々しく、これが幻であると判断することは難しかった。
「今日は、私がここに来るって事は……言ってないですよね?」
「ああ、聞いてねえよ。俺がここにいるのは不思議か。──愛の力、って言ったら信じるか?」
あくまで不思議そうにしている巴に対して、切原は意地悪っぽくそう返した。
巴は『愛の力』という単語に思わず赤面してしまった。
その表情に切原は満足したように「いいね、その反応」とにやりと笑い、そのからくりを説明した。
「今日は練習試合の件でそっちの新部長に電話したんだよ。で、そん時にお前のこと訊いたってワケ」
「──愛の力の方が良かったです」
女子ならば、誰だってそう言ってもらったほうが嬉しいだろう。そこに気付かないのがまだ中学生であり子供っぽさの残る切原たるゆえんだ。
けれど、彼のそんなところも良いなと思ってしまう巴も巴で、結局は似た者カップルといったところだろうか。
甘い愛の言葉とか駆け引きとか、そんなものはまだまだ似合いそうになかった。
「愛の力の方が良かった、か。まあそう言うなよ──ほら」切原は片手に握りしめていたらしいものと巴の手に預けた。
巴の手に乗せられたのは鮮やかで眩しすぎるくらいの黄色。
「タンポポ……!」
「今年一番最初に見つけた、たんぽぽだ。──摘んだのは良くねえかも知れないけど、やるよ、それ。なんて言うか……その、お前ってそんなカンジだよな」
鮮やかで、強い、タンポポのような──切原にとってそういうイメージなのだろうか。
だったら、嬉しい。
巴は先ほどよりも赤面していることをはっきり自覚していた。
切原も同じくそう見えるけれど、それを指摘したら怒るだろうか、照れるだろうか、それとも笑い飛ばすのだろうか。
その反応は巴にはまだ読めなかった。
二人の付き合いは、この春のようにまだ始まったばかりだったから。
荒涼とした河川敷に最初に咲いた花のように、二人の気持ちは芽生えたばかりだったから。
END
お題「School-Candy」、お題配布元紫龍堂さま
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