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本文なし
「…ど…どうしたんですか?めず…珍しいですね、
急に呼び出すなんて…」
息を弾ませ巴は開口一番に目の前の人間に問う。息が上がっているのは全力疾走で待ち合わせ場所までたどり着いたからだ。
「そうか?」
「そうですよ!私が呼び出すのは珍しくないですけど!」
「お前…自分で言うな…」
あきれ顔の跡部は息を必死で整えている途中の巴を見おろしながらいう。巴はほんの30分前に電話で「今すぐ来い」と跡部から呼び出された。
とくに用件も告げられず、とにかく来いと言われ
訳がわからないながら慌てて身なりを整えて待ち合わせ場所までやってきた。
全速力で。
待ち合わせ場所はストリートテニスコートのある公園。
二人が初めて出会った場所。
*ホワイトデー
「それにしても本当にどうしたんですか?こんな所に呼び出したりして」
「あーん?場所なんか何処でもよかったんだがな
ただここが待ち合わせに適してただけだ。お前の家からも近いしな」
「はあ」
「用件はこれだ」
そう言い、水色の小袋を巴に手渡す。
いぶかしげに小首をかしげる巴。
何処かで見たことのある紙袋だ。アクセサリー?
「これはなんなんでしょう?」
本気でわからない風情で巴は問いかける。
跡部の目は心なしか凍ってしまったようだ。
「巴…今日は何の日か言ってみろ…」
「何の日…って3月14日ですよねえ?ああ!今日は松の廊下の日なんですよ!たしか!」
「あん?」
「忠臣蔵ですよ。殿中でござるって、アレ」
「違げーよ」
「そうですかあ、じゃ、大阪万博の開催…」
跡部はその言葉をすかさず遮る。
いかにも自分で言うのは不本意という顔で言葉を紡ぐ。
「ふざけるのも大概にしろ。今日はホワイトデーだろうが」
「ああ!跡部さんでもそんな俗なコトするんですね!」
きっぱり俗だと言われ少し傷ついたような表情を見せるも
巴はそれに気づかない。
彼女は大概鈍い。特に色恋沙汰、自分に関わるような事では。
時に野生の勘としか言いようのない鋭さをもみせるが、それは本当に希だ。
仕方ないことと跡部も半ば諦めてはいるが
それに振り回されることが面白くないこともまた確かだ。
「俗とはなんだ、俗とは。俺は義理堅いんだよ」
「そうですかあ」
そうか、義理か…なにげない一言だとは思うけれど、
巴はそこに引っかかる。
もちろん、義理以外のものが欲しかったから。
「跡部さん、大量にチョコを貰ったと思うんですけど
義理堅いんなら全員にちゃんとお返しはしたんですか?」
もちろん、お返しする位跡部にはなんて事はないだろう。先だっての合宿中に部員全員分のお土産を買うところにつきあったのだ。
約200人の部員一人一人に、それなりのお土産を購入していた。
ホワイトデーのお返しだって同レベルのことだろう。
しかし、そんな中の一人として換算されるのは流石にやりきれなさがある。
「しない」
「義理堅いクセにケチですね」
「違う。もういい、お前その袋返せ」
跡部の背後には何故かロシアの雪原が見えるようだ。
もう3月なのに。跡部の周囲の気候だけ極寒。
流石にホワイトデーのお返しを渡した相手にケチと言われるほど
屈辱はないだろう。
もうちょっと察しても良いだろうに…そこが巴なのだろうが。
跡部がお返しを渡さない、その理由。
「いやですよ!返すなんて。せっかく跡部さんがくれたものなのに!」
だって、他ならぬ跡部からのプレゼントだし。
通常のプレゼントとホワイトデーのプレゼントは込められた意味が違うし。
なにがなんでも渡すまいとがっちり紙袋を胸に押さえ込む巴。
跡部もそれを無理には取ろうとしない。
むろん彼とて無理に奪い返す気はない。当たり前だ。
それに「せっかく跡部さんがくれたものなのに!」と言う一言に
コイツ可愛いこというじゃねえか、とニヤつきそうな自分もいる。
「じゃあ、察しろ。俺が他のヤツにお返しをしない理由を…な」
「はい?」
これも結局俺自身が言わないと気付きもしないのかよ、と
深く深くため息をつく。
「……誰からも、貰ってないんだよ。チョコは」
「ええええええええええええええ!実はモテないんですか!?」
「馬鹿か!んな訳ないだろ!」
気づいたら声を荒げてしまった。
周囲の人間に与える影響を考慮して
テニスの練習時以外はきわめて平静でいるようにしている彼であったが
今回は流石に平静を保てない。
巴と接して平静を保てる人間が居るとしたら修行僧ぐらいのものだろう。
「じゃあ、なんでですか」
きょとんとして巴は跡部を見つめる。まるで子犬のような目だ。
これだから憎めない。
俺様としたことが、これじゃ保父さんか何かだぜ…。
またため息をつく。
「全部、受取拒否だ」
「そんなもったいない」
「もったいなくねーよ。この俺にふさわしいチョコは一つだけだからな」
さすがにその意味は理解でき、思わず赤面する。
贈ったチョコが果たして跡部にふさわしいものか自己評価は別として
跡部は高く評価してくれているようだ。
彼にふさわしいチョコは、私のチョコだけ。
それはまるで自分自身が彼にふさわしいと言われているようで。
しあわせだった。
「それなら、私にふさわしいお返しも跡部さんからの一つだけです。
もっとも、私、義理でも跡部さん以外の人にチョコはあげていませんけど」
父宛や菜々子との合作の越前家男性陣へのチョコケーキは別として、だが。
バレンタインデー前は跡部へのチョコのことで頭がいっぱいで
他の人間にあげるチョコなんてかけらも考えなかった。
「義理…」
「…跡部さん?」
自分の失言に跡部は急に気づく。
『俗とはなんだ、俗とは。俺は義理堅いんだよ』その一言。
義理堅いからあげた訳じゃない。
「さっきの“義理堅い”って発言は撤回だ」
「はい?」
「これまでの俺にとって確かにホワイトデーは俗な、意味のないものだったが
お前が居るから今の俺にはとても意味のある行事なんだよ
━━━これだけ言えば、もう十分だろう?」
絶句。
あまりの恥ずかしさに声が出ない巴は赤い顔でかくかく頷く。
やっぱり彼は何かすべてを超越している。
殺し文句すら。
彼からの大ダメージな台詞にどのくらい心臓が保つかわからないけれど
これからもずっとこの人についていこう、そう巴は心に誓った。
しかし、彼の繰り出す殺し文句が
すべて彼女の鈍さに起因しているとはやはり気づいていないのだった。
『万事はっきりと大袈裟すぎるほどにアピールしないと
巴は理解しない』
翌日から跡部の日記の1ページ目には必ずこの言葉が書き加えられるようになる。
忘れないように。
END
「…ど…どうしたんですか?めず…珍しいですね、
急に呼び出すなんて…」
息を弾ませ巴は開口一番に目の前の人間に問う。息が上がっているのは全力疾走で待ち合わせ場所までたどり着いたからだ。
「そうか?」
「そうですよ!私が呼び出すのは珍しくないですけど!」
「お前…自分で言うな…」
あきれ顔の跡部は息を必死で整えている途中の巴を見おろしながらいう。巴はほんの30分前に電話で「今すぐ来い」と跡部から呼び出された。
とくに用件も告げられず、とにかく来いと言われ
訳がわからないながら慌てて身なりを整えて待ち合わせ場所までやってきた。
全速力で。
待ち合わせ場所はストリートテニスコートのある公園。
二人が初めて出会った場所。
*ホワイトデー
「それにしても本当にどうしたんですか?こんな所に呼び出したりして」
「あーん?場所なんか何処でもよかったんだがな
ただここが待ち合わせに適してただけだ。お前の家からも近いしな」
「はあ」
「用件はこれだ」
そう言い、水色の小袋を巴に手渡す。
いぶかしげに小首をかしげる巴。
何処かで見たことのある紙袋だ。アクセサリー?
「これはなんなんでしょう?」
本気でわからない風情で巴は問いかける。
跡部の目は心なしか凍ってしまったようだ。
「巴…今日は何の日か言ってみろ…」
「何の日…って3月14日ですよねえ?ああ!今日は松の廊下の日なんですよ!たしか!」
「あん?」
「忠臣蔵ですよ。殿中でござるって、アレ」
「違げーよ」
「そうですかあ、じゃ、大阪万博の開催…」
跡部はその言葉をすかさず遮る。
いかにも自分で言うのは不本意という顔で言葉を紡ぐ。
「ふざけるのも大概にしろ。今日はホワイトデーだろうが」
「ああ!跡部さんでもそんな俗なコトするんですね!」
きっぱり俗だと言われ少し傷ついたような表情を見せるも
巴はそれに気づかない。
彼女は大概鈍い。特に色恋沙汰、自分に関わるような事では。
時に野生の勘としか言いようのない鋭さをもみせるが、それは本当に希だ。
仕方ないことと跡部も半ば諦めてはいるが
それに振り回されることが面白くないこともまた確かだ。
「俗とはなんだ、俗とは。俺は義理堅いんだよ」
「そうですかあ」
そうか、義理か…なにげない一言だとは思うけれど、
巴はそこに引っかかる。
もちろん、義理以外のものが欲しかったから。
「跡部さん、大量にチョコを貰ったと思うんですけど
義理堅いんなら全員にちゃんとお返しはしたんですか?」
もちろん、お返しする位跡部にはなんて事はないだろう。先だっての合宿中に部員全員分のお土産を買うところにつきあったのだ。
約200人の部員一人一人に、それなりのお土産を購入していた。
ホワイトデーのお返しだって同レベルのことだろう。
しかし、そんな中の一人として換算されるのは流石にやりきれなさがある。
「しない」
「義理堅いクセにケチですね」
「違う。もういい、お前その袋返せ」
跡部の背後には何故かロシアの雪原が見えるようだ。
もう3月なのに。跡部の周囲の気候だけ極寒。
流石にホワイトデーのお返しを渡した相手にケチと言われるほど
屈辱はないだろう。
もうちょっと察しても良いだろうに…そこが巴なのだろうが。
跡部がお返しを渡さない、その理由。
「いやですよ!返すなんて。せっかく跡部さんがくれたものなのに!」
だって、他ならぬ跡部からのプレゼントだし。
通常のプレゼントとホワイトデーのプレゼントは込められた意味が違うし。
なにがなんでも渡すまいとがっちり紙袋を胸に押さえ込む巴。
跡部もそれを無理には取ろうとしない。
むろん彼とて無理に奪い返す気はない。当たり前だ。
それに「せっかく跡部さんがくれたものなのに!」と言う一言に
コイツ可愛いこというじゃねえか、とニヤつきそうな自分もいる。
「じゃあ、察しろ。俺が他のヤツにお返しをしない理由を…な」
「はい?」
これも結局俺自身が言わないと気付きもしないのかよ、と
深く深くため息をつく。
「……誰からも、貰ってないんだよ。チョコは」
「ええええええええええええええ!実はモテないんですか!?」
「馬鹿か!んな訳ないだろ!」
気づいたら声を荒げてしまった。
周囲の人間に与える影響を考慮して
テニスの練習時以外はきわめて平静でいるようにしている彼であったが
今回は流石に平静を保てない。
巴と接して平静を保てる人間が居るとしたら修行僧ぐらいのものだろう。
「じゃあ、なんでですか」
きょとんとして巴は跡部を見つめる。まるで子犬のような目だ。
これだから憎めない。
俺様としたことが、これじゃ保父さんか何かだぜ…。
またため息をつく。
「全部、受取拒否だ」
「そんなもったいない」
「もったいなくねーよ。この俺にふさわしいチョコは一つだけだからな」
さすがにその意味は理解でき、思わず赤面する。
贈ったチョコが果たして跡部にふさわしいものか自己評価は別として
跡部は高く評価してくれているようだ。
彼にふさわしいチョコは、私のチョコだけ。
それはまるで自分自身が彼にふさわしいと言われているようで。
しあわせだった。
「それなら、私にふさわしいお返しも跡部さんからの一つだけです。
もっとも、私、義理でも跡部さん以外の人にチョコはあげていませんけど」
父宛や菜々子との合作の越前家男性陣へのチョコケーキは別として、だが。
バレンタインデー前は跡部へのチョコのことで頭がいっぱいで
他の人間にあげるチョコなんてかけらも考えなかった。
「義理…」
「…跡部さん?」
自分の失言に跡部は急に気づく。
『俗とはなんだ、俗とは。俺は義理堅いんだよ』その一言。
義理堅いからあげた訳じゃない。
「さっきの“義理堅い”って発言は撤回だ」
「はい?」
「これまでの俺にとって確かにホワイトデーは俗な、意味のないものだったが
お前が居るから今の俺にはとても意味のある行事なんだよ
━━━これだけ言えば、もう十分だろう?」
絶句。
あまりの恥ずかしさに声が出ない巴は赤い顔でかくかく頷く。
やっぱり彼は何かすべてを超越している。
殺し文句すら。
彼からの大ダメージな台詞にどのくらい心臓が保つかわからないけれど
これからもずっとこの人についていこう、そう巴は心に誓った。
しかし、彼の繰り出す殺し文句が
すべて彼女の鈍さに起因しているとはやはり気づいていないのだった。
『万事はっきりと大袈裟すぎるほどにアピールしないと
巴は理解しない』
翌日から跡部の日記の1ページ目には必ずこの言葉が書き加えられるようになる。
忘れないように。
END
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