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この作品は4949番を踏まれました麗奈さまへ。
お題:「最初は観月が攻め、最後は巴が攻めになる感じの甘い二人」



***

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ターミナル駅前。大きな交差点を二人は渡る。
雑踏の中、気づいたら自然に手を繋がれていた。
巴はビックリして自分に繋がれた手の先━━━観月を見つめる。
色素薄目の整った顔立ちはいつもと相変わらず冷静な表情だ。

「…?巴くん、どうかしましたか?」

巴の驚いた表情に観月は不審に思い問いかける。

「ああ、手…嫌でしたか、スミマセンね」

巴が手を繋ぐのを嫌がっていると考え、観月は慌てて繋いだ手を解こうとする。
もちろん、巴は嫌だった訳じゃないのでそれを阻止する。
観月の手をきつく握りしめることによって。

「あ!違うんですよ………い、嫌じゃありませんてば」

恥ずかしそうに観月の誤解を解こうと声を出す。
「わかりましたよ…そんなに力を込められては解けるものも解けませんよ。
だいたいキミは自分の握力をちゃんと把握しているんですか?

女子にしては強すぎるんですから加減してください」

「ああっ…すいません!…痛かったですか?」

巴の申し訳なさそうな表情に満足して観月は笑う。

「んふっ。痛くはないですよ…冗談です。ボクだって男ですよ?
好きな女性に手を握られて痛みを感じる訳がないでしょう?」

好きな女性…もしかしてもしかしなくても、私のことなんだろうか。
今観月さんの手を握っているのは自分で。 なんだかドキドキしてきた。
巴の血圧も脈拍も上昇中。
観月さん、今日はいつもとなんだか違うような気がする。
表情は至って冷静。 声は落ち着き払っている。
だけれども、この人はいつもは急に手を繋いだりしないし
さらっと甘い言葉をささやけるような人じゃない。
そうだと思っていたんだけれど、どうやら違ったらしい。
ともかく今日は違うようだ。

「ほら、人が多いですから、はぐれちゃいますよ」と手を繋ぎなおして
先ほどの言動は何でもないことだったように
普通通りの顔をして観月は隣を歩く。
巴は動揺を隠しきれなくてちらちらと横目で何度も観月を追う。
意識しすぎたのか、気づいたら少し手を引かれる格好になっていて、
あっと思った時には観月は自然に歩む速度を落として再び横に並ぶようになった。
女性をエスコートする男性としては理想的な態度だ。
そして、人並みを上手く避けて歩いていく。
うわー。どうしちゃったんだろう。
なんだか本当にいつもと違う人みたいだ。
もちろんいつも格好良いけど、今日はなおさらよく見える。
ああ、どうしよう、あまりにもドキドキしすぎて体温まで上昇してる。
あ、手!手に汗かいちゃうかも…どうしよう。
その事に気付き、巴はやや挙動不審な動きになる。
その動きに普段から巴の挙動に慣れている筈の観月も
怪訝そうな顔になり、彼女を窺う。

「……どうしたんですか?なにか?」

「え…だっだって、今日の観月さん、なんか違いますよ」

思い切って考えていたことを素直に口にする。
その素直さが巴の良いところだ。
観月もその率直さに惹かれていたので気分を害することはない。

「んふっ。そうですか?」

それどころか上機嫌のようだ。
その理由が分からない巴は脳内疑問符でいっぱいになる。

「まあ、そんなところで不思議そうな顔をしないでもう少し歩きましょう。
もうすぐ、目的地に到着するんですから
━━━ほら、目の前に緑色の看板が見えるでしょう?」

今日の二人の目的は買い物だ。
スポーツ雑貨と、合宿に備えての細々としたもの、
そう言ったモノが一気に揃う雑貨のデパートとも言うべきビルが目標だ。
普段は学校近くの大手スポーツ用品店に下校途中に寄ったりするのだが、
久し振りに日曜日の練習がないため、
大きな所へ買い物に行こうということになった。
そして電車を乗り継いで人々が多く集う街へとやってきた。
よくよく考えると、そこは多くのカップルのデートコースでもある。

そういえば、観月さんとこういったところに二人っきりで来るの初めてだなあ。
朋ちゃん達とか女友達となら来たことはあるんだけど。
巴はぼんやり考える。
━━━コレって、デートっぽいよね。普通に。
手を繋いで、繁華街でショッピングで。
二人とも制服でもジャージでもないし。
そういえば私服の観月さんて久しぶりに見るなあ。
あっ、ヤダまたドキドキしてきたみたい。
もう一度観月の横顔をそろっと窺う。 やっぱり冷静そうな横顔。
観月さんはコレがデートみたいだって事、気づいてないのかな。
意外とテニス馬鹿的なところがあるもんねえ。

そんなことをつらつらと考えていると目的地に到着した。
白を基調とした広い入り口に差し掛かったときに、
再び思ったことを口に出してみた。

「ねえ、観月さん。私思ったことがあるんですけど」

「はい?なんですか、思った事って?またなにか突飛なことですか」

巴が何を言い出すか分からず、心底不思議そうな表情を観月は見せる。
そして、ちゃんとした話だと思ったのか入り口の端に巴を導き
他の客の邪魔にならないように話を聞く体勢に入る。
手を繋いだままということには二人は気づかない。
それぐらい自然に繋いでいて違和感がないということか。

「あ、そんなにたいした話じゃないんですけどね。
ほら、私たちって、今日はデート中のカップルに見えるんじゃないかと思って」

「……!!!デ…デート…ですか?」

急に精神的に揺れが見え出す観月。
ああ、こういうカンジの方が観月さんっぽいよねと巴は逆に冷静になる。
いつも余裕綽々っていうよりも、少し余裕ありげで余裕なさそうな方がイイ。
巴は観月のそういうところがちょっと可愛いなあと思うようにもなっていた。

「まあ、考えなくもなかったですけどね…」

態勢を立て直そうと、動揺を抑えようときわめて冷静を装う努力をする。
もちろん、観月とてデートだと思わなかった訳じゃない。
むしろ、逆に買い物にかこつけてデートに誘っていた訳なのだが
流石に巴はそこまで考えが及ばなかったらしい。
無邪気に思いついたことを観月に告げているだけだ。
しかし、図星には違いないのでその事で動悸が激しくなる。
デートだから、二人でお出かけなんて滅多にない機会だから、
場所を選んで、余裕を持って。 お約束のように手を繋いでみたり
言葉でその気にさせて甘い雰囲気作りをしてきたり
自分でも必死に努力してきた訳だが
どうやら巴には「いつもと違う」程度にしか思われていなかった訳だ。
ここまで来てやっと「コレってデートかも」と思った訳だ。
少し落胆を隠せない。 ここまで鈍いと犯罪に近いですね…。
鈍い巴にははっきり言ってやる必要があると思い
普段冷静な、格好つけの態度を脱ぎ捨てて思い切って率直な言葉を口にする。

「……いえ、最初からキミとのデートのつもりだったんですけどね、コレでも」

「ええっ!そうだったんですか」

だったら、そういってくれなくちゃ分からないですよ、という言葉を無視して続ける。
初めからはっきりと言えるなら、そんな自分なら、こんなに苦労しない。
「デートしましょう」なんてスマートじゃない誘い方が出来るものですか。

「そうだったんですよ。ボクだって、キミに関しては精一杯なんですよ。
こうして、努力して何でもない振りをしてキミを誘って
キミと手を繋いで…キミの本心は分からないですからね」

デートだって事にすら気づかないキミですから。
なんて、自分らしくない馬鹿馬鹿しいことを言っているのだろうと観月は思う。
普段の自分なら、巴以外の相手になら、こんな事は絶対に言わない。
弱みは見せたくない。
カガミ売り場の前なんかじゃなくて良かったと何となく思った。
少なくとも自分自身のみっともない姿を見なくて済む。
観月の確かに北国生まれ特有の白い肌は紅くなっていて目も泳いでいた。

観月さんが真っ赤になって動揺している。
その事実は巴にも激しく動揺させた。
彼をこんなに乱しているのは自分、その事実に。 正直言って、可愛い。
そんな観月さんが好き。
そして、自分だけが彼を動揺させることが出来るのならば
もっと動揺させてみたい。
自分自身の存在で彼をもっともっと乱してみたい。
そう思って繋いでいた手をふりほどく。その行動に観月は少なからず驚く。

「……!やっぱり、こんなボクとデートだなんて嫌でしたか…」

ふりほどかれた手を見て、 半ば呆然とした口調で観月はぽつりという。

「そんな訳、ないじゃないですか!」

当然そんな訳ない。
巴の手が離れ、ぶらりと垂れ下がったままの観月の左手に
もう一度巴は手を伸ばした。 そして今度は観月の腕に絡みつかせる。
その身体ごと。ぎゅっと押しつけるようにして。
その事にビックリした観月は慌てて身体と離そうとする。

「とっ…巴くん、なななななにやってるんですか!」

もうどう頑張っても冷静にはなれないらしく、声もうわずっている。
きっと他の人たちは観月さんのこんな姿を見たことはないんだろうなと
巴は満足感でいっぱいになる。
たしかに、自分はこの手のことには鈍いらしいし
今日だって気づかずにここまで来たけれども観月のことが好きなのは真実。
デートだって、手を繋いだり腕を組んだり甘い雰囲気だって大歓迎だ。
さらに腕ごと身体を離そうとする観月を慌てて引き留める。
もう一度、身体ごとその腕に押しつけるように。力一杯。
観月の薄く見えて案外厚い胸はさら激しく上下し、
また、紅い肌がますます紅く染まっていく。

「ねえ、観月さん?
デート中のカップルだったらこれぐらい当然じゃないですか?」

身体を寄せることで近づいた距離を利用して耳元で囁いてみる。
満足げな表情をたたえながら。
観月さんの心臓が弱くなくて良かったなと思いながら。
弱かったらきっと発作が起きていることだろう。



END
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