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観月さんハピバな前編です。続きます。
中編
後編
***
---26日---
「あ~~~~~~う~~~~~~」
「……かなり煩いんだけど、止めてくれない、巴?」
ベッドにはゴロゴロと寝ころびウーウー唸っている赤月巴がいた。
隣の部屋でその声を漏れ聞いた早川楓は呆れた顔で部屋に入って来てそれを見おろしていた。
巴が悩んでいる理由は明解だ。
今日は5月26日。
明日に迫った、巴の彼氏━━━観月はじめの誕生日についてに決まっている。
どうせ、贈るものが決まっていないとか、そんなことで悩んでいるのだろうと早川はこれまでの経験から見当をつけていた。
「まだプレゼントが決まってないわけ?」
「ううん、プレゼントは決まってるんだよねえ━━━ほら」
巴がほらと指さした方向を辿っていくと、勉強机の上にいかにも上等な紙袋があった。
早川が紙袋の口から中を覗くと、シックなベージュの包装紙に深い赤のリボンという、いかにも観月が好みそうな色合いの箱が入っていた。
観月に贈るに相応しいそれは、まだ中学生の巴のチョイスとしては相当洗練されていて、彼女をよく知る早川としては驚くべき出来事といっても過言ではない。
なにしろ巴のキャラと全くと言っていいほど逆方向なのだから。
「なんだ、立派なプレゼント用意してるじゃないの。
他に何か問題でもあるってワケ?」
どうせこの女友達はまたくだらないことで悩んでグルグルしているのだろう。
他人にはどうでもいいこと、ささやかなことでも彼女にとっては常に大問題であった。
今回も多分に漏れないようだった。
だから付き合いのいい早川はあえて訊いてやるのだった。
『今度の問題は何なのか』と。
我ながら付き合いの良い友達だと思いながら。
「う~ん、シチュエーション? てか、どうやって渡そっかなーって」
まるで明日の朝地球が滅亡すると知ってしまったかのごとく、深刻な表情で巴は答えた。
「決まってないんだよねえ」と深くため息をつきながら。
「━━━ばっか……」
「だってね」
馬鹿馬鹿しい、そう早川が口に出し終えるよりも早く巴は話し始めた。
「今年で3回目なの、観月さんの誕生日。
なんか去年全力投球でネタは出し切ったというかさあ……」
「高級ホテルとかレストランていうのはさすがに無理があるしねえ」と既に考えるのを放棄しているのか、乾いた笑い混じりに早川に聞いてもらいたいでもなさそうに声を出している。
1年目は巴は観月と知り合ったばかりで、それなりのお祝いしかしていなかった。
しかし、付き合いだしてからの2年目、巴はそれはもう頑張った。
使えるものは使い、なんとかしてあの普段冷静に澄ましている観月を喜ばそうと必死だった。
プレゼントも、渡す場所も、交わす言葉、仕草さえも細かく気を遣い力を出し切った。
彼の誕生日の翌日の朝は、精根尽き果てたというようにふらついていたぐらいだ。
それは早川も直接この目で見たので知っている。
「全力って……去年あそこまで頑張らなくってもよかったのに。
それに、だからといって今年も去年以上にする必要はないでしょ」
早川はたまに思う。
巴はいつも一生懸命なのが取り柄だけれど、そうやって肩肘張っている力をもう少し抜けたらもっといいかんじで楽な生活を送れるのにと。
学校も、テニスも、恋人も全てを100%以上の力でやらなければならない法律はない。
もう一度巴の用意したプレゼントをちらっと見る。
あの品を選ぶだけでも、巴は100%以上の力を使ったと見れば分かる。
中身自体は知らないが、中学三年生の彼女にとっては価格的にもセンス的にも出すのが困難な品だろう。
これが巴の精一杯だろうし、それに気付かない、伝わらない観月でもないだろうに。
それを渡すのに今更これ以上何が必要だというのだろう。
「たかだか誕生日のイベントで愛情を計る人じゃないでしょ、観月さんて」
早川は本人に言ってやるのは癪だったが、考えるのに疲れ切った風の巴を見ているとつい口にしてしまった。
観月がそんなことで相手を試すタイプであれば、そもそも巴と付き合わないはずだ。
だから、巴はそんなに頑張りすぎることはないのだと言外に伝える。
「知ってるー。だから、辛いんだよ」
巴はごろんとベッドに顔を伏せてしまった。
背中からはその表情は分からない。
その様子を見て、人の恋愛に口を出すなんて馬鹿なことをしてしまったと、巴の話に付き合った自分の馬鹿さ加減にも呆れかえりながら早川はそっと彼女の部屋から切り上げた。
彼女にしても彼氏にしても複雑怪奇な性格をしていてお似合いすぎると頭を抱えながら。
続く
中編
後編
***
---26日---
「あ~~~~~~う~~~~~~」
「……かなり煩いんだけど、止めてくれない、巴?」
ベッドにはゴロゴロと寝ころびウーウー唸っている赤月巴がいた。
隣の部屋でその声を漏れ聞いた早川楓は呆れた顔で部屋に入って来てそれを見おろしていた。
巴が悩んでいる理由は明解だ。
今日は5月26日。
明日に迫った、巴の彼氏━━━観月はじめの誕生日についてに決まっている。
どうせ、贈るものが決まっていないとか、そんなことで悩んでいるのだろうと早川はこれまでの経験から見当をつけていた。
「まだプレゼントが決まってないわけ?」
「ううん、プレゼントは決まってるんだよねえ━━━ほら」
巴がほらと指さした方向を辿っていくと、勉強机の上にいかにも上等な紙袋があった。
早川が紙袋の口から中を覗くと、シックなベージュの包装紙に深い赤のリボンという、いかにも観月が好みそうな色合いの箱が入っていた。
観月に贈るに相応しいそれは、まだ中学生の巴のチョイスとしては相当洗練されていて、彼女をよく知る早川としては驚くべき出来事といっても過言ではない。
なにしろ巴のキャラと全くと言っていいほど逆方向なのだから。
「なんだ、立派なプレゼント用意してるじゃないの。
他に何か問題でもあるってワケ?」
どうせこの女友達はまたくだらないことで悩んでグルグルしているのだろう。
他人にはどうでもいいこと、ささやかなことでも彼女にとっては常に大問題であった。
今回も多分に漏れないようだった。
だから付き合いのいい早川はあえて訊いてやるのだった。
『今度の問題は何なのか』と。
我ながら付き合いの良い友達だと思いながら。
「う~ん、シチュエーション? てか、どうやって渡そっかなーって」
まるで明日の朝地球が滅亡すると知ってしまったかのごとく、深刻な表情で巴は答えた。
「決まってないんだよねえ」と深くため息をつきながら。
「━━━ばっか……」
「だってね」
馬鹿馬鹿しい、そう早川が口に出し終えるよりも早く巴は話し始めた。
「今年で3回目なの、観月さんの誕生日。
なんか去年全力投球でネタは出し切ったというかさあ……」
「高級ホテルとかレストランていうのはさすがに無理があるしねえ」と既に考えるのを放棄しているのか、乾いた笑い混じりに早川に聞いてもらいたいでもなさそうに声を出している。
1年目は巴は観月と知り合ったばかりで、それなりのお祝いしかしていなかった。
しかし、付き合いだしてからの2年目、巴はそれはもう頑張った。
使えるものは使い、なんとかしてあの普段冷静に澄ましている観月を喜ばそうと必死だった。
プレゼントも、渡す場所も、交わす言葉、仕草さえも細かく気を遣い力を出し切った。
彼の誕生日の翌日の朝は、精根尽き果てたというようにふらついていたぐらいだ。
それは早川も直接この目で見たので知っている。
「全力って……去年あそこまで頑張らなくってもよかったのに。
それに、だからといって今年も去年以上にする必要はないでしょ」
早川はたまに思う。
巴はいつも一生懸命なのが取り柄だけれど、そうやって肩肘張っている力をもう少し抜けたらもっといいかんじで楽な生活を送れるのにと。
学校も、テニスも、恋人も全てを100%以上の力でやらなければならない法律はない。
もう一度巴の用意したプレゼントをちらっと見る。
あの品を選ぶだけでも、巴は100%以上の力を使ったと見れば分かる。
中身自体は知らないが、中学三年生の彼女にとっては価格的にもセンス的にも出すのが困難な品だろう。
これが巴の精一杯だろうし、それに気付かない、伝わらない観月でもないだろうに。
それを渡すのに今更これ以上何が必要だというのだろう。
「たかだか誕生日のイベントで愛情を計る人じゃないでしょ、観月さんて」
早川は本人に言ってやるのは癪だったが、考えるのに疲れ切った風の巴を見ているとつい口にしてしまった。
観月がそんなことで相手を試すタイプであれば、そもそも巴と付き合わないはずだ。
だから、巴はそんなに頑張りすぎることはないのだと言外に伝える。
「知ってるー。だから、辛いんだよ」
巴はごろんとベッドに顔を伏せてしまった。
背中からはその表情は分からない。
その様子を見て、人の恋愛に口を出すなんて馬鹿なことをしてしまったと、巴の話に付き合った自分の馬鹿さ加減にも呆れかえりながら早川はそっと彼女の部屋から切り上げた。
彼女にしても彼氏にしても複雑怪奇な性格をしていてお似合いすぎると頭を抱えながら。
続く
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