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本文なし
*SPF∞
観月はじめは深くため息をついた。
しかし、それは自分に対してではない、
彼の眼前で生き生きとラケットを振る彼女に対してだ。
その目の前の彼女、赤月巴は夏の強い日差しにも負けず、
元気よくコートを跳ね回っている。
飛び散る汗も、彼女のものだと思うとキラキラと輝いて見える。
熱さと日差しに火照った彼女の肌は赤く光っている。
とても健康的な美しさでありながらため息の原因はこれだ。
赤く火照った肌。
あきらかに、日焼けだ。
巴は山だしということもあってか、あまり化粧っ気が無い。
それどころか、スキンケアという概念も持っているかどうか怪しい。
なにやら女友達の説得の甲斐あって、なにかしら塗ってはいるようではあるが
日焼け止めにまで手を回しているようにはとても見えない。
4月、紫外線が日に日に強烈になっていこうとする中、
観月はさりげなくUVケアについて巴に講義したのだったが
どうやらその事については失念、もしくは無視しているようだった。
そして今は7月━━━よって、観月はため息をつく。
いくら肌が丈夫とは言え、日焼けは火傷だ。
メラニン色素を溜め込む行為だ。
今は良くてもこの先どうなるかが分からない。
彼女の肌に痕跡を残すようなことがあっては忍びない。
朝から厳しい夏の光に負けぬよう、
今朝の朝練で会ったら一番に巴には日焼け止めを渡そうと昨日から決めていた。
ところが、どうだ。
学校に関係する用事のせいですっかり朝練に遅れてしまった。
巴は、元気に陽に当たり動いている。
━━━おそかったようですね。
もうすでに肌は赤くなっている。
もう一度深くため息をついた。
「あれ?観月さん!おはようございまーす」
こちらの存在に気づいた巴が嬉しそうに駆け寄ってくる。
その姿はまるで良く懐いた子犬のようにも見えて愛らしい。
あくまでも観月ヴィジョンでは、だが。
「巴くん、おはようございます」
巴の日焼けを悲しく思いつつも、やはり言葉を交わせば嬉しい。
観月は普段滅多に他人に見せないような蕩けた笑顔を見せながら挨拶を返す。
テニス部の同級生達が見れば『気持ち悪い』と一斉に言うことだろう。
「ところで、巴くん?ボクは前にもいいましたよね?
屋外活動を行うときはキチンと日焼け止めを塗りなさいって」
まるで口うるさい母親のごとく
巴の様子を咎めると、巴は気まずそうな顔になる。
「や、だって……いえ、なんでもないです!ごめんなさい!」
慌てて巴は観月に謝る。
観月は自分のことを思っていってくれているのだ。
日焼けをすればあとで悔やむのは当の本人、自分だ。
それは、巴にもわかっている。
しかし日焼け止めのヌルっとした感触が苦手だし面倒だ。
そんなものをなかなか塗る気にはなれなかったのだ。
「まったく…君は…仕方のない子ですね」
観月は巴の手を引いて近くのベンチに座らせた。
巴はそれに逆らわず素直従う。
何をするのか?といった巴の表情に構わず、観月は巴の右腕を取り上げる。
「ひゃっ…!」
少しヒヤっとした液体の感触と観月の案外大きな手の感触を感じた。
観月の手は巴の腕に何かを塗りつけていく。
白い液体が肌に溶けて沈んでいく。
「ボクの日焼け止めで申し訳ないですけどね。
低刺激でサラっとしているのでキミの肌に負担はかからないと思いますが…」
ハイ、次とばかり左の腕にも取りかかる。
観月の手のひらがしきりに巴の腕を上下左右に動いていく。
巴はくすぐったさと恥ずかしさで日焼け以上に顔が火照ってしまうが
塗っている観月には気付かれないようにと心の中で祈る。
対して観月も、自分でも思わず大胆な行動に出てしまったことを恥じる。
丈夫なように見えて案外なめらかで柔らかい巴の腕にドキドキしてしまう。
別に変な気持ちで彼女に触れている訳でもないのに
こんなにやましい気持ちになってしまうのは何故だろう。
こんなコトになるのなら最初から彼女自身に塗らせれば良かった。
自分の白い肌が赤らんでいないことを祈るばかりだ。
「はい、あとは自分で塗りなさい」
巴の手に押しつけるように手鏡と日焼け止めのチューブが握らされる。
「え?」
巴は観月に急に放り出された気がして、呆気にとられる。
結局、両腕は観月が塗ってくれたが…。
「腕だけでおしまいですか?観月さん」
考え無しに巴は疑問を口にする。
すると観月は多少恥ずかしげな怒ったような顔をし、答えた。
腕以外にも塗っての良いのか?心の中でツッコミを入れる。
今のこの時点で彼が答えられるのはただ一つだけだった。
「……キミの顔や首筋や足に触れて正気でいられるほどボクもまだ達観してませんので」
彼女に触れられるのなら本来願ってもいないチャンスではあるのだが、
そうなるとさすがに自分の理性が保てそうにない。
なめらかな首筋や脚に自分の手を滑らすことが出来ればどんなに良いか。
さすがに、そんなことを巴本人に言える訳はないが。
言って嫌われてしまったらと思うと恐くて仕方がない。
まだ、今は。
野生動物に近づくように、慎重に間合いを取って近づくことが大事だ。
━━━観月の手が自分の腕以外の身体に触れる。
その事に思い当たった巴は、恥ずかしくて穴があったら入りたいとまで思った。
腕一つとっても恥ずかしくてどうしようと思ったはずなのに、
それ以上を意図的にでは無いにしろ、要求してしまったようなものだ。
「え…あ、そ、そんなつもりじゃなかったんですけど…!」
巴は半ば叫ぶように自分の言動をとり消す。
観月もそんな巴の様子に堪えきれず笑い出してしまう。
「んふっ…それは残念ですね。
ボクだって自制は出来ますけど、頼まれればNOとは言わないんですけどね」
「なっ…!」
「まあ、いいでしょう。
いずれキミがおねだりするようになるまで待ちましょうか」
とんでもないことを言い出す観月に、巴は目を丸くする。
「そんなこと、おねだりしません!」
慌ててそれを否定する。
いくらなんでも、それはない。
それはないけど、きっと頼むことがあるならそれは観月だけだろうとも思った。
恥ずかしくて死んでも口にはしないけれど。
しかし、観月はそれをも見通したかのような表情でこちらを見ている。
やっぱり彼には敵わないなあと巴は痛感する。
その事を悟られない内に、慌ててベンチから立ち上がる。
「巴くん?」
「こっ更衣室で落ち着いて塗ってきます!」
「おや?ここでは落ち着けませんか?ボクもいるのに?」
からかうような調子で尋ねられる。
「━━━観月さんがいるから落ち着かないんです」
そして、逃げるように巴は駆けだして行ってしまった。
「……ちょっと、からかいすぎましたかね?」
遠くなってしまった巴の背を眺めながら観月はそう呟いた。
10%はおもしろがって、90%は本気。
幼いところのある巴には少し刺激が強かったかなとやや反省する。
「ま、いいでしょう。本来の目的は達成できたことですし」
やや遅すぎる感はあるが、彼女にUVケアを施せたのは一歩前進。
あとは練習後に日焼けあとのローションを塗るという作業もあるが、
今日の所はやはり逃げられるのだろうなと思う。
今の調子では仕方がないだろう。
観月はもう一度大きく嘆息する。
「これは持久戦ですかね?」
夏は長い。まだ始まったばかりだ。
彼女が陥落するのが早いか、自分が諦めるのが早いか。
当然諦めるつもりなど毛頭無い。
最終的に自分が勝利するのは分かり切っている。
要は自分がどう作戦を立てるか、である。
すっかり巴に振り回されてる自分を面白がりつつ、脳内PCをフル回転させる。
「まったく━━━紫外線より手強いですね、巴くんは」
END
*SPF∞
観月はじめは深くため息をついた。
しかし、それは自分に対してではない、
彼の眼前で生き生きとラケットを振る彼女に対してだ。
その目の前の彼女、赤月巴は夏の強い日差しにも負けず、
元気よくコートを跳ね回っている。
飛び散る汗も、彼女のものだと思うとキラキラと輝いて見える。
熱さと日差しに火照った彼女の肌は赤く光っている。
とても健康的な美しさでありながらため息の原因はこれだ。
赤く火照った肌。
あきらかに、日焼けだ。
巴は山だしということもあってか、あまり化粧っ気が無い。
それどころか、スキンケアという概念も持っているかどうか怪しい。
なにやら女友達の説得の甲斐あって、なにかしら塗ってはいるようではあるが
日焼け止めにまで手を回しているようにはとても見えない。
4月、紫外線が日に日に強烈になっていこうとする中、
観月はさりげなくUVケアについて巴に講義したのだったが
どうやらその事については失念、もしくは無視しているようだった。
そして今は7月━━━よって、観月はため息をつく。
いくら肌が丈夫とは言え、日焼けは火傷だ。
メラニン色素を溜め込む行為だ。
今は良くてもこの先どうなるかが分からない。
彼女の肌に痕跡を残すようなことがあっては忍びない。
朝から厳しい夏の光に負けぬよう、
今朝の朝練で会ったら一番に巴には日焼け止めを渡そうと昨日から決めていた。
ところが、どうだ。
学校に関係する用事のせいですっかり朝練に遅れてしまった。
巴は、元気に陽に当たり動いている。
━━━おそかったようですね。
もうすでに肌は赤くなっている。
もう一度深くため息をついた。
「あれ?観月さん!おはようございまーす」
こちらの存在に気づいた巴が嬉しそうに駆け寄ってくる。
その姿はまるで良く懐いた子犬のようにも見えて愛らしい。
あくまでも観月ヴィジョンでは、だが。
「巴くん、おはようございます」
巴の日焼けを悲しく思いつつも、やはり言葉を交わせば嬉しい。
観月は普段滅多に他人に見せないような蕩けた笑顔を見せながら挨拶を返す。
テニス部の同級生達が見れば『気持ち悪い』と一斉に言うことだろう。
「ところで、巴くん?ボクは前にもいいましたよね?
屋外活動を行うときはキチンと日焼け止めを塗りなさいって」
まるで口うるさい母親のごとく
巴の様子を咎めると、巴は気まずそうな顔になる。
「や、だって……いえ、なんでもないです!ごめんなさい!」
慌てて巴は観月に謝る。
観月は自分のことを思っていってくれているのだ。
日焼けをすればあとで悔やむのは当の本人、自分だ。
それは、巴にもわかっている。
しかし日焼け止めのヌルっとした感触が苦手だし面倒だ。
そんなものをなかなか塗る気にはなれなかったのだ。
「まったく…君は…仕方のない子ですね」
観月は巴の手を引いて近くのベンチに座らせた。
巴はそれに逆らわず素直従う。
何をするのか?といった巴の表情に構わず、観月は巴の右腕を取り上げる。
「ひゃっ…!」
少しヒヤっとした液体の感触と観月の案外大きな手の感触を感じた。
観月の手は巴の腕に何かを塗りつけていく。
白い液体が肌に溶けて沈んでいく。
「ボクの日焼け止めで申し訳ないですけどね。
低刺激でサラっとしているのでキミの肌に負担はかからないと思いますが…」
ハイ、次とばかり左の腕にも取りかかる。
観月の手のひらがしきりに巴の腕を上下左右に動いていく。
巴はくすぐったさと恥ずかしさで日焼け以上に顔が火照ってしまうが
塗っている観月には気付かれないようにと心の中で祈る。
対して観月も、自分でも思わず大胆な行動に出てしまったことを恥じる。
丈夫なように見えて案外なめらかで柔らかい巴の腕にドキドキしてしまう。
別に変な気持ちで彼女に触れている訳でもないのに
こんなにやましい気持ちになってしまうのは何故だろう。
こんなコトになるのなら最初から彼女自身に塗らせれば良かった。
自分の白い肌が赤らんでいないことを祈るばかりだ。
「はい、あとは自分で塗りなさい」
巴の手に押しつけるように手鏡と日焼け止めのチューブが握らされる。
「え?」
巴は観月に急に放り出された気がして、呆気にとられる。
結局、両腕は観月が塗ってくれたが…。
「腕だけでおしまいですか?観月さん」
考え無しに巴は疑問を口にする。
すると観月は多少恥ずかしげな怒ったような顔をし、答えた。
腕以外にも塗っての良いのか?心の中でツッコミを入れる。
今のこの時点で彼が答えられるのはただ一つだけだった。
「……キミの顔や首筋や足に触れて正気でいられるほどボクもまだ達観してませんので」
彼女に触れられるのなら本来願ってもいないチャンスではあるのだが、
そうなるとさすがに自分の理性が保てそうにない。
なめらかな首筋や脚に自分の手を滑らすことが出来ればどんなに良いか。
さすがに、そんなことを巴本人に言える訳はないが。
言って嫌われてしまったらと思うと恐くて仕方がない。
まだ、今は。
野生動物に近づくように、慎重に間合いを取って近づくことが大事だ。
━━━観月の手が自分の腕以外の身体に触れる。
その事に思い当たった巴は、恥ずかしくて穴があったら入りたいとまで思った。
腕一つとっても恥ずかしくてどうしようと思ったはずなのに、
それ以上を意図的にでは無いにしろ、要求してしまったようなものだ。
「え…あ、そ、そんなつもりじゃなかったんですけど…!」
巴は半ば叫ぶように自分の言動をとり消す。
観月もそんな巴の様子に堪えきれず笑い出してしまう。
「んふっ…それは残念ですね。
ボクだって自制は出来ますけど、頼まれればNOとは言わないんですけどね」
「なっ…!」
「まあ、いいでしょう。
いずれキミがおねだりするようになるまで待ちましょうか」
とんでもないことを言い出す観月に、巴は目を丸くする。
「そんなこと、おねだりしません!」
慌ててそれを否定する。
いくらなんでも、それはない。
それはないけど、きっと頼むことがあるならそれは観月だけだろうとも思った。
恥ずかしくて死んでも口にはしないけれど。
しかし、観月はそれをも見通したかのような表情でこちらを見ている。
やっぱり彼には敵わないなあと巴は痛感する。
その事を悟られない内に、慌ててベンチから立ち上がる。
「巴くん?」
「こっ更衣室で落ち着いて塗ってきます!」
「おや?ここでは落ち着けませんか?ボクもいるのに?」
からかうような調子で尋ねられる。
「━━━観月さんがいるから落ち着かないんです」
そして、逃げるように巴は駆けだして行ってしまった。
「……ちょっと、からかいすぎましたかね?」
遠くなってしまった巴の背を眺めながら観月はそう呟いた。
10%はおもしろがって、90%は本気。
幼いところのある巴には少し刺激が強かったかなとやや反省する。
「ま、いいでしょう。本来の目的は達成できたことですし」
やや遅すぎる感はあるが、彼女にUVケアを施せたのは一歩前進。
あとは練習後に日焼けあとのローションを塗るという作業もあるが、
今日の所はやはり逃げられるのだろうなと思う。
今の調子では仕方がないだろう。
観月はもう一度大きく嘆息する。
「これは持久戦ですかね?」
夏は長い。まだ始まったばかりだ。
彼女が陥落するのが早いか、自分が諦めるのが早いか。
当然諦めるつもりなど毛頭無い。
最終的に自分が勝利するのは分かり切っている。
要は自分がどう作戦を立てるか、である。
すっかり巴に振り回されてる自分を面白がりつつ、脳内PCをフル回転させる。
「まったく━━━紫外線より手強いですね、巴くんは」
END
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