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「ああ…これもなんかイメージが違うしなあ…」



*需要と供給



良く晴れ渡った5月の日曜日、
巴は1人で街に買い物へと出てきていた。
今月の27日は観月の誕生日だ。
その誕生日プレゼントを買いに来ていた。
正確に言うと、まだ決めかねている段階で買うまでには相当時間がかかりそうだ。

「あーあ、私も観月さんみたいにデータマンだったらなあ」

だったら、きっと観月が心の底から喜んでくれるプレゼントが用意できるだろうに。
もうすでにふらふらと1時間以上街を歩き回っている。
どんな物を見ても、どんな店に入ってもなかなかピンとくる物がない。
そもそも、どれを選べばいいのか既に見失っている。
もしかしたら今日はこのまま買うどころか選べないままかも知れない。
こんなコトがあろうかと日にちに余裕を持って今日買い物にやって来た訳だが、
『選べない』その可能性が高いことを考えると本当に頭が痛い。

「あああああああああああああー…どうしよーーーーーーーーー」

おもわず頭を抱え込んで立ち止まってしまう。
そこへ、

「何やってるんですか?キミはこんな所で」

後ろから声がかかる。
振り返ってみると…いや、振り返らなくても声で分かってはいたのだが
そこには誕生日プレゼントを渡す相手、観月はじめ本人がいた。

「久々にボクの誘いを断って、今日は何をしているのかと思えば…
こんな所で一体1人で何をしているんですか?」

普段オフの日は大体二人でいることが多いのだから、
今日観月が巴に誘いを断られたことに彼自身が疑問に思うのは当然だ。
しかも当然ながら、巴はその理由に関しては彼に話していない。
観月がそれを不満に思うだろう事は、巴もよく分かったいた。
ただ、彼に下手な嘘をついたところで見抜かれることは分かり切っているので
潔く何も理由を言わないままにしておいたのだ。
まさか、本人に誕生日プレゼントを買いに行くとは言えない。
たとえ彼自身が気づいていたとしても、だ。
だから当然、観月から「何しているのか?」と訊かれても答えられない。

「え…?なにしてるか、ですか。いやーあの…えへへ」

答えに窮してどうして良いか分からず、あからさまな誤魔化し笑いになってしまう。

「ボクなんかには…教えられませんか?」

巴の態度に、寂しそうに観月はそうつぶやいた。
それ見て、巴は慌てふためく表情に変わる。
なにしろ寂しげな表情の観月など見たことがなかったのだ。
慌てもしようというものだ。
観月はその彼女の態度に内心ニヤリとする。
もちろん、観月が自分の誕生日を祝おうとする巴の動きに気づかないはずがない。
普段から落ち着きのない彼女だが、
5月に入ってからはカレンダーを見てソワソワしてみたり、
テニス部の連中に自分の好きそうな物を訊き回っていたり、
なにかもの言いたげな表情で自分を見つめていたりしたのだから。
そこまであからさまだと、かえって微笑ましいのでこれまで黙っていた。
彼女がこれからどう動くのかも楽しみだった。
ただ、いまこうして街で偶然悩んでいる様子の彼女を見かけて
さらに巴の困った顔が見たくなったので、訊いてみたにすぎない。

「教えられない…と、いいますかーあー…」

しばらく焦り言い淀んでいる彼女を堪能してから口を開く。

「分かってますよ。僕の誕生日プレゼントでしょう?
さすがにこれくらいはデータを駆使しなくてもお見通しですよ」

すこしおかし気に顔を歪めなから観月はそういった。
言い当てられた巴は羞恥に頬を染め上げた。

「なっ…!」

まさか、違うとは言えない。
しかし観月のことだから気づかないふりをしてくれると思っていたのだが
その予想に反して、自ら誕生日プレゼントのことを切り込んでくるとは思わなかった。

「しかも、今キミはプレゼントを決めかねて悩んでいる…そうでしょう?」

キレイに言い当てられて
二の句が継げずに、まるで金魚のように巴は口をパクパクとさせた。

「巴くん?違いますか?」

巴に言葉を促す。

「…………違いません」

しぶしぶという感じで巴は言葉を絞り出す。
ここまで言い当てられて何を言えというのだろうか。
珍しく観月が意地悪だ。
観月の性格に難があることは百も承知ではあったのだが
巴自身にたいしてここまで意地悪になることはなかった。
基本は甘やかしすぎといってもいいほど甘いのだ。
普段の観月なら誕生日プレゼントに悩む自分を暖かく見ていてくれるのでは?
そう思っていた自分は甘かったのだろうか。
プレゼントの件にもまして悩ましい。

「そんなに悩むぐらいなら、最初からボクに訊けば良いと思いませんか?」

観月はもっともすぎる質問をする。
この質問すら巴にとっては意地悪に思えてしまう。
どうせ、観月には自分の気持ち━━━観月を驚かせたいとかそう言った気持ちすら
確実に読まれていることが分かり切っているからだ。

「━━━観月さん、今日は意地悪です」

巴は思わず拗ねるように言ってしまう。

「そうですか?」

巴はまだ観月の気持ちには気づいていない。
焦ったり拗ねたり悩んだりする巴を見て可愛いと思っていることなどは。
滅多に見ないような彼女の表情を堪能している自分は、
我ながら性格が悪いなと思わなくもないが
いい人ぶるより性格の悪さを強調してでも彼女の様子をうかがいたい気持ちの方が強い。
子供の頃、好きな子をいじめる男子は沢山いて
彼らのことを内心バカにしていたが、今ならその気持ちが痛いほど分かる。
可愛い子ほどいじめたい。
もっとも嫌われないためのさじ加減が難しくて観月自身からかうのにも必死だし
からかうよりも、やはり巴を甘やかしたい気持ちの方が大きくなる。

「…まあ、いいでしょう。
プレゼントの件ですけどね、別に何だっていいですよ。
キミがくれる物ならなんだってうれしいんですから」

意地悪モードに音を上げてしまった観月は巴にそう告げる。
すくなくとも彼自身は甘やかしているつもりだった。
しかし、その言葉は甘美な響きであるものの、よくないフレーズだった。
ここまで必死に真剣に考えている巴自身にとっては非常によくない。
「アレが欲しい、これが欲しい」と言われる方が嬉しかった。

「さすがに…『なんだって』と言われると嬉しくないですよ、観月さん」

これには抗議の声を上げてしまう。
今まで悩んでいたのがまるでバカみたいではないか。
私はこんなに真剣なのに。
『さすが巴くん!こんなプレゼントを待ち望んでいたんですよ』的な
普段観月が言いそうにもない言葉をもらいたかったというのに。
必死に必死に考えているというのに。
巴の顔からは先ほど悩んだり焦ったりした表情は消えて怒りの色になっている。
それすらも可愛いと内心観月が思っていることには当然気づかない。

「いえ、だって本当のことですしね。
それにもうキミから一番もらいたかったものは頂いていますから、
それ以上、というのは現状ではちょっと難しいかも知れないですね」

巴は何の事を言われているか分からずに、怒りながらもきょとんとする。
自分から一番もらいたかったものというのが分からない。
そんなもの、いつあげただろうか。
忘れているとしたら、それはマズイ。必死に思い出そうとする。

「━━━キミのボクに対する気持ち、ですね。もらったものは」

さすがにこのセリフは自分でも恥ずかしく、観月も少し頬を赤らめる。
色白なだけに、頬の赤味は整った顔が良く引き立つ。
観てる方が恥ずかしくなるくらいにキレイだ。
巴も例外ではなく、釣られて赤くなる。

「……気障ですね、観月さん」

「そうですか?思ったことを口にしただけなんですけどね、ボクは」

「そうですよー…もう、怒る気すらなくしますよ」

巴は肩を落として顔を赤らめたまま照れ笑いの表情だ。
プレゼントを決めかねている件はまったく解決を見ないままなのだが
それすらもどうでも良くなってきてしまう。
しかし、今日決めてしまいたい。
日にちはあるが、ずるずると決まらないままになってしまうのは目に見えている。
いっそのこと、やはり直接聞いてみることにした。
ここまで来てしまってるのだ強情を張るよりはよほど良いだろう。

「で、プレゼントですけど、何がいいんですか?目に見えない物以外で」

そう指定しておかないと、どんどん恥ずかしいことを聞いてしまいそうだ。
期待の眼差しで観月の答えを待つ。
今度は逆に観月が答えに窮する。
観月は比較的裕福な家に生まれたせいか、物欲というものがあまりない。
ものに対する執着やこだわりはあるものの、
それはあくまで自分の力で手に入れることを含めての愉しみであって
他人からもらったりするものではないと思っている。
それがたとえ巴からであってもだ。
ゆえにとっさに答えが出せない。

「観月さん?」

しかし、答えを出さないままでは巴がこのまま引き下がらないのは確かで、
また、自分の為を思う事だと思えば、喜んで答えたいのも確かで。
先ほどの巴の悩みっぷりに激しく共感を覚えてしまった。

「━━━あ…」

視界の端に映るものに視点をあわせる。
観月の脳内にひとつ思い浮かんだ物があった。

「そうですね、欲しいものというかして欲しいことになりますがいいですか?」

「なんでしょうか?私に出来ることでしたら…」

話の先が見えずに巴は曖昧に答える。

「んふっ、そんなに身構えなくてもいいですよ、簡単なことですから。
ほら、あの機械━━━プリクラ撮りませんか?」

彼の指さす方向にはゲームセンターがあった。
カーテンの掛かったおなじみの大型筐体が鎮座している。

「へ?」

全く予期せぬ答えについつい巴は間の抜けた返事をしてしまう。

「これまでキミと一緒の写真を撮ったことがなかったでしょう?
良い記念になるんじゃないかと思いましてね」

「で、でもプリクラなんていつでも撮れますよ?
せっかくのお誕生日なんですから特別な他のことでも…」

プリクラは安い。プリクラは逃げない。
それこそ友人達とはしょっちゅう撮ったりしていて日常的な物だ。
もう少し非日常的な物でもいいのではないかと巴は思う。

「いえ、実は…ってほどでもないでしょうが、ボクは撮ったことがありませんから
せっかくならキミと記念に撮っておきたいと思いましてね。それに、キミも彼氏と撮ったプリクラの一枚でも欲しいでしょう?」

それは確かにそうだなと思い、巴もその言葉にうなずく。

「そうですね、じゃあ、観月さんのお誕生日にはプリクラを撮りに来ましょうか!」

「ええ、そのために一番良い機種をリサーチしておいてくださいね」

「その手の事に関しては任せておいてください!観月さん!」

巴は猛烈に観月の誕生日が待ち遠しいと思った。
心が躍る、とはこういう事を言うのだと思った。
彼女の前にすっと観月の手が伸びる。

「じゃあ、プレゼントが決まったところで、
ここからはいつものようにお茶に行きませんか?
それとも、まだ僕と離れていなければならない用事がありますか?」

よほど今日誘いを断られたことを気にしているような観月のセリフに
巴はついつい吹き出しながら、その手を取る。

「いいえ!」

晴れやかな笑顔で巴は答える。
その笑顔に観月は、これだけでも充分誕生日プレゼントに値すると思ったが
さすがに口にすると巴の反応がとんでもないことになりそうなので
この発言は自粛することにして、
その代わりに手の力を込めて彼女を自分へと引き寄せた。

「キミと過ごす誕生日、楽しみにしていますよ。……約束代わりに……」

観月は約束代わりにと巴にひとつ唇を落とし、いつものカフェへと歩き始めた。



END
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