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この作品は2006年ななせの誕生日のお祝いに「無定期便」の義朝さまから昨年に引き続き頂きました。
義朝さんの所では非公開だなんて、巴より私の方が果報者でしょう。



***

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「ん、どうして観月が来ているんだ」


 かけられた言葉に不機嫌に観月が振り返る。
 どうしてもこうしても、今日が練習日であるからに他ならない。
 巴の誕生日だからという理由で部活を休むほど観月は不真面目な部員ではない。



 ―――これが一年前であったら、日程をずらす程度の事はやったかもしれないが。



「部活がある日に学校に来ていて何がおかしいと言うんですか、赤澤君」


 観月ににらみつけられても赤澤はどこ吹く風である。
 とぼけた口調でこんな妙な事を言った。


「いや、お前昨日から熱を出して寝込んでいたのに無理に部活に出たりしないほうがいいんじゃないのか?」
「は?」


 思わず彼らしくもない間の抜けた返答を返してしまった。
 何を寝ぼけた事を言っているのか。
 観月は昨日どころかもうずっと健康そのものである。

「何を馬鹿な事を……!」


 突然口をふさがれた。
 木更津である。


「そうそう、まだ熱も下がってないのに無茶はしない方がいいだーね」
「う、うん。そう。顔色も良くないみたいだし」

 その横から口を出す柳沢と野村。



 訳が分からない。
 なおも何か言おうとする観月を制して木更津が口を開いた。



「さっき、早川からメールが来てさ」
「早川くんから?」


 それがこの状況となんの関わりがあるというのか。



「赤月、今朝から熱出して寝込んでるそうだぞ」
「……!」




 それでか。
 やっとこの周りの不可解な言動の意味が分かった。
 しかしそれで納得して彼らの思うままに踊るほど観月は単純な性格をしていない。
 彼女に関する事で彼らに借りを作るのは嫌だ。


「それはわかりました。
 しかし、そんな個人的理由ではボクが部活を休む理由にはなりません」


 観月がそんな事を言うくらいは予測が出来ていたのだろう。
 木更津がくすくすと、例の非常に感に触る(今の観月にとっては、だが)笑いをし、赤澤が苦笑いを浮かべる。


「まあそういうな観月。
 別にいつも部活をサボっていいと言っているわけじゃない。
 今日は赤月の誕生日なんだろう? 年に一度の特例だ」
「そうそう、それに観月は勘違いしているみたいだけど、これは僕らの巴への誕生日プレゼントであって、観月に拒否権はないんだよ」



 自分の意思は、この際関係ないのだと。
 したがってこれは貸しにも借りにもならない。

 さすがに何年も付き合っているだけあって観月の性格を良く分かっている。
 無駄な意地を張り通してしまう前に、先手を打たれた。




「…………わかりました。
 キミたちの言うとおり、体調不良で練習に参加しても益はありませんからね。
 失礼する事にします。 言っておきますが、これは特例ですからね。今日が彼女の誕生日で、しかも病気だからですよ。そこのところは勘違いしないでください」



 幸いと言うかなんと言うか、立ち去る観月の背に「やっぱり素直じゃないだーね」と揶揄する柳沢の言葉は届いていない。






 しかし、だ。
 彼女の事を心配するあまりに勢い彼らに乗せられてここまで来てしまったものの、病気のときと言うものは一人でゆっくりと養生していたいものなのではないだろうか。
 早川に案内されて巴のところまで到着した頃にようやくそんな事に気がついた。
 やはり、動転しているらしい。



 巴は、よく眠っている。
 思ったよりは大丈夫そうだ。
 これならば今日一日おとなしく寝ていれば明日には元気になる程度の風邪だろう。



 どちらにせよ、今日はもう練習に戻る事は出来ないのだから、ここでゆっくりと彼女の目が覚めるのを待つ事にしよう。
 それからの事はそれから考えればいい。
 抜けた分の練習は夜にでも自主練習で補おう。

 観月にしては珍しく、そんな場当たり的な事を考えながら、傍らの学習机の椅子を引いて、腰を下ろす。






 たまには、こうやってゆっくり静かに彼女の寝顔を眺めているのも、悪くはない。
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