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本文なし
*peeping lovers02
「巴くん…そんなところで何をしているんです?
まるで不審者みたいに」
呆れたような声の主は巴の背後に立ち、
しゃがんだままの巴を引き起こす。
「あははは、見つかっちゃいましたか~」
見つかったのなら、もうそう言うしかない。
巴は無意味に笑いながら、
立ち上がらせてくれた相手へと身体を向ける。
「いえ…普段のテニス部はどんなカンジなのかな、って思って覗いてました。
こんな所から見学してしまって、スイマセン観月さん」
目の前の相手、観月に素直に謝る。
覗き見はちょっと悪いかな、とはさすがに思っていたので、謝罪の言葉はすんなりと口から出てくる。
「キミはこの春から正式にうちの部員になるんですから、
こんなところからではなく正々堂々と見学すればいいものを…キミときたら…」
観月の説教スイッチがONになろうとしていたその時、
「やっぱり赤月だーね、さっきちらっと見えた影はお前だっただーね」
「柳沢先輩!打ち合っている途中で急に抜けないでくださいよっ」
いつのまにか、見知った顔のルドルフテニス部部員も周囲に集まってきていた。
「まったく、赤月って本当に何考えてるか分からないわね…バカなんじゃないの?」
「は、早川さんの意地悪ーっ」
「クスクス…いつもキミはびっくり箱みたいに唐突で面白いね」
急に和気藹々とした空気に包まれて、巴は少しホッとする。
転校先の学校がこういう人たちのいるところで良かったと心から思った。
「━━━コホンッ」
観月が怒気をはらんだ咳払いを一つ。
周囲の空気はすっと下がる。
「皆さん…練習中だと言うことをお忘れのようですね?
メニューが物足りないというのなら、もう少し増やしてあげましょう。
学校外周1周走っていらっしゃい」
「ゲ…赤月お前が来るのがイケナイだーね!」
「おや?無駄口を叩く余裕もあるみたいですね、もう1周追加しますか?
こういう事は青学の手塚くんの専売特許でボクとしては好みではないですけどね」
「グッ…1周してくるだーね!」
悔しそうに走っていく部員を眺めながら、そうそう…と観月は巴に向き合う。
「巴くん、キミもこんな所でのぞき見する暇があるみたいですからね、
キミも彼らと一緒に走ってきたらいいですよ」
それは、先ほど初めて見たばかりの観月の甘さのない顔。
巴は思わずドキッとする。
「行くんですか?行かないんですか?
キミもここに来たからには立派なテニス部員ですよ。ボクの指示に従ってください」
普段とは違う冷ややかさのある笑顔で見られ、少し背筋に寒気が走る。
怖い。
「いっ行ってきますっ!」
学校への挨拶も兼ねてきたのだから、巴は青学の制服のままだったのが、
そのまま制服姿に靴はローファーのまま駆け出す。
外周といえばせいぜい2~3キロあればいい、それならその格好で充分だった。
観月の普段見ない顔が自分に向けられたことに驚き、
必死に足を動かし校外へ、先を走る部員達へと追いついていった。
とんだとばっちりだ、などとボヤキながら外周を走り終えた部員達はコートに戻った。
コートの外にはウォームアップ無しで走ったためにいつもより息が整わない巴と
その姿を面白そうに眺めている観月だけが残った。
「で?先ほどの質問ですけど本当のところはこんな所で何をしているんですか?
見学だけならこんな所から見なくても良い訳ですよね?
それも、ボクに内緒にしてルドルフにやってこなくても」
巴にとって非常に答えにくいような質問をされる。
この場で「観月さんをみたかったからです」と答えて良いのかどうかに悩む。
なぜならコートの中から視線、耳ダンボな空気を感じるからだ。
「━━━チッ」
観月もその気配に気付き、ひとつ舌打ちしてから巴の手を引っ張って
部員達の目の届かないところまで歩いていく。
「赤澤くん、彼らがコートから出ないように見張っててくださいよっ!」
そう一言残すのも忘れずに。
校舎の裏まで二人やって来た。
ここなら確かに誰かの目を気にする必要もあまりないだろう。
「それで?さっきの答えは?」
観月は巴の顔をのぞき込みながら質問する。
巴は少し頬を赤らめながらそれに答える。言葉を選びながら。
「ええと…観月さんが見たかったんです、ルドルフの中での。
でも、私がいるとどうしても観月さんはいつもの観月さんになっちゃうから…。
ああっなんて言うか…その、上手く言えないんですけど、
私もきっとそうなんですけど、観月さんは私がいると優しい顔になっちゃうから
それだとルドルフにいるいつもの観月さんの顔とは違うだろうというか
せっかくだから、いつもは見せてくれない顔を見ちゃえというか」
ああ、本当に日本語って難しい、なんて言えば分かってもらえるのか。
混乱しながら、なにか良い言葉はないかと必死に脳を回転させる。
「━━━何となく言いたいことは分かりましたよ。
つまりキミが知らないボクの顔が見たかった…そういう訳ですか」
つまるところそう言うことだったので、巴の顔が明るくなる。
「確かにボクはスクールではコーチがいるのでそうでもないですけど
部活では後輩達の指導もしますから、いつも厳しい顔になっているでしょうね。
もちろんボク自身がそう努めている訳ですが、そんなボクが見たかったと?」
「そう!そういうことなんです。
なんというか、その…………好きな人の顔なら色々知りたいというか」
思わず段々言葉を小さくしながら巴はそう答えた。
その言葉を耳にして観月も少なからず動揺する。
自分がデータマンだと言うこともあるが、同じ気持ちを持っているからだ。
自分の介在しない場━━━青学での彼女の顔を見たいと思っていた。
それは偵察という綺麗な大義名分で達成されてはいたが、
その事は彼女は知らないままだ。
偵察後、自分のやっていることがストーカーじみていることに気づいて
彼女に伝えられないままになっている。
これから自分側、ルドルフ側の人間としてそばに在り続けるには
いっそのこと話しておいた方が良いのではないか、今がその機会ではないか?
少し体内をよぎった緊張を和らげるため大きく息を吸い、吐く。
「実は…その、言いづらいんですけどね…。
ボクもキミと同じようなこと思い、そしてそれをを既に実行していますから、
━━━そういうことならあまりキミをきつくは咎められませんね」
実に言い難そうに観月は巴にそう告白をした。
「観月さんが?」
もちろん、青学に偵察に来るぐらいならしているだろうとは巴も思っていたが、
まさか自分と同じ気持ちで自分のことを見に来ていたとは。
ともすると、ストーカーともとれる行為だ。
常識人の観月がそんなことをするとは思わなかったし
今日のこの事もバレると怒られるかも知れないと身を竦めていたというのに。
目を丸くしたまま、あまりの驚きに二の句が継げないでいた。
「で、どうでしたか?キミが見たボクは?」
観月は巴に問いかける。
巴の目に映った普段の自分の姿はどうだったのだろう?
当然ながら彼女に普段見せる自分とは明らかに違う。
自分に二面性があるとは思わないが、恋人に見せたい表情と
テニスに向き合っている、指導しているときの姿は当然違う。
厳しいし、真摯だ。
その点を怖いと捉えられても酷いと捉えられても仕方がない。
巴がルドルフに入り、共に練習するようになると当然ながら見せざるを得ない面で。
スクールの時のように巴に見せたい自分を演じる余裕など無いならば。
いつか来るその時に嫌われてしまうのなら、いっそ今嫌われてしまえと
心の中で何者かが━━━もう一人の観月はじめが囁いている。
「私が見た、観月さん…ですか?」
不意の質問に、巴は脳を必死に働かせる。
なんて言えばこの人を喜ばせられるか、満足させられるか?
自分の思いを素直に口にして良いのか?
恋愛経験値のない巴にはわからない。わからないながら必死に考える。
好きだから、嫌われたくない。ただそれだけなのだけれど。
自分も同じ気持ちを持っていた━━━観月はそう言うけれど。
自他認める裏表の無さを持つ自分はどんな時でもこっそり見られても平気だけれど
きっと観月は違う。
プライドもあるし、色んな表情を人によって使い分ける人だから。
やはり嫌悪感ぐらいはあるんじゃ?
そう考えてしまうのは仕方がない。
だけれど、自分が答えられる答えは、ひとつしかないことに考えが至る。
「私が見た観月さんは、ドキドキしました」
「ドキドキ…ですか?」
観月こそまさに今、そのセリフにドキドキしてしまう。
「怖い」とか「二重人格」とか
そんなことを言われるのではないかと思っていた。
それが「ドキドキ」だとは。
彼女は一体何を言い出すのだろう。
「はい、私の知らない観月さんがいて、もちろん違和感もあったんですけど、
テニスに真剣に向き合ってる知らない顔の男の人にドキドキしました。
あれはあれで、いいかなーなんて。
もし、私が元からルドルフの生徒だったら、
もっと前から知ることが出来たはずだと思うとちょっと悔しいですね」
生き生きとした目を観月に向けて巴はそう答える。
いかにも巴らしい答えだと観月は思った。
良い面ばかりを見いだした模範解答━━━実に彼女らしい。
思わず口元が緩む。
「訊くだけ訊いて、観月さんこそ、どうだったんですか?
こっそり私の知らないところで、見ていたんでしょう?」
好奇心を前面に押し出した表情で、巴は観月に問いかける。
自分だって知りたい。
観月の目に映った自分のことを。
「━━━見たくなかったですね」
その一言が巴に突き刺さった。
しかし、言葉を続けようとする観月の気配に押し黙って言葉を促す。
「ボク以外の人間と、笑っているキミ。
ボク以外の人間にフォームを直されているキミ。
ボク以外の人間にデータを取られているキミ━━━実に不愉快です」
「……え?」
「キミの隣で笑うのはボク。
テニスを教えたりデータを取るのもボク。
笑ってくれても構いませんよ。キミの隣にいるのはボクでないと許さない」
つまり、それは。
俗に言う…?
「もしかして、嫉妬…してくれたんですか?観月さん」
少し憮然とした表情で観月は答える。
「もしかしなくてもそうですよ。
━━━ボクは思い知りましたよ、自分の嫉妬深さをね。
自分以外の誰かに向けるキミの笑顔、キミの眼差し。
それを黙って端から見ているのはとても苦痛です。
だからキミをこっそり見たのは1度きり。もう二度とやりたくありません」
そして巴の目を見つめて問いかける。
「キミはボクを見てそんなことは思わなかったですか?
これはボクが単にワガママなだけですか?」
突然の問いに巴は逡巡する。
彼に伝わる上手い言葉が紡げるか、一生懸命考えを巡らせて話す。
「私の見た観月さんはテニスに真剣に向き合ってる観月さんで、
それは誰に対しても、私に対してすら公平なもの…ですよね?
だからいいんです。テニスに嫉妬するようなものですし。
もし、いま私に向けられている観月さんの、その表情、眼差し、声。
それが他人に向けられているなら私も許せないと思うかも知れませんけど」
「そう…ですか?」
なんとなく、観月は自分の嫉妬すら許されたようでホッとした表情になる。
「そうですよ。でも、観月さんも嫉妬なんてする必要なんてないのに。
だって、私がいま観月さんに向けている眼差し、
これは観月さんの前でしか見せないんですよ?
なんてったって恋するオトメの眼差しですから他の人には見せられません!
だから、普通モードの私を見て嫉妬なんてする必要ないんですから」
「スイマセン、なんだかボクは焦りすぎましたね。
ボクはキミのことを好きで、信じている筈なのに…嫉妬なんて」
すっと巴を自らの身体に引き寄せて、彼女の耳元で言葉を続ける。
「でもね、ボクは基本的に嫉妬深い生き物ですから仕方ないんですよ。
いつもキミをそばに感じられると思ってルドルフに呼びましたけど
━━━もしかしたら覗き見どころか、
いつも目についてボクの神経が持たないかもしれませんね」
ふふふ、と巴は笑いを含みながらそれに応える。
「でも、嫉妬してくれている間は私のことを想ってくれているって事ですし
それだったらいっそのこと、私のことだけを見て神経衰弱にでもなってください」
「おや、結構言いますね」
「はいっ」
宣戦布告とばかりに軽い口づけを交わして、観月は身体を翻す。
「さて、ボクはもう練習に戻りますよ、キミもいらっしゃい。
今度は覗き見るのではなくて堂々とボクのことを見ていなさい。
━━━その内、キミだってテニスにすら嫉妬するようになりますよ。
なにせ、テニスに向かうボクはキミがドキドキするほど格好良いようですから」
END
*peeping lovers02
「巴くん…そんなところで何をしているんです?
まるで不審者みたいに」
呆れたような声の主は巴の背後に立ち、
しゃがんだままの巴を引き起こす。
「あははは、見つかっちゃいましたか~」
見つかったのなら、もうそう言うしかない。
巴は無意味に笑いながら、
立ち上がらせてくれた相手へと身体を向ける。
「いえ…普段のテニス部はどんなカンジなのかな、って思って覗いてました。
こんな所から見学してしまって、スイマセン観月さん」
目の前の相手、観月に素直に謝る。
覗き見はちょっと悪いかな、とはさすがに思っていたので、謝罪の言葉はすんなりと口から出てくる。
「キミはこの春から正式にうちの部員になるんですから、
こんなところからではなく正々堂々と見学すればいいものを…キミときたら…」
観月の説教スイッチがONになろうとしていたその時、
「やっぱり赤月だーね、さっきちらっと見えた影はお前だっただーね」
「柳沢先輩!打ち合っている途中で急に抜けないでくださいよっ」
いつのまにか、見知った顔のルドルフテニス部部員も周囲に集まってきていた。
「まったく、赤月って本当に何考えてるか分からないわね…バカなんじゃないの?」
「は、早川さんの意地悪ーっ」
「クスクス…いつもキミはびっくり箱みたいに唐突で面白いね」
急に和気藹々とした空気に包まれて、巴は少しホッとする。
転校先の学校がこういう人たちのいるところで良かったと心から思った。
「━━━コホンッ」
観月が怒気をはらんだ咳払いを一つ。
周囲の空気はすっと下がる。
「皆さん…練習中だと言うことをお忘れのようですね?
メニューが物足りないというのなら、もう少し増やしてあげましょう。
学校外周1周走っていらっしゃい」
「ゲ…赤月お前が来るのがイケナイだーね!」
「おや?無駄口を叩く余裕もあるみたいですね、もう1周追加しますか?
こういう事は青学の手塚くんの専売特許でボクとしては好みではないですけどね」
「グッ…1周してくるだーね!」
悔しそうに走っていく部員を眺めながら、そうそう…と観月は巴に向き合う。
「巴くん、キミもこんな所でのぞき見する暇があるみたいですからね、
キミも彼らと一緒に走ってきたらいいですよ」
それは、先ほど初めて見たばかりの観月の甘さのない顔。
巴は思わずドキッとする。
「行くんですか?行かないんですか?
キミもここに来たからには立派なテニス部員ですよ。ボクの指示に従ってください」
普段とは違う冷ややかさのある笑顔で見られ、少し背筋に寒気が走る。
怖い。
「いっ行ってきますっ!」
学校への挨拶も兼ねてきたのだから、巴は青学の制服のままだったのが、
そのまま制服姿に靴はローファーのまま駆け出す。
外周といえばせいぜい2~3キロあればいい、それならその格好で充分だった。
観月の普段見ない顔が自分に向けられたことに驚き、
必死に足を動かし校外へ、先を走る部員達へと追いついていった。
とんだとばっちりだ、などとボヤキながら外周を走り終えた部員達はコートに戻った。
コートの外にはウォームアップ無しで走ったためにいつもより息が整わない巴と
その姿を面白そうに眺めている観月だけが残った。
「で?先ほどの質問ですけど本当のところはこんな所で何をしているんですか?
見学だけならこんな所から見なくても良い訳ですよね?
それも、ボクに内緒にしてルドルフにやってこなくても」
巴にとって非常に答えにくいような質問をされる。
この場で「観月さんをみたかったからです」と答えて良いのかどうかに悩む。
なぜならコートの中から視線、耳ダンボな空気を感じるからだ。
「━━━チッ」
観月もその気配に気付き、ひとつ舌打ちしてから巴の手を引っ張って
部員達の目の届かないところまで歩いていく。
「赤澤くん、彼らがコートから出ないように見張っててくださいよっ!」
そう一言残すのも忘れずに。
校舎の裏まで二人やって来た。
ここなら確かに誰かの目を気にする必要もあまりないだろう。
「それで?さっきの答えは?」
観月は巴の顔をのぞき込みながら質問する。
巴は少し頬を赤らめながらそれに答える。言葉を選びながら。
「ええと…観月さんが見たかったんです、ルドルフの中での。
でも、私がいるとどうしても観月さんはいつもの観月さんになっちゃうから…。
ああっなんて言うか…その、上手く言えないんですけど、
私もきっとそうなんですけど、観月さんは私がいると優しい顔になっちゃうから
それだとルドルフにいるいつもの観月さんの顔とは違うだろうというか
せっかくだから、いつもは見せてくれない顔を見ちゃえというか」
ああ、本当に日本語って難しい、なんて言えば分かってもらえるのか。
混乱しながら、なにか良い言葉はないかと必死に脳を回転させる。
「━━━何となく言いたいことは分かりましたよ。
つまりキミが知らないボクの顔が見たかった…そういう訳ですか」
つまるところそう言うことだったので、巴の顔が明るくなる。
「確かにボクはスクールではコーチがいるのでそうでもないですけど
部活では後輩達の指導もしますから、いつも厳しい顔になっているでしょうね。
もちろんボク自身がそう努めている訳ですが、そんなボクが見たかったと?」
「そう!そういうことなんです。
なんというか、その…………好きな人の顔なら色々知りたいというか」
思わず段々言葉を小さくしながら巴はそう答えた。
その言葉を耳にして観月も少なからず動揺する。
自分がデータマンだと言うこともあるが、同じ気持ちを持っているからだ。
自分の介在しない場━━━青学での彼女の顔を見たいと思っていた。
それは偵察という綺麗な大義名分で達成されてはいたが、
その事は彼女は知らないままだ。
偵察後、自分のやっていることがストーカーじみていることに気づいて
彼女に伝えられないままになっている。
これから自分側、ルドルフ側の人間としてそばに在り続けるには
いっそのこと話しておいた方が良いのではないか、今がその機会ではないか?
少し体内をよぎった緊張を和らげるため大きく息を吸い、吐く。
「実は…その、言いづらいんですけどね…。
ボクもキミと同じようなこと思い、そしてそれをを既に実行していますから、
━━━そういうことならあまりキミをきつくは咎められませんね」
実に言い難そうに観月は巴にそう告白をした。
「観月さんが?」
もちろん、青学に偵察に来るぐらいならしているだろうとは巴も思っていたが、
まさか自分と同じ気持ちで自分のことを見に来ていたとは。
ともすると、ストーカーともとれる行為だ。
常識人の観月がそんなことをするとは思わなかったし
今日のこの事もバレると怒られるかも知れないと身を竦めていたというのに。
目を丸くしたまま、あまりの驚きに二の句が継げないでいた。
「で、どうでしたか?キミが見たボクは?」
観月は巴に問いかける。
巴の目に映った普段の自分の姿はどうだったのだろう?
当然ながら彼女に普段見せる自分とは明らかに違う。
自分に二面性があるとは思わないが、恋人に見せたい表情と
テニスに向き合っている、指導しているときの姿は当然違う。
厳しいし、真摯だ。
その点を怖いと捉えられても酷いと捉えられても仕方がない。
巴がルドルフに入り、共に練習するようになると当然ながら見せざるを得ない面で。
スクールの時のように巴に見せたい自分を演じる余裕など無いならば。
いつか来るその時に嫌われてしまうのなら、いっそ今嫌われてしまえと
心の中で何者かが━━━もう一人の観月はじめが囁いている。
「私が見た、観月さん…ですか?」
不意の質問に、巴は脳を必死に働かせる。
なんて言えばこの人を喜ばせられるか、満足させられるか?
自分の思いを素直に口にして良いのか?
恋愛経験値のない巴にはわからない。わからないながら必死に考える。
好きだから、嫌われたくない。ただそれだけなのだけれど。
自分も同じ気持ちを持っていた━━━観月はそう言うけれど。
自他認める裏表の無さを持つ自分はどんな時でもこっそり見られても平気だけれど
きっと観月は違う。
プライドもあるし、色んな表情を人によって使い分ける人だから。
やはり嫌悪感ぐらいはあるんじゃ?
そう考えてしまうのは仕方がない。
だけれど、自分が答えられる答えは、ひとつしかないことに考えが至る。
「私が見た観月さんは、ドキドキしました」
「ドキドキ…ですか?」
観月こそまさに今、そのセリフにドキドキしてしまう。
「怖い」とか「二重人格」とか
そんなことを言われるのではないかと思っていた。
それが「ドキドキ」だとは。
彼女は一体何を言い出すのだろう。
「はい、私の知らない観月さんがいて、もちろん違和感もあったんですけど、
テニスに真剣に向き合ってる知らない顔の男の人にドキドキしました。
あれはあれで、いいかなーなんて。
もし、私が元からルドルフの生徒だったら、
もっと前から知ることが出来たはずだと思うとちょっと悔しいですね」
生き生きとした目を観月に向けて巴はそう答える。
いかにも巴らしい答えだと観月は思った。
良い面ばかりを見いだした模範解答━━━実に彼女らしい。
思わず口元が緩む。
「訊くだけ訊いて、観月さんこそ、どうだったんですか?
こっそり私の知らないところで、見ていたんでしょう?」
好奇心を前面に押し出した表情で、巴は観月に問いかける。
自分だって知りたい。
観月の目に映った自分のことを。
「━━━見たくなかったですね」
その一言が巴に突き刺さった。
しかし、言葉を続けようとする観月の気配に押し黙って言葉を促す。
「ボク以外の人間と、笑っているキミ。
ボク以外の人間にフォームを直されているキミ。
ボク以外の人間にデータを取られているキミ━━━実に不愉快です」
「……え?」
「キミの隣で笑うのはボク。
テニスを教えたりデータを取るのもボク。
笑ってくれても構いませんよ。キミの隣にいるのはボクでないと許さない」
つまり、それは。
俗に言う…?
「もしかして、嫉妬…してくれたんですか?観月さん」
少し憮然とした表情で観月は答える。
「もしかしなくてもそうですよ。
━━━ボクは思い知りましたよ、自分の嫉妬深さをね。
自分以外の誰かに向けるキミの笑顔、キミの眼差し。
それを黙って端から見ているのはとても苦痛です。
だからキミをこっそり見たのは1度きり。もう二度とやりたくありません」
そして巴の目を見つめて問いかける。
「キミはボクを見てそんなことは思わなかったですか?
これはボクが単にワガママなだけですか?」
突然の問いに巴は逡巡する。
彼に伝わる上手い言葉が紡げるか、一生懸命考えを巡らせて話す。
「私の見た観月さんはテニスに真剣に向き合ってる観月さんで、
それは誰に対しても、私に対してすら公平なもの…ですよね?
だからいいんです。テニスに嫉妬するようなものですし。
もし、いま私に向けられている観月さんの、その表情、眼差し、声。
それが他人に向けられているなら私も許せないと思うかも知れませんけど」
「そう…ですか?」
なんとなく、観月は自分の嫉妬すら許されたようでホッとした表情になる。
「そうですよ。でも、観月さんも嫉妬なんてする必要なんてないのに。
だって、私がいま観月さんに向けている眼差し、
これは観月さんの前でしか見せないんですよ?
なんてったって恋するオトメの眼差しですから他の人には見せられません!
だから、普通モードの私を見て嫉妬なんてする必要ないんですから」
「スイマセン、なんだかボクは焦りすぎましたね。
ボクはキミのことを好きで、信じている筈なのに…嫉妬なんて」
すっと巴を自らの身体に引き寄せて、彼女の耳元で言葉を続ける。
「でもね、ボクは基本的に嫉妬深い生き物ですから仕方ないんですよ。
いつもキミをそばに感じられると思ってルドルフに呼びましたけど
━━━もしかしたら覗き見どころか、
いつも目についてボクの神経が持たないかもしれませんね」
ふふふ、と巴は笑いを含みながらそれに応える。
「でも、嫉妬してくれている間は私のことを想ってくれているって事ですし
それだったらいっそのこと、私のことだけを見て神経衰弱にでもなってください」
「おや、結構言いますね」
「はいっ」
宣戦布告とばかりに軽い口づけを交わして、観月は身体を翻す。
「さて、ボクはもう練習に戻りますよ、キミもいらっしゃい。
今度は覗き見るのではなくて堂々とボクのことを見ていなさい。
━━━その内、キミだってテニスにすら嫉妬するようになりますよ。
なにせ、テニスに向かうボクはキミがドキドキするほど格好良いようですから」
END
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