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観月さんお誕生日祝い。巴視点。
***
「ふわーーーぁ」
こんなに早起きをしたのは久しぶりで、大きなあくびをこらえることが出来ない。
結局、涙目になりながら大きなあくびを一つ。
よかった。目の前のドアを涙で歪ませながらチェックする。
観月さんはまだ出てこない。
私はほっと胸を撫で下ろす。
こんなところを観月さんに見られたら、真田さんよろしく「たるんでますね」って言われそうで怖い。
私こと赤月巴はいまストーカーのごとく聖ルドルフ学院高等部男子寮の前に立っている。
しかも、夜も明けたばかりの早朝だ。
先ほどから犬の散歩の人やウォーキングの人をぼちぼち見つけるようになったけれども、それでも街はまだ半分眠っている状態で。
私もようやく動き出した電車に乗って男子寮まできていた。
それは何故かと訊かれたら、答えに迷うことはない。
今日は5月27日。
観月さんの誕生日だから。
昨日寝る前に急に朝一番におめでとうを言いたくなっていまに至るってところかな。
あ、目の前のドアの中から人影のようなものが見える。
誰が出てくるのか見定めるべく、半透明のガラス製のドアを凝視する。
そのシルエットは、視力が2.0以上らしい(なぜならそれ以上は測定してくれなかったから)この目が見間違えるはずもない。
ましてや自分の好きな人ならば、なおさら。
しばらくして出てきた姿はまごうことなく、観月さんそのもので。
出てくることを予想していたのに、実際こうやって出てくるとドキンと胸が弾んだ。
どどどうしよう……何を言おうかな……。
そうやって、パニくってる間にもこちらに向かってくる。
そりゃそうか、なにも数百メートル先に居たってわけじゃないから向こうだって気づくよね。
「巴くん、キミはなにをしてるんですか、こんなところで」
観月さんは早朝だからか、声を潜めて私に声をかけた。
だんだん近づいてくる。
真新しい高等部の制服姿の観月さんはまだ見慣れないようでドキドキする。
新入生の観月さんって想像できないけれど、どういう生活してるんだろう。
そんなことを思っている間にもうすでに目の前に立っていた。
「おはようございます、観月さん」
「おはよう、巴くん。今朝も早くから元気なものですね」
え!?
何の変哲もないただの朝の挨拶に聞こえるけれども、私は驚いてしまった。
なぜって、絶対「こんな朝早くから待ち伏せとは、キミはバカとしか言いようがありませんね」って言われるんだと思ったから。
でもそうじゃなくって穏やかな笑顔すら見せている。
これまでの経験上、どうしたんだろって疑わざるを得ないっていうか。
「──なにビックリしたような顔をしてるんですか」
「だって、……開口一番観月さんに怒られるんじゃないかなって、思ってましたから……」
これを言ってしまえば、やっぱり怒られちゃうかもしれないなあと思ったけど、観月さんには嘘をつきたくない。
正直に言うことにした。
「その、正直な物言いをキミの美点であると言うべきなんでしょうね」
ちょっとこめかみをヒクつかせながら怒るかなあと思ったけど、観月さんはそれでも落ち着いてそう言った。
もう、ホントどうしたんだろ。
もちろん私だってMってワケじゃないから、優しい観月さんは嬉しいけど、なんかヘン。
「んふっ、さすがに自分の誕生日が今日だってことは理解していますよ、その日の朝からキミが待っているのは何故か想像できますから」
そりゃそうでしょうとも。
「ある意味シナリオ通りと言うか──いえ、そんなシナリオは必要ないんですが、それでもキミの気持ちはボクだってとても嬉しいです。朝からかわいい自分の彼女が健気に待っていることを喜ばない男が居るでしょうか」
う~~~~わ~~~~! 『かわいい彼女』!!! 天にも昇る気持ちかも。
喜ばせたい観月さんに喜ばせてもらっちゃダメなんだろうけど。
「だから、今日はキミの無鉄砲とも言える行為を注意しないようにしようかと──ま、あくまで今日だけですけどね。キミがボクを驚かせたり喜ばせようとしたりしたかったのは伝わりましたから、大目に見ることにしますよ。ただし……」
「ただし?」
なんだろ?
「男子寮の前で待ち伏せなんて、今日限りでお願いしますよ」
「え、なんでですか?」
「なんで、って……そりゃ、同じ寮の飢えた男どもにキミの姿を見せることも勿体無いですからね。つまらないヤキモチだとキミは笑いますか?」
まさか! そんなこと笑えるわけないよ。ってか、観月さん朝から濃いこと言うなあ!
慌てて否定するべくブンブンと頭を横に振った。
あ、観月さん満足そうに笑ってる。
「じゃあ、行きましょうか」
私の右手を取って促した。
「どこへですか?」
「どこへって、何言ってるんですか。学校に決まってます、ボクの誕生日だからといって朝練は待ってくれませんよ」
さすがに「何をしにきたんですか、キミは」と少しあきれた表情に変わり、でもそれはすぐにいつもの表情に──いや、いつもの表情よりも柔らかく甘い表情になった。
ああ、こういう観月さんの顔は滅多にみることが出来ないけれども、それだけに私はこの顔に弱い。
もうどうしてくれようって思うくらい。
「……そうでした」
観月さんと手をつなぐのは珍しい。
ベタつくような付き合いも手が不自由するのも苦手だと知っているから仕方ないなと思ってたけど、どうやら今日は特別らしい。
「観月さん、手、良いんですか?」
気づかないふりして、そのままつないで歩いちゃえば良かったんだろうけど、これまた正直に訊いちゃう。
思ったことをすぐに口に出すことを観月さんは私の美点だって言ってくれたけど、これはさすがにまずいかなと思うな。
それが表情に出ちゃったのか、観月さんは面白そうに私を眺めてから、「んふっ」と軽く笑った。
「今日はボクの誕生日で、キミはボクをお祝いしてくれるつもりなんでしょう? じゃあ手ぐらい繋がせて欲しいと甘えたっていいですよね」
ギュッとさっきよりも強く手を握られる。
その少しひんやりして思ったよりも大きくて男の人らしい手を私も握り返した。
「もちろんです、観月さんの手ならいくらでも握っちゃいたいです!──でも、観月さんの誕生日なのに私ばっかり嬉しいみたいです」
「そんなこと、ないですよ」
「そうですか?」
「ええ、放課後にもっと嬉しくさせていただきますから、覚悟、しておいてくださいね」
観月さんはそう言って微笑んだ。
覚悟、させていただきます。
END
***
「ふわーーーぁ」
こんなに早起きをしたのは久しぶりで、大きなあくびをこらえることが出来ない。
結局、涙目になりながら大きなあくびを一つ。
よかった。目の前のドアを涙で歪ませながらチェックする。
観月さんはまだ出てこない。
私はほっと胸を撫で下ろす。
こんなところを観月さんに見られたら、真田さんよろしく「たるんでますね」って言われそうで怖い。
私こと赤月巴はいまストーカーのごとく聖ルドルフ学院高等部男子寮の前に立っている。
しかも、夜も明けたばかりの早朝だ。
先ほどから犬の散歩の人やウォーキングの人をぼちぼち見つけるようになったけれども、それでも街はまだ半分眠っている状態で。
私もようやく動き出した電車に乗って男子寮まできていた。
それは何故かと訊かれたら、答えに迷うことはない。
今日は5月27日。
観月さんの誕生日だから。
昨日寝る前に急に朝一番におめでとうを言いたくなっていまに至るってところかな。
あ、目の前のドアの中から人影のようなものが見える。
誰が出てくるのか見定めるべく、半透明のガラス製のドアを凝視する。
そのシルエットは、視力が2.0以上らしい(なぜならそれ以上は測定してくれなかったから)この目が見間違えるはずもない。
ましてや自分の好きな人ならば、なおさら。
しばらくして出てきた姿はまごうことなく、観月さんそのもので。
出てくることを予想していたのに、実際こうやって出てくるとドキンと胸が弾んだ。
どどどうしよう……何を言おうかな……。
そうやって、パニくってる間にもこちらに向かってくる。
そりゃそうか、なにも数百メートル先に居たってわけじゃないから向こうだって気づくよね。
「巴くん、キミはなにをしてるんですか、こんなところで」
観月さんは早朝だからか、声を潜めて私に声をかけた。
だんだん近づいてくる。
真新しい高等部の制服姿の観月さんはまだ見慣れないようでドキドキする。
新入生の観月さんって想像できないけれど、どういう生活してるんだろう。
そんなことを思っている間にもうすでに目の前に立っていた。
「おはようございます、観月さん」
「おはよう、巴くん。今朝も早くから元気なものですね」
え!?
何の変哲もないただの朝の挨拶に聞こえるけれども、私は驚いてしまった。
なぜって、絶対「こんな朝早くから待ち伏せとは、キミはバカとしか言いようがありませんね」って言われるんだと思ったから。
でもそうじゃなくって穏やかな笑顔すら見せている。
これまでの経験上、どうしたんだろって疑わざるを得ないっていうか。
「──なにビックリしたような顔をしてるんですか」
「だって、……開口一番観月さんに怒られるんじゃないかなって、思ってましたから……」
これを言ってしまえば、やっぱり怒られちゃうかもしれないなあと思ったけど、観月さんには嘘をつきたくない。
正直に言うことにした。
「その、正直な物言いをキミの美点であると言うべきなんでしょうね」
ちょっとこめかみをヒクつかせながら怒るかなあと思ったけど、観月さんはそれでも落ち着いてそう言った。
もう、ホントどうしたんだろ。
もちろん私だってMってワケじゃないから、優しい観月さんは嬉しいけど、なんかヘン。
「んふっ、さすがに自分の誕生日が今日だってことは理解していますよ、その日の朝からキミが待っているのは何故か想像できますから」
そりゃそうでしょうとも。
「ある意味シナリオ通りと言うか──いえ、そんなシナリオは必要ないんですが、それでもキミの気持ちはボクだってとても嬉しいです。朝からかわいい自分の彼女が健気に待っていることを喜ばない男が居るでしょうか」
う~~~~わ~~~~! 『かわいい彼女』!!! 天にも昇る気持ちかも。
喜ばせたい観月さんに喜ばせてもらっちゃダメなんだろうけど。
「だから、今日はキミの無鉄砲とも言える行為を注意しないようにしようかと──ま、あくまで今日だけですけどね。キミがボクを驚かせたり喜ばせようとしたりしたかったのは伝わりましたから、大目に見ることにしますよ。ただし……」
「ただし?」
なんだろ?
「男子寮の前で待ち伏せなんて、今日限りでお願いしますよ」
「え、なんでですか?」
「なんで、って……そりゃ、同じ寮の飢えた男どもにキミの姿を見せることも勿体無いですからね。つまらないヤキモチだとキミは笑いますか?」
まさか! そんなこと笑えるわけないよ。ってか、観月さん朝から濃いこと言うなあ!
慌てて否定するべくブンブンと頭を横に振った。
あ、観月さん満足そうに笑ってる。
「じゃあ、行きましょうか」
私の右手を取って促した。
「どこへですか?」
「どこへって、何言ってるんですか。学校に決まってます、ボクの誕生日だからといって朝練は待ってくれませんよ」
さすがに「何をしにきたんですか、キミは」と少しあきれた表情に変わり、でもそれはすぐにいつもの表情に──いや、いつもの表情よりも柔らかく甘い表情になった。
ああ、こういう観月さんの顔は滅多にみることが出来ないけれども、それだけに私はこの顔に弱い。
もうどうしてくれようって思うくらい。
「……そうでした」
観月さんと手をつなぐのは珍しい。
ベタつくような付き合いも手が不自由するのも苦手だと知っているから仕方ないなと思ってたけど、どうやら今日は特別らしい。
「観月さん、手、良いんですか?」
気づかないふりして、そのままつないで歩いちゃえば良かったんだろうけど、これまた正直に訊いちゃう。
思ったことをすぐに口に出すことを観月さんは私の美点だって言ってくれたけど、これはさすがにまずいかなと思うな。
それが表情に出ちゃったのか、観月さんは面白そうに私を眺めてから、「んふっ」と軽く笑った。
「今日はボクの誕生日で、キミはボクをお祝いしてくれるつもりなんでしょう? じゃあ手ぐらい繋がせて欲しいと甘えたっていいですよね」
ギュッとさっきよりも強く手を握られる。
その少しひんやりして思ったよりも大きくて男の人らしい手を私も握り返した。
「もちろんです、観月さんの手ならいくらでも握っちゃいたいです!──でも、観月さんの誕生日なのに私ばっかり嬉しいみたいです」
「そんなこと、ないですよ」
「そうですか?」
「ええ、放課後にもっと嬉しくさせていただきますから、覚悟、しておいてくださいね」
観月さんはそう言って微笑んだ。
覚悟、させていただきます。
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