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「恋かしら」と対になる作品。
*****
荒く白く吐き出される息が夜の闇に融けて消える。
その行為、果たしてどれくらいの時間繰り返しただろう。
夕方、よれよれの姿で帰っていった彼女を見送って経つこと数時間。
気がついたら足がこの家の前まで動いていた。
赤月巴の住まう、家。
一度はこの自分が切って捨てた少女だ。
ボロボロになってもいいと、身体を傷めてしまえと思ったほどに。
心配する理由はないはずだ。
けれども、放っておけなかった。
放そうとも人なつっこい笑みでまた近寄ってくる。
打算で生きているつもりだった自分の中にまでいつの間にか入り込んでいた。
自分とは違って打算という言葉とは無縁の少女。
だから、結局再び手を差し出してしまったのだ。
彼女再生のために一緒に頑張ろうと言葉に出してしまった。
ライバル校の生徒の再生などなんのメリットも無いというのに。
彼女は迷いもなくその手を取ったように思えた。
許されたのだと、知った。
越前家は既にどの部屋も暗く静かだった。
深夜1時、それも当然だ。
けれどもそのことに観月は安堵した。
きっとこの暗闇の中で、彼女は━━━巴は安らいでいるのだ。
日が昇るまでの、ほんのわずかな休息。
今頃彼女は全身の筋肉痛と闘い、寝返りを打つのも辛いに違いない。
その苦痛が少しでも楽になっていればいいと願う。
明日の朝、待ち合わせのテニスコートに彼女がやってくるときは
いつものように晴れ晴れとした笑顔で自分のところまで駆けてきて欲しいと思う。
「……まったく、バカみたいですね」
寮を深夜に抜け出すというリスク、
スポーツマンがこんな時間に長距離走るというリスク、
それを犯してまでこんなところに来てしまった自分はいったい何なのだろう。
しかも、こんな時間では彼女に逢うことが出来ないと分かり切っているのに。
それどころか、彼女の部屋が暗いことに安堵している。
この愚行はどこから来ているか?
その想いはどこから━━━?
答えに気付いた瞬間、夜の暗がりでも分かってしまうほど彼の頬が朱に染まった。
「こい……なんですかねえ……」
思わず声に出し、慌ててその言葉を戻そうとするように口に手を当てた。
出てきた言葉、そして気持ちは戻らない。
この、ボクが?冗談じゃない。
そうは思うものの、それが冗談じゃないことも自分が一番知っている。
恋を自覚した瞬間の衝撃がそれを表している。
恥ずかしそうに俯いて吐き捨てるように言葉を絞り出す。
「それじゃあ、まるでボクがストーカーじゃないですか」
冗談じゃない。
片想いの彼女の家の周りを徘徊。
なんと言い訳したところで立派なストーカーだ。
もっとも、自分はデータマンだ。
ストーキングの標的はなにも彼女に限ったことではない。
しかしながら彼女に関してだけは少し恥ずかしさを覚える。
まるで、自分が嫌悪する飢えを覚えた中学3年生の男子のようで。
現在の自分は己が否定したかった、浮ついた生き物そのものなのだと自覚して。
どれくらいまで、彼女の前でキレイな上級生の『観月さん』でいられるだろう?
1日?3ヶ月?半年━━━?
今の自分はまるで己の口から吐き出される白い息のようなものだ。
いつかは暗い闇に融けては消える。
いつか、この恋情を彼女にぶつけてしまう日が来るだろう。
それも遠くない日に。
自分のさしのべた手に重ねられた彼女の手を握って自らの内に引っ張り込む。
なにしろ、この気持ちに覚醒した自分は最強だ。
脳内のコンピューターがフル回転し始めたことを知っている。
自分にしたって初めてのことだから上手くいくかどうかは分からない。
でも勝算は充分。
絡めて絡めて絡め取ってボクに溺れさせてやる。
ボクのところにしかたどり着けないように。
彼女をいつか身も心も自分の隣に立って戦うプレーヤーに。
「とりあえずは…来週の温泉合宿にでも誘ってみましょうかね」
また、そこで何かあるかも知れないし。
自分の考えに満足して観月は踵を返す。
普段の自分からは考えられないような距離をまた走り出す。
幸か不幸か、寮の自分のベッドにありつくまでに
彼女のことを考える時間がまだまだあるということだ。
これが恋だというのなら、それも悪くない。
END
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荒く白く吐き出される息が夜の闇に融けて消える。
その行為、果たしてどれくらいの時間繰り返しただろう。
夕方、よれよれの姿で帰っていった彼女を見送って経つこと数時間。
気がついたら足がこの家の前まで動いていた。
赤月巴の住まう、家。
一度はこの自分が切って捨てた少女だ。
ボロボロになってもいいと、身体を傷めてしまえと思ったほどに。
心配する理由はないはずだ。
けれども、放っておけなかった。
放そうとも人なつっこい笑みでまた近寄ってくる。
打算で生きているつもりだった自分の中にまでいつの間にか入り込んでいた。
自分とは違って打算という言葉とは無縁の少女。
だから、結局再び手を差し出してしまったのだ。
彼女再生のために一緒に頑張ろうと言葉に出してしまった。
ライバル校の生徒の再生などなんのメリットも無いというのに。
彼女は迷いもなくその手を取ったように思えた。
許されたのだと、知った。
越前家は既にどの部屋も暗く静かだった。
深夜1時、それも当然だ。
けれどもそのことに観月は安堵した。
きっとこの暗闇の中で、彼女は━━━巴は安らいでいるのだ。
日が昇るまでの、ほんのわずかな休息。
今頃彼女は全身の筋肉痛と闘い、寝返りを打つのも辛いに違いない。
その苦痛が少しでも楽になっていればいいと願う。
明日の朝、待ち合わせのテニスコートに彼女がやってくるときは
いつものように晴れ晴れとした笑顔で自分のところまで駆けてきて欲しいと思う。
「……まったく、バカみたいですね」
寮を深夜に抜け出すというリスク、
スポーツマンがこんな時間に長距離走るというリスク、
それを犯してまでこんなところに来てしまった自分はいったい何なのだろう。
しかも、こんな時間では彼女に逢うことが出来ないと分かり切っているのに。
それどころか、彼女の部屋が暗いことに安堵している。
この愚行はどこから来ているか?
その想いはどこから━━━?
答えに気付いた瞬間、夜の暗がりでも分かってしまうほど彼の頬が朱に染まった。
「こい……なんですかねえ……」
思わず声に出し、慌ててその言葉を戻そうとするように口に手を当てた。
出てきた言葉、そして気持ちは戻らない。
この、ボクが?冗談じゃない。
そうは思うものの、それが冗談じゃないことも自分が一番知っている。
恋を自覚した瞬間の衝撃がそれを表している。
恥ずかしそうに俯いて吐き捨てるように言葉を絞り出す。
「それじゃあ、まるでボクがストーカーじゃないですか」
冗談じゃない。
片想いの彼女の家の周りを徘徊。
なんと言い訳したところで立派なストーカーだ。
もっとも、自分はデータマンだ。
ストーキングの標的はなにも彼女に限ったことではない。
しかしながら彼女に関してだけは少し恥ずかしさを覚える。
まるで、自分が嫌悪する飢えを覚えた中学3年生の男子のようで。
現在の自分は己が否定したかった、浮ついた生き物そのものなのだと自覚して。
どれくらいまで、彼女の前でキレイな上級生の『観月さん』でいられるだろう?
1日?3ヶ月?半年━━━?
今の自分はまるで己の口から吐き出される白い息のようなものだ。
いつかは暗い闇に融けては消える。
いつか、この恋情を彼女にぶつけてしまう日が来るだろう。
それも遠くない日に。
自分のさしのべた手に重ねられた彼女の手を握って自らの内に引っ張り込む。
なにしろ、この気持ちに覚醒した自分は最強だ。
脳内のコンピューターがフル回転し始めたことを知っている。
自分にしたって初めてのことだから上手くいくかどうかは分からない。
でも勝算は充分。
絡めて絡めて絡め取ってボクに溺れさせてやる。
ボクのところにしかたどり着けないように。
彼女をいつか身も心も自分の隣に立って戦うプレーヤーに。
「とりあえずは…来週の温泉合宿にでも誘ってみましょうかね」
また、そこで何かあるかも知れないし。
自分の考えに満足して観月は踵を返す。
普段の自分からは考えられないような距離をまた走り出す。
幸か不幸か、寮の自分のベッドにありつくまでに
彼女のことを考える時間がまだまだあるということだ。
これが恋だというのなら、それも悪くない。
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