忍者ブログ
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

年越し小話。二人の距離。





***

拍手


日付が新たに変わるまで、あと30分ほど。
今日が終われば、また新しい年が始まる。
実家に帰って、家族とこたつに入って紅白を観たり、観月家の今後について適当に話し合ったり。
そんなどうでもいい時間の過ごし方しかこの1日はしていない。
現在は特にやることもなくて、自室に戻ってデスクに無駄に座っているばかりだ。
寮にいれば残っている面々と、少なくとも飽きない過ごし方が出来たかもしれないというのに。
もう少ししたら氏神様へのご挨拶に、この寒い中家を出なければならない。
しかも一族総出でだ。これだから田舎の農家は……と思わずにいられない。
なんてくだらない年の越し方だろう、と観月はじめはため息をついた。
しかし、少なくとも大学を卒業するまで実家からの束縛は、節々に帰省するくらいの最低限で済む。
逆に言えば、今の文句が言える程度の自由ですら期限付きと言うことで。
どんなにこれからの人生をシミュレーションしようとも、胃の付近が重い感じになる。
気をそらそうと、窓のカーテンを開けて外を眺める。
日中は少々吹雪いていたけれども、雪は止んで凪いでいる。
大晦日の夜だからか、周囲に申し訳程度しかない民家は皆外灯もつけたままで、ぽつぽつと散らばった明かりは雪を照らしていつもより明るい夜になっている。
彼女──巴なら、こんな風景すらも奇麗だと言うだろうか。
何でもまっすぐ素直に感動する彼女なら。
無性に逢いたい。
今ここに一緒にいれば、こんなつまらない実家すら楽しいと思えるだろうにと、愚にもつかないことを考える。
残念ながらその彼女は今は岐阜の実家に居るはず。
岐阜と山形の距離なんて遠すぎて、どうすることも出来ない。
実際は岐阜もかなり雪が降るところがあると聞くし、観月が見ている雪景色も珍しいものではないかもしれない。
もしかしたら、彼女も当然のことすぎて奇麗だと感動すら覚えないかもしれない。
それでも、彼女とともにいるだけどんなに良いだろう。
一緒にこの風景を見てみたいと思う。
ひとつ大きく息を吐くと、メールの着信に気づいた。

”いま、電話しても大丈夫ですか?”

たったそれだけのメールなのに、あばたもえくぼというか、値千金に思えてしまうのだから、自分も大概まっすぐで素直かもしれない。
策士の観月はじめなど一体どこへ行ってしまったのか。
あわてて、階下におりて家族に二年参りのキャンセルを告げる。
姉や年寄りから「長男なのに!」という抗議はあるものの、風邪気味だからと殊勝な顔を見せてみればその抗議もぴたりと止まる。
なんだかんだ言って、家族は自分に弱い。
それは分かっているから、せいぜい最大限使わせてもらおうと思う。
「じゃあ、もう寝るから」と言い残して再び自室に戻る。
毎日発信履歴の残っているその番号に、今日もまた発信する。
コールは3回で途切れ、聞こえてくるのは、ただ懐かしくいとおしい彼女の声だけ。

「んふっ、こんばんは──キミと一緒に年越ししようと思って電話したんですが、大丈夫ですよね?」

「もちろんです!」すこしうわずった声が聞こえる。
慌てて受信したのだろうか、心の準備ができていないと言った風情だ。
巴から誘った電話だというのに。

「ねえ、巴くん? キミの家の窓からは何が見えますか?」

先ほどと同じように自室の窓から外を眺めながら、側にはいない彼女に問いかける。
願わくば雪がいい。観月はそう思う。
そうすれば、遠く離れていても一緒に並んでいるような気持ちになるから。
キミの隣で、1年が終われるから。



END
PR
プロフィール
HN:
ななせなな
性別:
非公開
忍者カウンター
P R
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]