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本文なし
限界が近い。
観月は3限目の授業が終わった直後そのことに気付いてしまった。
何の限界かというと、笑顔。
もっと詳しく言ってしまうと愛想笑い。
そして、自分のロッカーの容量に限界を感じていた。
今日は5月27日。記念すべき観月はじめの16回目の誕生日だ。
朝から列を成すと言っても大袈裟ではないくらい色んな人間が彼の前に顔を出す。
お祝いの言葉であったり、プレゼントであったりアプローチは様々だったが。
校内では人気のある方だ。特にミーハーな女子には。
勉強が出来て、テニスが出来て、容姿端麗。
そんな彼に女子が近づいてくるのはもはや必然のことだった。
案外本気でお付き合いを求めてくる女子は少ないので本命の居る観月には有り難いが、そうは言ってもやはりきっかけさえあれば誰彼と無く近づいてくる。
あわよくば、といったところなのだろう。
そんなわけで彼はずっと女子を惑わすような愛想笑いでプレゼントを受け取り、心にもない感謝の言葉を言い続けていた。
作った笑顔には自信があったのだが、まさか今日に限ってこんなに早く疲れてしまうなんてと自分でも不思議に思ってしまうが、本当に限界を感じてしまったのだから仕方ない。
周囲から顔を隠すように本を読む振りをしてこっそりとため息をつく。
断れるような性分だったら、よかったのにと思う。
けれど利用できるモノはすべて利用したい彼にはそれは出来なかった。
周囲の信頼を取り付けておくのは彼にとって大事なことだ。
顔もよく覚えてないような女子からもにっこりとプレゼントを受け取って、謝辞を述べる。
そして、何かの折にまたその相手に気を配る。
それだけで、女子に限って言えば好感度は高くなるのだから、こんな簡単なことで人心を掌握できるのだから彼にとっては安いモノだ。
いつもの観月であれば楽々とこなせる作業のひとつだった。
それなのに、今日に限ってこんなに疲労を感じるのは何故だろう。
観月は重く感じる頭を軽く振ってみる。
教室でただ座っているだけなのに、肩は重いし頭もボンヤリとする。
とてつもない不快感は何なのか頭をひねる。
朝練だっていつものメニューを淡々とこなしただけで、学校生活に差し支えるほどハードなことは何もしていないのに不思議である。
このまま4限目まで少し眠ってしまおうかと思い立った。
普段は滅多にこんな事はしないのだが、机に身体を伏せて目を閉じる。
「お疲れ気味だーね、そりゃそうだーね、観月」
少しウトウトしかけた瞬間、頭上から耳障りな、しかし聞き慣れた声が聞こえてきた。
声が楽しげなのが厄介だ。
「クスクス…さすがの観月もお誕生日おめでとう攻勢は辛いんだ。
とっとと八方美人なんて止めちゃえばいいのにね」
エスカレータ式の学校とはいえ、高校の教室までもこの二人と一緒とはなんとも残念なことだと思いながら観月は顔を伏せたまま無視を決める。
それを知りながら木更津は話を続ける。
「なんで、こんなに疲れたりするのか分かってる?観月?
ホント観月って分かりやすいって言うか面白いって言うかかわいいよね」
相変わらずクスクス笑いながらすこしからかう調子で話しかける。
観月はその調子に無視を続けることが困難になってしまった。
「何だっていうんです、キミらには分かるって言うんですか?」
半ばキレ気味に体を起こし二人を半眼で見据える。
木更津は何故観月はこんな分かり易い性格なのに周囲は彼に惑わされるんだと不思議でならない。
だからこそ、自分自身彼について面白いと感じるのだろうが。
試合中であればこんなトリッキーな性格も有り難いし強みになるが、実際の生活においては迷惑以外のなにものでもないと観月は思っていた。
「分かるよ?」
「分かるだーね」
揃ったように二人は返事を返した。
「そりゃ赤月が居るからだよ」
「そりゃ赤月が居るからだーね」
また二人は絶妙なハーモニーを奏でる。
不審そうな顔をして二人を見る観月に木更津はさらに解説を加える。
「だって、観月って外面良く振る舞ってるけど、実際は気を許した相手以外は笑いかけるどころか話だってしたくないってタイプでしょ?
本当に笑いかけたい相手が出来たんだからそれにエネルギー使っちゃって、これまでよりも外面の良さのキャパシティーは減っちゃうのは当然だよ」
「そうだーね、それに今日は観月はまだ赤月と会ってないだーね。
コイビトにもまだお祝いされてないのに、それ以外のどうでもいい相手にお祝いされたりお礼言ったりするのなんて苦痛にきまってるだーね…まあそんな話俺には縁がないけど…」
したり顔で二人はそう話す。
観月は当然木更津と柳沢が恋愛経験豊富とかそんな話は聞いたことがなかったが、これまでの自分を振り返ればそれももっともかも知れないという説得力だけはあった。
「よく、そんな風にボクのことを分かったような顔で言えますね」
見透かされて恥ずかしいというよりも不思議でしょうがないといった表情で観月は尋ねた。
「スクールであんだけ二面性やら赤月にデレっとした態度やら見せつけられてれば分かるだーね」
「…………そんなものですか?」
そんなに自分は分かり易いのだろうかと観月はやや肩を落とした。
極力感情を表に出さないように努力しているのだが。
スクール内ではそれは徒労に終わっていることをまだ彼は知らない。
「あと……、何故ボクが巴くんとは今日会っていないことを知っているんです?」
先ほどの柳沢の言葉に引っかかりを覚えて尋ねる。
そんなことは今日は話していないはずだと疑問に思いながら。
「ああ、今日は観月は朝の委員会活動で朝練に参加できなかったから。
今日はどこの委員会も朝になんかイベントやっててテニス部も人数が足らなくてさ、仕方がないから中等部と合同練習したんだよ。そのときに、さ」
「そそ、その時にちょっと赤月と話しただーね」
観月の顔色が少し変わる。
とっさに「何を、ですか?」と訊いてしまう。
居ないところで二人は巴に何を吹き込んでるか分かったものではないからだ。
だいたいあとになって、その事でなにかしら軽くトラブルが起きるのだ。
確実に彼らはそれを楽しんでいるから油断できない。
「なんて事ないだーね。
ただ、『今日は夕方まで観月さんに会えなくてさびし~い』なんて言ってただけだーね」
さりげなく巴の物まねを織り交ぜながら柳沢は会話の内容を話した。
隣の木更津は「似てないよ」とクールにツッコミを入れていた。
「ま、今朝の朝練はバタバタしていたからね。俺らが話せたのは本当にそれくらいだけだよ」
それが本当かどうかは観月には判断できないが、とりあえず胸を撫で下ろす。
『今日は観月の席の前に女子の長蛇の列が出来る』なんて吹き込まれていたらたまったものではないと思っていたからだ。
ただし、それによってヤキモチを焼く巴を見てみたいという気は少しあったりする。
もっとも、それを表面に出すようなことはしないが。
「あっ、そうそう。今朝赤月に会ったときに彼女から甘い良い香りがしたよ」
「そうだーね、あれはきっとケーキの匂いだーね」
ニヤニヤしながら、二人はそう思いだしたように言葉を発した。
「ね、観月。いまの俺達が教えてあげた事に対するお礼はケーキが良いな。手作りの」
「あーあ、たまには俺達も女子の手作りケーキなんて食べてみたいだーね」
二人の暗黒の表情にさすがの観月もクラッと来る。
この二人と話していると時々異次元に飛ばされたような感覚に陥るのだ。
彼らの言いたいことはその表情と共によく分かってしまった。
「……巴くんがボクのために焼いてくれたケーキなんてもったいなくてあげられませんよ」
とりあえず抵抗を試みる。
失敗に終わる確率はデータから計算せずとも99%だったが。
「やだなあ、観月ってば。他の女子からの手作りは何が入ってるか分からないから恐いって捨てちゃうクセに」
「おっと!そのコトをほかの女子が知っちゃったら大変だーね。
それに大事な選手の俺達に危険な食べ物食べさせたりもまさかしないだーね?」
観月は二人と話す前以上の疲労感に襲われる。
これでこの後の日常を過ごさなければならないかと思うと目の前が真っ暗になりそうだった。
頭も痛いかもしれないと、思い始める。
もはやこの疲労感はこの外面の良さに起因するものか、それとも彼らと会話するところから来ているものなのか判別不能だ。
保健室で休むべきか否か本気で悩み、かたん、と席を立つ。
この場はとりあえず逃げておくのが得策だと結論づける。
「君たちと付き合うと本気で疲れるので保健室へ行ってきます。
ケーキの件はまあ良いでしょう。
これからだって彼女のお手製を食べる機会は、君たちが彼女を作って食べさせてもらうよりは沢山あるでしょうからね」
「「……ぐっ」」
逆襲には少し弱いけれど、彼ら二人の悔しそうな表情を見て満足を覚えながら観月は教室を出た。
巴と会える放課後まではまだ時間がある。
せいぜい誰とも会わなくて済む場所でしばらく充電していようと心を決める。
もっとも、観月にとっての一番の充電は巴本人に会うことだったりするのだが。
「早く、会いたいですね。巴くんと」
放課後に起こるだろう彼女との甘いひとときに期待を抱きながら観月は保健室の扉を叩いた。
END
限界が近い。
観月は3限目の授業が終わった直後そのことに気付いてしまった。
何の限界かというと、笑顔。
もっと詳しく言ってしまうと愛想笑い。
そして、自分のロッカーの容量に限界を感じていた。
今日は5月27日。記念すべき観月はじめの16回目の誕生日だ。
朝から列を成すと言っても大袈裟ではないくらい色んな人間が彼の前に顔を出す。
お祝いの言葉であったり、プレゼントであったりアプローチは様々だったが。
校内では人気のある方だ。特にミーハーな女子には。
勉強が出来て、テニスが出来て、容姿端麗。
そんな彼に女子が近づいてくるのはもはや必然のことだった。
案外本気でお付き合いを求めてくる女子は少ないので本命の居る観月には有り難いが、そうは言ってもやはりきっかけさえあれば誰彼と無く近づいてくる。
あわよくば、といったところなのだろう。
そんなわけで彼はずっと女子を惑わすような愛想笑いでプレゼントを受け取り、心にもない感謝の言葉を言い続けていた。
作った笑顔には自信があったのだが、まさか今日に限ってこんなに早く疲れてしまうなんてと自分でも不思議に思ってしまうが、本当に限界を感じてしまったのだから仕方ない。
周囲から顔を隠すように本を読む振りをしてこっそりとため息をつく。
断れるような性分だったら、よかったのにと思う。
けれど利用できるモノはすべて利用したい彼にはそれは出来なかった。
周囲の信頼を取り付けておくのは彼にとって大事なことだ。
顔もよく覚えてないような女子からもにっこりとプレゼントを受け取って、謝辞を述べる。
そして、何かの折にまたその相手に気を配る。
それだけで、女子に限って言えば好感度は高くなるのだから、こんな簡単なことで人心を掌握できるのだから彼にとっては安いモノだ。
いつもの観月であれば楽々とこなせる作業のひとつだった。
それなのに、今日に限ってこんなに疲労を感じるのは何故だろう。
観月は重く感じる頭を軽く振ってみる。
教室でただ座っているだけなのに、肩は重いし頭もボンヤリとする。
とてつもない不快感は何なのか頭をひねる。
朝練だっていつものメニューを淡々とこなしただけで、学校生活に差し支えるほどハードなことは何もしていないのに不思議である。
このまま4限目まで少し眠ってしまおうかと思い立った。
普段は滅多にこんな事はしないのだが、机に身体を伏せて目を閉じる。
「お疲れ気味だーね、そりゃそうだーね、観月」
少しウトウトしかけた瞬間、頭上から耳障りな、しかし聞き慣れた声が聞こえてきた。
声が楽しげなのが厄介だ。
「クスクス…さすがの観月もお誕生日おめでとう攻勢は辛いんだ。
とっとと八方美人なんて止めちゃえばいいのにね」
エスカレータ式の学校とはいえ、高校の教室までもこの二人と一緒とはなんとも残念なことだと思いながら観月は顔を伏せたまま無視を決める。
それを知りながら木更津は話を続ける。
「なんで、こんなに疲れたりするのか分かってる?観月?
ホント観月って分かりやすいって言うか面白いって言うかかわいいよね」
相変わらずクスクス笑いながらすこしからかう調子で話しかける。
観月はその調子に無視を続けることが困難になってしまった。
「何だっていうんです、キミらには分かるって言うんですか?」
半ばキレ気味に体を起こし二人を半眼で見据える。
木更津は何故観月はこんな分かり易い性格なのに周囲は彼に惑わされるんだと不思議でならない。
だからこそ、自分自身彼について面白いと感じるのだろうが。
試合中であればこんなトリッキーな性格も有り難いし強みになるが、実際の生活においては迷惑以外のなにものでもないと観月は思っていた。
「分かるよ?」
「分かるだーね」
揃ったように二人は返事を返した。
「そりゃ赤月が居るからだよ」
「そりゃ赤月が居るからだーね」
また二人は絶妙なハーモニーを奏でる。
不審そうな顔をして二人を見る観月に木更津はさらに解説を加える。
「だって、観月って外面良く振る舞ってるけど、実際は気を許した相手以外は笑いかけるどころか話だってしたくないってタイプでしょ?
本当に笑いかけたい相手が出来たんだからそれにエネルギー使っちゃって、これまでよりも外面の良さのキャパシティーは減っちゃうのは当然だよ」
「そうだーね、それに今日は観月はまだ赤月と会ってないだーね。
コイビトにもまだお祝いされてないのに、それ以外のどうでもいい相手にお祝いされたりお礼言ったりするのなんて苦痛にきまってるだーね…まあそんな話俺には縁がないけど…」
したり顔で二人はそう話す。
観月は当然木更津と柳沢が恋愛経験豊富とかそんな話は聞いたことがなかったが、これまでの自分を振り返ればそれももっともかも知れないという説得力だけはあった。
「よく、そんな風にボクのことを分かったような顔で言えますね」
見透かされて恥ずかしいというよりも不思議でしょうがないといった表情で観月は尋ねた。
「スクールであんだけ二面性やら赤月にデレっとした態度やら見せつけられてれば分かるだーね」
「…………そんなものですか?」
そんなに自分は分かり易いのだろうかと観月はやや肩を落とした。
極力感情を表に出さないように努力しているのだが。
スクール内ではそれは徒労に終わっていることをまだ彼は知らない。
「あと……、何故ボクが巴くんとは今日会っていないことを知っているんです?」
先ほどの柳沢の言葉に引っかかりを覚えて尋ねる。
そんなことは今日は話していないはずだと疑問に思いながら。
「ああ、今日は観月は朝の委員会活動で朝練に参加できなかったから。
今日はどこの委員会も朝になんかイベントやっててテニス部も人数が足らなくてさ、仕方がないから中等部と合同練習したんだよ。そのときに、さ」
「そそ、その時にちょっと赤月と話しただーね」
観月の顔色が少し変わる。
とっさに「何を、ですか?」と訊いてしまう。
居ないところで二人は巴に何を吹き込んでるか分かったものではないからだ。
だいたいあとになって、その事でなにかしら軽くトラブルが起きるのだ。
確実に彼らはそれを楽しんでいるから油断できない。
「なんて事ないだーね。
ただ、『今日は夕方まで観月さんに会えなくてさびし~い』なんて言ってただけだーね」
さりげなく巴の物まねを織り交ぜながら柳沢は会話の内容を話した。
隣の木更津は「似てないよ」とクールにツッコミを入れていた。
「ま、今朝の朝練はバタバタしていたからね。俺らが話せたのは本当にそれくらいだけだよ」
それが本当かどうかは観月には判断できないが、とりあえず胸を撫で下ろす。
『今日は観月の席の前に女子の長蛇の列が出来る』なんて吹き込まれていたらたまったものではないと思っていたからだ。
ただし、それによってヤキモチを焼く巴を見てみたいという気は少しあったりする。
もっとも、それを表面に出すようなことはしないが。
「あっ、そうそう。今朝赤月に会ったときに彼女から甘い良い香りがしたよ」
「そうだーね、あれはきっとケーキの匂いだーね」
ニヤニヤしながら、二人はそう思いだしたように言葉を発した。
「ね、観月。いまの俺達が教えてあげた事に対するお礼はケーキが良いな。手作りの」
「あーあ、たまには俺達も女子の手作りケーキなんて食べてみたいだーね」
二人の暗黒の表情にさすがの観月もクラッと来る。
この二人と話していると時々異次元に飛ばされたような感覚に陥るのだ。
彼らの言いたいことはその表情と共によく分かってしまった。
「……巴くんがボクのために焼いてくれたケーキなんてもったいなくてあげられませんよ」
とりあえず抵抗を試みる。
失敗に終わる確率はデータから計算せずとも99%だったが。
「やだなあ、観月ってば。他の女子からの手作りは何が入ってるか分からないから恐いって捨てちゃうクセに」
「おっと!そのコトをほかの女子が知っちゃったら大変だーね。
それに大事な選手の俺達に危険な食べ物食べさせたりもまさかしないだーね?」
観月は二人と話す前以上の疲労感に襲われる。
これでこの後の日常を過ごさなければならないかと思うと目の前が真っ暗になりそうだった。
頭も痛いかもしれないと、思い始める。
もはやこの疲労感はこの外面の良さに起因するものか、それとも彼らと会話するところから来ているものなのか判別不能だ。
保健室で休むべきか否か本気で悩み、かたん、と席を立つ。
この場はとりあえず逃げておくのが得策だと結論づける。
「君たちと付き合うと本気で疲れるので保健室へ行ってきます。
ケーキの件はまあ良いでしょう。
これからだって彼女のお手製を食べる機会は、君たちが彼女を作って食べさせてもらうよりは沢山あるでしょうからね」
「「……ぐっ」」
逆襲には少し弱いけれど、彼ら二人の悔しそうな表情を見て満足を覚えながら観月は教室を出た。
巴と会える放課後まではまだ時間がある。
せいぜい誰とも会わなくて済む場所でしばらく充電していようと心を決める。
もっとも、観月にとっての一番の充電は巴本人に会うことだったりするのだが。
「早く、会いたいですね。巴くんと」
放課後に起こるだろう彼女との甘いひとときに期待を抱きながら観月は保健室の扉を叩いた。
END
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