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本文なし
「いたたた…」
全身がバラバラに引き裂かれそうだ。
特に背中の引きつり方と言ったら筆舌尽くしがたい。
毎日毎日、この春テニス部に入学してからと言うもの
訓練に訓練を重ねてきたというのに、
いまさら筋肉痛に見舞われるとは思わなかった。
1時間にも渡る風呂でのマッサージも、とても効果があるとは思えなかった。
赤月巴はまるで大昔のロボットのようにぎくしゃく風呂から上がり、
階段を上り、そしてようやく自分の部屋へとたどり着いた。
途中で巴の姿を発見したリョーマのからかいにも黙って耐え、
(だって動けなかったし)
菜々子から暖かい労りの言葉を貰い、
(これには泣きそうになった)
ただ、部屋へと一心不乱に向かったのだ。長い道のりだった。
「はぁぁぁぁ。つっかれたあ」
布団に倒れ込む。ようやく安らげる。
身じろぎすれば即ち痛いのだけれども、
早く寝入ってしまえばいいことだ。
静かに目を閉じる。
身体はこんなに痛くて疲れているというのに、
なかなか眠りは訪れなかった。
寝付けずにうっかり寝返りを打とうとしてしまい、
小さく悲鳴を上げる。
こんな痛い目にあっているのは、
まぶたの裏側に鮮やかに姿が焼き付いてしまっている男のせいだ。
観月はじめ。
この4月に出会って、テニススクールが一緒だった縁で仲良くなった人。
世話焼きでなんだかんだと言いながらライバル校の自分のテニスも見てくれる。七夕まつりや海に出掛けたり、修学旅行土産を貰ったりした。
きっと、これまでは一番信用していた年上の人だ。
先週までは。
巴に、身体に負担がかかる技を伝授しプレイさせ続けていたと告白するまでは。
衝撃の告白は巴の思考を停止させるには充分だった。
いままで真実だと思っていた世界が足下から崩れ去っていった。
そのまま観月を恨み、走り去っても良かったのに、
憎しみを投げつけても良かったというのに
巴にはそれが出来なかった。
観月の一からやり直そうという提案に、何も考えずに頷いていた。
これまで培ったものは全て捨てても良い。
反射神経とも本能とも思える速度でそう答えていた。
もしかしたら、冷静な自分でも頷いていたのではないかとは思ったが
それはあえて考えないようにしていた。
それからというもの、部活以外の時間という時間を、フォーム矯正に費やしていた。
身体に負担のかからないムダのないフォーム。
必殺技を使っても、身体に負担にならないように。
それは、身体の筋肉を再び作り直す作業だった。
おかげで今の巴は素振りの一本すら素人にも劣る動きだ。
これまで使われていなかった筋肉は悲鳴を上げ続けている。
そんな巴に観月は付きっきりで指導を行う。
歪んだ腕の角度ひとつも見逃さず修正する。
筋肉痛に効くというマッサージ方法やストレッチも教えてくれる。
巴のことなど、所詮ライバル校の生徒だからと切り捨ててしまっても良かったのに、
自らの罪を告白して償おうと彼はしている。我が身をもって。
こんなことには何のメリットもないのに。
彼らしくないと言えば、彼らしくない。
巴にしてみれば、彼の被害者であるならばそれは当然のことではあるのだけれど、
彼がこうして、真剣に自分を見るとは思わなかったから
戸惑いが隠せない、胸がどきどきしてしまう。
すくなくとも2週間前までは平気だったのに
気付いたときには彼に触れられるたびに、
見つめられるたびに平常心と戦わねばならなくなっていた。
巴はちっとも深くなろうとしない眠りを諦めて
目を開いて天井をボンヤリ眺める。
ちょっとは憎んだっていい相手なのにちっとも嫌いになれない。
それどころか、そばにいることで嬉しい自分がいる。
結局のところ無自覚に彼の償いを受け入れたのはそういう理由なのだろう。
離れられない。
「あー…、こい、かなあ」
深いため息と共に、声に出してみる。
初めて自覚する気持ち。
「まいったなあ…」
明日の早朝、ストリートテニスコートでの約束がある。
次に彼と顔を合わせるとき、どんな顔をしていればいいんだろう。
こればっかりは、彼に相談するわけにはいかないし。
END
「いたたた…」
全身がバラバラに引き裂かれそうだ。
特に背中の引きつり方と言ったら筆舌尽くしがたい。
毎日毎日、この春テニス部に入学してからと言うもの
訓練に訓練を重ねてきたというのに、
いまさら筋肉痛に見舞われるとは思わなかった。
1時間にも渡る風呂でのマッサージも、とても効果があるとは思えなかった。
赤月巴はまるで大昔のロボットのようにぎくしゃく風呂から上がり、
階段を上り、そしてようやく自分の部屋へとたどり着いた。
途中で巴の姿を発見したリョーマのからかいにも黙って耐え、
(だって動けなかったし)
菜々子から暖かい労りの言葉を貰い、
(これには泣きそうになった)
ただ、部屋へと一心不乱に向かったのだ。長い道のりだった。
「はぁぁぁぁ。つっかれたあ」
布団に倒れ込む。ようやく安らげる。
身じろぎすれば即ち痛いのだけれども、
早く寝入ってしまえばいいことだ。
静かに目を閉じる。
身体はこんなに痛くて疲れているというのに、
なかなか眠りは訪れなかった。
寝付けずにうっかり寝返りを打とうとしてしまい、
小さく悲鳴を上げる。
こんな痛い目にあっているのは、
まぶたの裏側に鮮やかに姿が焼き付いてしまっている男のせいだ。
観月はじめ。
この4月に出会って、テニススクールが一緒だった縁で仲良くなった人。
世話焼きでなんだかんだと言いながらライバル校の自分のテニスも見てくれる。七夕まつりや海に出掛けたり、修学旅行土産を貰ったりした。
きっと、これまでは一番信用していた年上の人だ。
先週までは。
巴に、身体に負担がかかる技を伝授しプレイさせ続けていたと告白するまでは。
衝撃の告白は巴の思考を停止させるには充分だった。
いままで真実だと思っていた世界が足下から崩れ去っていった。
そのまま観月を恨み、走り去っても良かったのに、
憎しみを投げつけても良かったというのに
巴にはそれが出来なかった。
観月の一からやり直そうという提案に、何も考えずに頷いていた。
これまで培ったものは全て捨てても良い。
反射神経とも本能とも思える速度でそう答えていた。
もしかしたら、冷静な自分でも頷いていたのではないかとは思ったが
それはあえて考えないようにしていた。
それからというもの、部活以外の時間という時間を、フォーム矯正に費やしていた。
身体に負担のかからないムダのないフォーム。
必殺技を使っても、身体に負担にならないように。
それは、身体の筋肉を再び作り直す作業だった。
おかげで今の巴は素振りの一本すら素人にも劣る動きだ。
これまで使われていなかった筋肉は悲鳴を上げ続けている。
そんな巴に観月は付きっきりで指導を行う。
歪んだ腕の角度ひとつも見逃さず修正する。
筋肉痛に効くというマッサージ方法やストレッチも教えてくれる。
巴のことなど、所詮ライバル校の生徒だからと切り捨ててしまっても良かったのに、
自らの罪を告白して償おうと彼はしている。我が身をもって。
こんなことには何のメリットもないのに。
彼らしくないと言えば、彼らしくない。
巴にしてみれば、彼の被害者であるならばそれは当然のことではあるのだけれど、
彼がこうして、真剣に自分を見るとは思わなかったから
戸惑いが隠せない、胸がどきどきしてしまう。
すくなくとも2週間前までは平気だったのに
気付いたときには彼に触れられるたびに、
見つめられるたびに平常心と戦わねばならなくなっていた。
巴はちっとも深くなろうとしない眠りを諦めて
目を開いて天井をボンヤリ眺める。
ちょっとは憎んだっていい相手なのにちっとも嫌いになれない。
それどころか、そばにいることで嬉しい自分がいる。
結局のところ無自覚に彼の償いを受け入れたのはそういう理由なのだろう。
離れられない。
「あー…、こい、かなあ」
深いため息と共に、声に出してみる。
初めて自覚する気持ち。
「まいったなあ…」
明日の早朝、ストリートテニスコートでの約束がある。
次に彼と顔を合わせるとき、どんな顔をしていればいいんだろう。
こればっかりは、彼に相談するわけにはいかないし。
END
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