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本文なし
『おやすみなさい』
たったそれだけの言葉が1日の最後の言葉として相応しいなんて
恋をするまで知らなかった。
言わないことが罪になるなんて。
君に、逢うまでは。
*Telephone Call
耳元でジリリリと古典的な目覚まし時計ががなりたてる。
赤月巴は中学生になってから朝練に間に合うように、
下宿先の人々に━━━特に越前リョーマに起こされないためにも
様々な目覚まし時計を、画期的な効果を求めて使用していたが
結局最強だったのは古式ゆかしきベル式の時計だった。
慌てて飛び起き、その目覚ましをギネスにも載る勢いで素早く停止させる。
「ふー……もう朝なんだ……え?…あ、さ?」
昨晩、床についた記憶がない。
正確には入浴を済ませてから「仮眠、仮眠~」と言って床に転がった記憶はあるのだが。
なにも朝まで仮眠しなくても。
と、言うかそれはもはや仮眠ではなく、ただの就寝だ。
時計は11月3日、午前5時を差している。
「あちゃー!今日、文化祭の日じゃん、朝練休みだし」
11月3日、文化の日。
ふとカレンダーに目をやると、3の数字はきっちり赤で印刷されている。
そして3のまわりには大きな花丸が。
その花丸の下には『深司さんBD』という自分の字。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ」
祝日の早暁、まだ眠り深い越前一家は巴の奇声にて目を覚ますことになった。
--
眠気覚めやらぬ越前リョーマに一つ蹴りを入れられ、
他の家人に何事もないことを告げて謝り倒したあと巴は部屋の真ん中で正座していた。
目の前には携帯電話。着信履歴のランプがチカチカと光ったままだ。
それが伊武からの電話であることは間違いがないだろう。
巴と伊武は付き合い始めてから続けていた習慣がある。
おやすみなさいコールだ。
毎日交互に電話して、昨夜は巴の番だった。
大体、巴がマシンガントーク連射して、伊武が適当にあしらうものだったが、
最後には『おやすみなさい』で同時に切る。
毎日、合宿中でもテスト中でも続いていた習慣。
「……昨日、熟睡だったもんなあ……」
背中には11月だというのに汗が流れる。
これが冷や汗というものなのだろう。
どうしよう。
当然、ごまかしちゃマズイよね。
電話する?
今?
いやまだ寝てるだろう。
ああああ…きっと怒られる。
電話しなきゃ!
一刻も早く謝らないと。
あーでもまだこんな時間だし。
あああああ。
そんなとりとめのない焦りの感情がぐるぐると駆けめぐる。
7時。
意を決して電話をすることにした。
震える手でボタンを押す。
嫌われていたらどうしよう。それを考えると巴は恐かった。
RRR……
「………………………………………………なに?」
自らかけた筈なのに伊武が応答したことに巴は飛び上がりそうになった。
出るとは思っていたけれど、いざ出られるとどうして良いか分からない。
とっさの一言が、口から飛び出す。
「深司さん!お、お誕生日おめでとうございますっ!」
「……」
「……」
そこから会話が続かない。
これはもう怒っているに違いないと
もう一度なけなしの勇気を振り絞って声をかけてみる。
「あ…の…?深司さん、聞いてます?」
やや冷たい調子━━━とはいえいつものことだったりするのだが、
硬質な口調で伊武はようやく返答する。
「聞いてるよ、って言うか、他に言うことあるんじゃないの?」
その一言が鋭い矢となり胸に突き刺さる。
当然だ。昨晩電話しなかったことを謝ってはいない。
謝らなければいけないのはもちろん分かっているが、
何となく言い出しづらかったのだ。
「ごめんなさい!あの、昨日電話しなくって…実は…」
実は、ただ単純に寝こけてました。
朝まで熟睡でした。
恥ずかしくてとても言いづらい。
「あのさあ…、君と電話なんかしなくても俺は別に構わないわけ」
「ええっ」
ちょっと衝撃を受ける。
この後の話の流れは別れ話だろうか?そう考えると受話器の向こうでぼやく声が聞こえてきた。
「…………ひどいもんだよね、でもやっぱり1日の締めくくりだし君の声なんか聞きたいと思うし、14歳の最後の夜に彼女から電話がかかってこないなんて訳がないと思ってたのになかなか電話がかかってこないし、待ちきれなくてこっちからかけてみても全然出てくれないし。あーあーまいっちゃうよなー。可哀想な俺。多分彼女はこれっぽっちも俺のことは考えてくれちゃいなくて、すいません、うっかり先に寝ちゃいましたーなんて言うに決まってるんだよ。多分愛情なんか薄れてるに違いなくて惰性で付き合ってくれてるんだ。そうだ、そうに違いない。うわー俺ってかわいそ……」
「だいすきですってば!」
伊武のボヤキを遮るように巴は携帯電話の向こう側に怒鳴りつける。
そして、その言葉はうっかりと駆け引きのない本音。
巴は男性を上手くいさめる言葉などまだ知らないのだから仕方がない。
しかし、大声で大好きだと告げてしまったことに言った後に気付いて
急に恥ずかしくなってしまう。
「じゃあ、それでいいや」
ぼやくのを止めてぽつりと伊武はそう答えた。
「は?なにがいいんですか?」
「あと3回言ってくれたら、昨晩のことはチャラにしてあげるよ」
「何を…言え…と?」
とっくに乾いていたはずの冷や汗がまた流れ落ちる。
もちろん、何を言えと言っているのかは分かっている。
しかしとても恥ずかしい。
何度も言えるわけがない。
「……あーやっぱり俺ってかわいそ……」
「あー、言いますよ!言いますってば、ごめんなさいっ!」
半ばヤケになって巴は答える。
「深司さん、を文頭に入れてね」
さりげなく注文を増やしている。
伊武はそのさりげなく事を進める能力に長けていた。
「……コホン」
一つ息を整える。
こういう展開になってしまったのは自業自得であることは自分でもわかっている。
腹をくくるしかない。
「しんじさんだいすき!しんじさんだいすき!しんじさんだいすき!」
思わず力みすぎてはぁはぁ言っているものの巴ご自慢の肺活量で一息で言い切る。
「随分棒読みみたいだけど……まあ、いいよ、今回は」
多少照れくさいのか普段より感情を表に出した口調でそれに答える。
「……今回は?」
文末に引っかかりを覚えて聞き返す。
「次回から、電話を怠るごとに言ってもらうから……1回ずつ増やして」
「えっ!?」
あまりにも恥ずかしすぎるペナルティだ。
さすがに、頑張って電話しようという気にもなる。
「ま、ちゃんと欠かさず電話していれば問題ない話だから
……と、言っても1ヶ月に1回ぐらいはミスしてくれていいけどね、俺としては」
「さすがに照れくさいんですけど……」
自分の気持ちを正直に話す。
たとえ、好きという気持ちが本音でも口にするのは少々照れる。
誰かを好きになると言うスキルが低すぎて、
愛の言葉を話すのも聞くのも照れくさくて身の置き所が無くてやりきれない。
きっと、伊武からそう言う言葉を聞く日が来るとしても
その時の自分は照れくさくて気を失いそうになるのだろうと思った。
「…………じゃ、俺もたまにミスしてみるからそれであいこって事にしてよ」
伊武のミスに対するペナルティー、それは巴と同様のものと言うことで。
「……」
巴の口はまるでバカみたいに開いたままだ。
伊武の言葉の意味を正確に考え当てると、先ほどまで冷や汗が出ていた身体は
急激な体温上昇によって本当の汗が滲み出してきた。
「……もう学校行く時間だから切るよ。
今度の日曜日に俺の誕生日祝ってくれるんだったよね、
それは楽しみにしてるから、ペナルティー以上のイイ物もらえるんだろうし」
ペナルティー=しんじさんだいすき!、だとするとそれ以上のものとは何だろう。
ものすごい、プレッシャーだ。
今日は目を覚ましてからと言うもの、
自分の顔色が信号のようにチカチカとすぐに変わっている自覚がある。
赤から青へ、青から赤へ。
気が遠くなりそうになりながら「はい…そうですね」となんとか返事をする。
「じゃあ、また、今夜」
伊武の声を最後に電話は切れた。
週末に対する大きな不安を抱きながら、巴は通話を終了させた。
時計を見て、慌てて登校の準備をする。
まさか、その時には、伊武の番である今夜の電話がかかってこないとは考えてもみなかった。
そして早速伊武からのペナルティーの言葉を聞かされる事になるとは。
END
『おやすみなさい』
たったそれだけの言葉が1日の最後の言葉として相応しいなんて
恋をするまで知らなかった。
言わないことが罪になるなんて。
君に、逢うまでは。
*Telephone Call
耳元でジリリリと古典的な目覚まし時計ががなりたてる。
赤月巴は中学生になってから朝練に間に合うように、
下宿先の人々に━━━特に越前リョーマに起こされないためにも
様々な目覚まし時計を、画期的な効果を求めて使用していたが
結局最強だったのは古式ゆかしきベル式の時計だった。
慌てて飛び起き、その目覚ましをギネスにも載る勢いで素早く停止させる。
「ふー……もう朝なんだ……え?…あ、さ?」
昨晩、床についた記憶がない。
正確には入浴を済ませてから「仮眠、仮眠~」と言って床に転がった記憶はあるのだが。
なにも朝まで仮眠しなくても。
と、言うかそれはもはや仮眠ではなく、ただの就寝だ。
時計は11月3日、午前5時を差している。
「あちゃー!今日、文化祭の日じゃん、朝練休みだし」
11月3日、文化の日。
ふとカレンダーに目をやると、3の数字はきっちり赤で印刷されている。
そして3のまわりには大きな花丸が。
その花丸の下には『深司さんBD』という自分の字。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ」
祝日の早暁、まだ眠り深い越前一家は巴の奇声にて目を覚ますことになった。
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眠気覚めやらぬ越前リョーマに一つ蹴りを入れられ、
他の家人に何事もないことを告げて謝り倒したあと巴は部屋の真ん中で正座していた。
目の前には携帯電話。着信履歴のランプがチカチカと光ったままだ。
それが伊武からの電話であることは間違いがないだろう。
巴と伊武は付き合い始めてから続けていた習慣がある。
おやすみなさいコールだ。
毎日交互に電話して、昨夜は巴の番だった。
大体、巴がマシンガントーク連射して、伊武が適当にあしらうものだったが、
最後には『おやすみなさい』で同時に切る。
毎日、合宿中でもテスト中でも続いていた習慣。
「……昨日、熟睡だったもんなあ……」
背中には11月だというのに汗が流れる。
これが冷や汗というものなのだろう。
どうしよう。
当然、ごまかしちゃマズイよね。
電話する?
今?
いやまだ寝てるだろう。
ああああ…きっと怒られる。
電話しなきゃ!
一刻も早く謝らないと。
あーでもまだこんな時間だし。
あああああ。
そんなとりとめのない焦りの感情がぐるぐると駆けめぐる。
7時。
意を決して電話をすることにした。
震える手でボタンを押す。
嫌われていたらどうしよう。それを考えると巴は恐かった。
RRR……
「………………………………………………なに?」
自らかけた筈なのに伊武が応答したことに巴は飛び上がりそうになった。
出るとは思っていたけれど、いざ出られるとどうして良いか分からない。
とっさの一言が、口から飛び出す。
「深司さん!お、お誕生日おめでとうございますっ!」
「……」
「……」
そこから会話が続かない。
これはもう怒っているに違いないと
もう一度なけなしの勇気を振り絞って声をかけてみる。
「あ…の…?深司さん、聞いてます?」
やや冷たい調子━━━とはいえいつものことだったりするのだが、
硬質な口調で伊武はようやく返答する。
「聞いてるよ、って言うか、他に言うことあるんじゃないの?」
その一言が鋭い矢となり胸に突き刺さる。
当然だ。昨晩電話しなかったことを謝ってはいない。
謝らなければいけないのはもちろん分かっているが、
何となく言い出しづらかったのだ。
「ごめんなさい!あの、昨日電話しなくって…実は…」
実は、ただ単純に寝こけてました。
朝まで熟睡でした。
恥ずかしくてとても言いづらい。
「あのさあ…、君と電話なんかしなくても俺は別に構わないわけ」
「ええっ」
ちょっと衝撃を受ける。
この後の話の流れは別れ話だろうか?そう考えると受話器の向こうでぼやく声が聞こえてきた。
「…………ひどいもんだよね、でもやっぱり1日の締めくくりだし君の声なんか聞きたいと思うし、14歳の最後の夜に彼女から電話がかかってこないなんて訳がないと思ってたのになかなか電話がかかってこないし、待ちきれなくてこっちからかけてみても全然出てくれないし。あーあーまいっちゃうよなー。可哀想な俺。多分彼女はこれっぽっちも俺のことは考えてくれちゃいなくて、すいません、うっかり先に寝ちゃいましたーなんて言うに決まってるんだよ。多分愛情なんか薄れてるに違いなくて惰性で付き合ってくれてるんだ。そうだ、そうに違いない。うわー俺ってかわいそ……」
「だいすきですってば!」
伊武のボヤキを遮るように巴は携帯電話の向こう側に怒鳴りつける。
そして、その言葉はうっかりと駆け引きのない本音。
巴は男性を上手くいさめる言葉などまだ知らないのだから仕方がない。
しかし、大声で大好きだと告げてしまったことに言った後に気付いて
急に恥ずかしくなってしまう。
「じゃあ、それでいいや」
ぼやくのを止めてぽつりと伊武はそう答えた。
「は?なにがいいんですか?」
「あと3回言ってくれたら、昨晩のことはチャラにしてあげるよ」
「何を…言え…と?」
とっくに乾いていたはずの冷や汗がまた流れ落ちる。
もちろん、何を言えと言っているのかは分かっている。
しかしとても恥ずかしい。
何度も言えるわけがない。
「……あーやっぱり俺ってかわいそ……」
「あー、言いますよ!言いますってば、ごめんなさいっ!」
半ばヤケになって巴は答える。
「深司さん、を文頭に入れてね」
さりげなく注文を増やしている。
伊武はそのさりげなく事を進める能力に長けていた。
「……コホン」
一つ息を整える。
こういう展開になってしまったのは自業自得であることは自分でもわかっている。
腹をくくるしかない。
「しんじさんだいすき!しんじさんだいすき!しんじさんだいすき!」
思わず力みすぎてはぁはぁ言っているものの巴ご自慢の肺活量で一息で言い切る。
「随分棒読みみたいだけど……まあ、いいよ、今回は」
多少照れくさいのか普段より感情を表に出した口調でそれに答える。
「……今回は?」
文末に引っかかりを覚えて聞き返す。
「次回から、電話を怠るごとに言ってもらうから……1回ずつ増やして」
「えっ!?」
あまりにも恥ずかしすぎるペナルティだ。
さすがに、頑張って電話しようという気にもなる。
「ま、ちゃんと欠かさず電話していれば問題ない話だから
……と、言っても1ヶ月に1回ぐらいはミスしてくれていいけどね、俺としては」
「さすがに照れくさいんですけど……」
自分の気持ちを正直に話す。
たとえ、好きという気持ちが本音でも口にするのは少々照れる。
誰かを好きになると言うスキルが低すぎて、
愛の言葉を話すのも聞くのも照れくさくて身の置き所が無くてやりきれない。
きっと、伊武からそう言う言葉を聞く日が来るとしても
その時の自分は照れくさくて気を失いそうになるのだろうと思った。
「…………じゃ、俺もたまにミスしてみるからそれであいこって事にしてよ」
伊武のミスに対するペナルティー、それは巴と同様のものと言うことで。
「……」
巴の口はまるでバカみたいに開いたままだ。
伊武の言葉の意味を正確に考え当てると、先ほどまで冷や汗が出ていた身体は
急激な体温上昇によって本当の汗が滲み出してきた。
「……もう学校行く時間だから切るよ。
今度の日曜日に俺の誕生日祝ってくれるんだったよね、
それは楽しみにしてるから、ペナルティー以上のイイ物もらえるんだろうし」
ペナルティー=しんじさんだいすき!、だとするとそれ以上のものとは何だろう。
ものすごい、プレッシャーだ。
今日は目を覚ましてからと言うもの、
自分の顔色が信号のようにチカチカとすぐに変わっている自覚がある。
赤から青へ、青から赤へ。
気が遠くなりそうになりながら「はい…そうですね」となんとか返事をする。
「じゃあ、また、今夜」
伊武の声を最後に電話は切れた。
週末に対する大きな不安を抱きながら、巴は通話を終了させた。
時計を見て、慌てて登校の準備をする。
まさか、その時には、伊武の番である今夜の電話がかかってこないとは考えてもみなかった。
そして早速伊武からのペナルティーの言葉を聞かされる事になるとは。
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