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本文なし

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*君が僕にくれたもの



AM4:30。
ちょうど日の出と重なる時間だ。
ようやく鳥がさえずりだし、街が目を覚まそうとしている。
まだ高校生である観月はじめにはこのような早暁とは無縁で
未だ深い眠りにあった。

………コン………コン

そんな観月の部屋の窓の外から何か小さいものが当たる音がする。

…コン…コン…コンッ…ゴン

それはしばらく長い一定間隔で当てられていたが、
次第に間隔は短く、強く窓に当てられるようになった。

…ガツッ

窓が未だに割れないのが不思議な勢いで何か固形物が窓にぶつけられる。
そして観月はようやく眠りから覚めた。

「…チッ…まったくなんなんですか。こんな早朝に…」

不審人物なら半殺しの目に遭わせてやる。
寝起きの者特有の機嫌の悪さで窓に向かい、カーテンを開けた。
そこに見えた光景は、余りにもあり得なくて。
彼の常識からは外れすぎて、
強く握りしめたカーテンは破れる寸前のきしんだ音を立てた。
そこには、
巴がいた。
自分のダブルスパートナーで、今一番気になる異性だ。
それはともかく、彼の部屋は二階である。
そのあまりな光景に観月の開いた口はふさがらない。
巴は観月の部屋の窓の前の木に登り、こちらを見つめていた。
ちなみに観月の部屋の前に植わっている木は
室内のプライバシーを完全に隠してくれるので彼のお気に入りだ。
丈夫な枝振りもなかなか素晴らしいと思っている。
しかし、その枝も人間の体重に耐えられるとは限らない。
観月は慌てて窓を開けて、手をさしのべて
危うい体勢で木から観月の部屋の窓へと移ろうとしている巴を支えた。
そして部屋の中へ迎え入れる。

「あ、観月さんすいませんっ。おじゃましまーす」

こんな時間に何をしているのか。
意味が分からない。
何故木に登って自分の部屋を訪問しているのだろう。
落ちることを考えなかったのだろうか。
いくら巴が山育ちの野生児といっても猿も木から落ちるという言葉もある。
余りにも危険だ。
思わず大声で巴の奇行に声を張り上げそうになったが、
時間が時間なのと、こんな所が見られたらどうなるか分からないので
かろうじて自分を押さえつける。
巴が部屋に着地すると同時に窓を閉め、カーテンも慌てて閉める。

「き…君は一体何をしてたんですか!そんなところで!」

悪びれない雰囲気で、はじめて観月の部屋に入った巴は
物珍しそうに室内をきょろきょろしている。
観月は変なものを室内に置いていなくて良かったとさりげなく胸を撫で下ろす。
彼とて年頃の男子高校生だ。
いきなりガサ入れ突入されるのはかなり都合が悪い時もある
。しかし、それはともかくとしてはっきり言うことは言わないと。
謎が謎のままで終わってしまう。
すでに脳内では「何故…!?」の嵐が巻き起こっている。
一番謎なのは、そんな彼女に恐ろしい程惹かれている観月本人なのだが
それは自分自身とっくに痛感しているので気にしない。

「あ、やっぱりパジャマ派なんですね、観月さん」

観月の質問には答えず、あくまでのんきに巴は言う。

「……っ!」

当然といえば当然なのだが、寝起きを起こされたため
観月はパジャマのままだった。
完璧主義の帰来がある彼にとって、そんなだらしない姿を
人に、ましてや好きな娘に見せるなんて屈辱以外の何ものでもない。
着替えてもいない、顔も洗っていない。
巴の前でそんな無防備な姿で平気でいられるほどの仲には
残念ながらまだなっていない。
しかし、かといって彼女の前で着替えるのも難だし、
顔を洗おうすると物音で他の寮生が起き出してしまうかもしれない。
巴が今、彼の部屋内にいることがばれてはマズイ。
かなりマズイ。
観月の本音としてはこれでライバル候補も払拭できるし
(実際は二人の間に何も起こっていなくても)
晴れて公認カップルとなれるのなら別に構わないが、
どう考えても高校生の取る行動としては良くないだろう。
彼女の評判が落ちるのも不本意だ。
そういう訳で仕方なく寝起きのままで巴と接する。

「ええ、パジャマですよ。
━━━僕が裸で寝ていたらどうするつもりだったんですか、君は。
まったく考え無しですね。いつものことですが」

観月の発言に巴は赤面する。しっかり想像しているのだろう。

「さて、僕の質問には答えていないと思いますけどね、君は」

思い切り不機嫌な表情で観月は問う。
まだ深夜に等しい時間にたたき起こされ、
彼の尊厳すら微妙に脅かしているのだから仕方もないことだろう。
見慣れない、観月の寝起きの不機嫌な表情に
少しおびえながらも巴は答えた。

「ええ…ええっと、今日は何の日でしょう?」

今日?
今日は5月…。
5月27日だ。
と、言うことは……。

「観月さんのお誕生日ですよね!おめでとうございます!」

音を立てずに口で「ぱちぱちぱち」といいながら軽く拍手する巴。
━━━彼女は僕の誕生日だから、こんな時間にこんな所へと来たのか?
ここに来た理由はとても単純なことなのでよく分かったが
その行動の根拠が分からない。
誕生日だったら、早朝にたたき起こさなければいけないのか?
脳内がパニくっていて上手く働かない。
頭脳派と呼ばれる、この僕が。
巴は混乱している観月を見てとって、説明しようとする。

「ここしばらく観月さんの誕生日プレゼントって何が良いか考えてたんです」

それは知っていた。何せ彼女は隠し事が出来ないから。

「で、私なら何が欲しいかなあ…って考えて思いついたんです」

一体、彼女は何が欲しいのか?自分にはよく分からない。
彼女のデータが採れないことは悔しいことだが、
そこに快く惹かれる自分が居るのは確かだ。

「それで君なら何が欲しいんですか?今後の参考にしますよ」

語尾に本音があらわれる。
今後の参考にして彼女を喜ばせたい、素直な気持ち。

「私なら、朝起きて一番に観月さんの顔を見たいなあって思いまして」

えへへ、と照れくさそうに笑う巴。
観月はこの世で一番カワイイ生き物を見た気がした。
それは、彼女。

「それでこんな早朝に僕の部屋まで忍んできたというのですか?」

しかしながら多少あきれ顔で言う。
気持ちは嬉しいが、確かに幸せだが、馬鹿げていないとは言えない。
彼女は世界で一番可愛くて世界で一番突飛な生き物だ。

「そうなんです!これが誕生日プレゼントなんですよー。
あっ。もちろん物としてのプレゼントもちゃんと持ってきてますから!」

がさがさと持ってきたトートから派手な包みを取り出す。

「……」

「観月さんも、朝一番に私の顔をみたいなって思ってくれてたら嬉しいんですけど…。
やっぱり、こんな無茶なことをして怒っちゃいました?」

不安そうに観月を見つめる彼女の眼は少し赤い。
眠いのを我慢してここまで来たのだろう。そんな寝不足の眼だ。
そしてよく見ると表情もとろんとして眠そうだ。
普段の巴はよく食べよく動きよく寝る娘だ。
自分でもこんな時間に起きるのは辛いのに、彼女ならなおさらだろう。
お互い、眠い。
欲しい誕生日プレゼントが今出来た。

「怒ってはいないですよ。呆れているだけです。
こんな時間に女子が一人で男子の部屋に来るとは何事ですか?
世間は今とても危険だというのに人気のない時間に外をうろつくし」

「でも、だっ男子って言っても観月さんですよ!
それに私にはかかと落としという強力な技が━━━うぐっ」

観月の華奢に見えて意外とがっしりとした手が彼女の口を塞ぐ。

「ちょっと興奮して大きな声を出さないでください。お互いの為になりません。
……それに、そんなことが聞きたいんじゃないんです。
ただ心配なだけですよ、僕は。君のことが心配でたまらないんです」

ちょっと、目を離すと何をしでかすか、
何に巻き込まれるか分からない彼女。
心配で心配で仕方がない。
いくら自分のために取った行動でもそれはぬぐえない。
巴もそれを感じ取ったのかシュンとしおれている。

「でもまあ、君は僕のためにここまで出来るんですから、
もう一つ誕生日プレゼントを贈ってはいただけないですか?」

んふっ、と相変わらずの笑みをみせる観月を見て巴の胸が跳ねる。
ようやく、観月さんと自分は男と女でビミョーにそーいう関係で
彼の部屋にふたりっきりで、と思い当たったらしい。
もっとも観月は、巴が「プレゼントはワ・タ・シ」という展開にまで
想像を巡らせているとは考えてもいなかったが。
最初は混乱した表情で、最後には悟りを開いた表情で、

「観月さんが…あの…そうしたいなら…いいですっ…」

声を振り絞ってそう答えた。

「じゃあ、君と一緒に寝ましょうか?」

余りにも直截的といえば直截的な言葉が観月の口からでる。
おおよそ彼のイメージとはかけ離れた台詞だったので巴は少し驚いた。
そして、観月に抱き上げられてベッドに運ばれる。
観月の顔を見上げると少し緊張した表情で、
彼も緊張しているのだと思うとすこし安心した。
とうぜん、観月とて年頃の男子で、
女子をお姫様抱っこするなんてはじめてで緊張する。
体格が自分と近い巴は抱きにくい相手ではあるけれど
そこは男の意地もあり絶対に落とせない。
無意識だろうが(そうだと信じたい)
自分の腕の中で巴は身を固くしている。
少しでも気が和らげばと思う。

「べつに、君が嫌がるようなことはしませんよ━━━気を楽にして?」

そうして彼女をベッドの横たわらせる。
そしてその隣に観月も身を添わせる。
彼の左手は彼女の頭の下にくぐらせ指先で優しく彼女の髪を梳く、
そして右手は彼女の身体にまるで守るように回す。
いわゆる腕枕という体勢だ。

「え?観月さん?」

いくらその手のことに少し疎い巴でも、
これから先何が行われるのか想像がつく。
覚悟も出来た。
しかし、その覚悟も虚しく考えていた展開とは違ったようだ。
すっかり混乱する。
ちゃんと覚悟も出来たのに!と思わなくもない。

当然観月は馬鹿がつくほど正直な巴のその感情を表情でみてとった。
今の状態がいくら据え膳に近かったとしても流石に躊躇われる。
常識からいってもそうだし、
そもそも自分は巴に甘いのだ、甘すぎるほどに。
こんな眠たげな表情で、でも自分のために頑張ろうとする彼女を
いまここで…というのは余りにも可哀想すぎる。
それに、はじめてはもうちょっと情緒という物も欲しいし。
ロマンス小説好きな自分の美学に反する。
そして自分自身、眠気が勝っていてそれどころじゃないような気がする。
今日も当然学校へ行かなくてはならないし、
完璧な優等生でいたいし。
ただ、可愛い彼女にこの手で触れたいのは確かで。
この手に留めたいのも確かで。

「さ、学校が間に合う時間に起こしてあげますからもう少し寝なさい?」

「え…でも」
「でも、じゃありません。僕も眠いんです寝かせてください」

本当にいいんですか?といった彼女の表情をあえて無視して
観月は先に目をつぶる。
この手に閉じこめた彼女の肢体は柔らかで良い香りで。
多分本当に眠るコトなんて出来はしないだろうが
彼女を安心して眠らせることなら出来る。

━━━ピピピピピピピピ…

観月のケータイのアラームが鳴っている。
その聞き慣れた音はすでにアラームの意味を何割か失っている。
つまりすぐには起きられない。

「観月さん?観月さんってば…起きてくださいよ!」

気がつくと自分の腕の中、自分の顔の間近に巴の顔があった。
当然といえば当然なのだが、観月は非常に驚いた。
どうやら、自分も眠ってしまったらしい。
しかも普段は寝汚い(早川談)巴が自分を起こしているのだから。
ちょっと屈辱感すら覚える。
もっとも隣にいる巴の姿で帳消しだが。

「おはようございます。観月さん、よく寝ていましたね」

観月さんのこんな一面が見られて嬉しいです、そういって巴はにっこりする。
言われた本人もそれに釣られてつい笑みが漏れる。
巴はかわいい。彼女を見るだけで表情が和らぐのは当然だ。
少なくとも真剣に観月はそう思っている。

「おはようございます、巴くん、君もスッキリ出来たようですね」

先ほどの赤い眼とは打ってかわって爽やかな表情を見せる巴は
まるで朝の使者のようだと、
他人が聞いたらかなり恥ずかしく思うようなことを観月は平気で思った。
いつか、こういう朝の風景が日常になるのだろうか。
自分の誕生日なんて特別な日だけでなく。
当然のように彼女が隣にいて、起こしたり起こされたりする。
そういう生活も悪くない。
今はまだ早いけれど。
うっかり制服のまま寝てしまった巴は寝ジワを気にして
すでにベッドから起き出して、鏡の前で自分の姿を見回し確認している。
そういう姿を眺めることすら楽しく感じる。
いとおしい。
驚いたけれども、こんな誕生日祝いも悪くないな、と思った。



END


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