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赤月巴と観月はじめは七夕祭りへとやってきていた。
去年に引き続いて2度目。
つきあい始めてからは初めての七夕だ。
巴にグイグイ引っ張られて、この手の祭りには慣れていない観月も
普段は不衛生だと手を出さない屋台の食べ物や
子供だましだと敬遠している遊技系の露天に興じている。
もっとも性格上純粋に祭を楽しめている訳では無いが
美味しそうにアメをかじったり
楽しそうに輪投げしたりしている巴を見ている分には充分楽しく幸せだ。



*去年の願い星



「ん~!本っ当にお祭りって楽しいですよねー!観月さん!!」

いかにも満喫していますと言った表情で観月に巴は話しかける。
そんな表情を見て、観月は既に緩みがちな顔がますます緩んでいく。

「ボクはお祭りより何よりキミを見ているのが一番楽しいんですけどね」

何でもないかのようにさらりと観月は口に出す。
なんで観月さんってこういう恥ずかしいことを平気で口に出しちゃうんだろ?
聞いているこっちがもの凄く恥ずかしくなっちゃうよ…!
夜目にもはっきりと分かるくらい頬を紅潮させて巴はうつむく。

もう何度も甘い言葉を囁かれていることは自覚しているけれども
いつまで経っても巴はそれに慣れない。
聞く度に恥ずかしくなるし、猛烈に照れる。
どういう表情をして良いかも分からない。
それを観月は見越した上で色々と口に出すのだが、
もちろん、巴本人はその事には気づいていない。

いつもながら照れてうつむく巴はとても可愛い。
その表情を引き起こしているのが自分だと思うとなおさらのことだ。
他の男にはさせられない、彼女の表情。
鮮やかに紅く色づく頬。
甘い言葉に動揺して揺れ動く眼。
嬉しそうにゆがむ唇。
どれひとつとっても可愛い。
箱の中に閉じこめておきたいけれど、全世界にも発表したい。
そんな相反する感情を呼び起こさせる。
どちらにしても独占欲が起因しているのは確かであるが。
自分だけのものにしたい。
自分だけのものだと皆に知らしめたい。
商店街の祭会場のど真ん中でそんな感情が押し寄せる。
今いる場所がこんな所でなければ良かったのに。
世間体というものから隔離されたところであれば
迷い無く自分の腕の中に彼女を閉じこめるのに。

しかし巴はそんな彼の感情をつゆ知らず、
ふらふらと祭の雑踏の中を迷い無く泳いでいく。

「あ、ありましたよ!観月さん!笹!笹!」

短冊を飾り付ける大きな笹を発見して巴ははしゃぐ。
笹には地元の子供達が作っただろう拙いけれど一生懸命さが伺える
飾り付けと共に人々の様々な願いの短冊が吊されていた。
そう言えば、去年もこの場所の笹に短冊を下げたんだっけ。
二人は同じ事を思い出す。
今思えば、練習は別として二人が初めてプライベートで出かけた場所だ。
当然思い出深い。

「そういえば…」

1年前のあのときは『観月さんと親しくなれますように』なんて
我ながら可愛いことを書いたものだ。
巴は当時のことを思い出ししみじみとしてしまう。

「巴くん?そういえば、なんなんです?」

そういえば…の後、思い出に浸ってしまい、つい無言になってしまった巴を
そんなことだとは知らない観月は気にかける。

「あっ…すいません!たいしたことじゃないんです。
ただ去年書いた願い事のことを思い出していただけで…」

ついつい正直に口を滑らしてしまう巴。
そういう言われ方をして気にならない人は少ないだろう。
観月もその一人だ。
そのように言われてしまうと、訊いてみたくなる。

「去年の願い事ですか、何を書いたんですか?」

「ええっ…!それ、言わなきゃイケナイですか?」

「そういえば…と言いかけたのはキミの方ですよ。
なにか人に言えないことでも書いたんですか?」

「……そういう訳じゃないんですけど……」

巴は思わず顔が赤らんでしまう。
二人は現在はいわゆる「お付き合い」している関係で
好きだとか何とか言い合うのには問題はないが言い慣れている訳ではない。
去年のお願い事を言うなんて、まるでまた告白するみたいだ。
少しうつむいて考えてみる。
言うべきか、言わざるべきか。
そのうちに巴を見かねてか観月が先に口を開く。

「じゃあ、ボクの願い事も言いますから、キミも言えますね?」

ぱっと巴が顔を上げる。
知りたい。
観月さんの、願い。
多分『全国制覇』とか『確実なデータが採れますように』なんだろうけど。
それでも気になる。

「えっと、じゃあ…。
私は……『観月さんと親しくなれますように』です」

恥ずかしくてまたもやうつむきがちになりながら
上目遣いで観月を窺う。
するとなにか笑いを堪えているかのように観月の方が揺れている。
いや、かのように、ではなく正真正銘笑っていた。

「あっ!観月さん、笑うなんて失礼ですよ!
大体私だって恥ずかしいんですから…!」

直ぐさま巴は抗議の意を表明する。
しかし観月は受け流し、声を出す。

「いいえ、おかしくなんてないんですよ。
ただボクの願いが『巴くんの願いが叶いますように』でしたからね。
これはむしろボクの願いの方がおかしいんですよ」

巴は良くその言葉の意味が分からず呆気にとられる。
つまり巴の願いを叶える→観月と巴が親しくなる、と言うことで。

「まるで、私の願いが分かっていたような答えですねえ。
さすが観月さん。データですか?」

まさか、そんなはずはないと分かっていてもつい訊いてしまう。
大体データで気持ちが分かってしまったら怖いじゃないだろうか。
しかし、相手は観月だからなんでもありな気になってしまう。
いままでずっと読まれたり見透かされたりし続けてきた相手だから。

「まさか、そんな」

当然観月もあっさりと否定。
しかし言葉を続ける。
「でも…そうですね。
あのときボクは自分の願い事よりもキミの願いが叶うと良いと思ったんですよ。
もちろん、ボクにも願い事ぐらいありましたが
その大体は自分の実力で叶えるべきものでしたから短冊には書けなくて…
結局何を書こうかと思った時にキミの顔が思い浮かんだんです」

巴は話の趣旨が見えずにただジッと聞いている。
観月はそれに気づいて分かり易く説明しようとする。

「つまりですね。
自分の願いよりキミのことが気になったんですよ。
キミの願いが何であれ、叶って幸せになればいいと思いまして」

もともと紅かった巴の頬がますます紅くなる。

「で、つまり、短冊に書かなくても私の願いは叶っていたと言うことですか?」

結論を聞いてみる。そこまで説明されれば当然気づくというものだ。

「んふっ。そういうことです、もう親しすぎるほどだったんじゃないですか?
あとは、きっかけが必要だっただけで」

「それじゃ、もったいなかったですかね…?」

残念そうに巴は言う。
もっと他のことを書いてみれば良かったかな、と。

「いいえ、それは違いますよ。今だから言ってしまいますけど、
ボクはあのとき、キミの短冊を見てしまったんです。すいません。
でもその時からどうやってキミとこうして一緒になるきっかけを作ろうか
必死になって頑張ったんですからね。
慎重なボクのことです、キミの気持ちを知らなければ
なかなか行動に移すことはなかったでしょうね」

「くすっ、じゃあ、今年はなんて短冊に願いを書けばいいでしょうかね?」

そして記載台に短冊を置き、二人は書く態勢に入る。
巴の台詞に、観月は少し考えてからこう答えた。

「そうですね、去年と一緒でいいんじゃないんですか?
……あっ、キミは『観月さんと《もっと》親しくなれますように』ですね」



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