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観月さんお誕生日祝い。観月視点。




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『好きなもの・趣味』が明確な人間に贈り物をするならば、自分も同じ『好きなもの・趣味』を持たない限りはむしろそのジャンルは避けた方がいいと思う。
彼らは自分の好みを既に把握しており、種類・知識に精通している。
「あの人はあれが好きらしいから……」素人考えの中途半端な贈り物を『気持ち』以外の部分で全面的に喜べるかどうかと問われると微妙なところだろう。
もちろん、人によっては「好きだから何でも嬉しい」という考えの人もいるだろうけれども、観月はじめは違うのだ。
だから今日、15歳の誕生日にいろんな人たちから──知っている人間からも知らない人間(きっと自分にあこがれを抱いている女子だろう)からも、贈られてくる紅茶・紅茶グッズにウンザリしていた。
茶葉はまだいい。自分の好み以外は寮の食堂にでも置いてしまえばいい。
しかし、小物類は困る。
捨ててもいいが捨ててしまったことがバレるのも厄介だ。だから外面の良い自分はつい処分を躊躇ってしまう。
それゆえ困るのだ。
困るのに。
正面に立つ少女、赤月巴はニコニコと邪気の無い笑みを浮かべながら観月に明らかにティーポット大の箱を差し出している。
別に開封しなくても、形といい大きさといい、ティールームもある人気雑貨店の包装紙といい、きっとそうだと分かってしまう。
ティーポットなんて気に入ったモノが一つあれば充分だというのに、まさか彼女は自分がポットの一つも持っていないとでも思っているのだろうか。なんて気が利かないのだろう。
それなのに、自分の両手は何故彼女へ伸ばしているのだろう、戸惑いながらもその箱を手にしているのは一体。
包みを開けると案の定ティーポットだった。
さすが人気店のものだけあって、万人受けしそうな小奇麗なデザインだったが、生憎自分の好みとは少し違うようだ。
まあ、田舎から出てきた中学一年生の女子が選ぶのであればこんなものだろうか。
自分で選ぶならもう少し華やかな、部屋にあっては目を楽しませるようなものが良い。
けれども、口は彼女に礼を告げていた。
目の前の巴は先ほどよりもいっそう笑顔を輝かせていた。
ただ、自分がプレゼントを受け取っただけだというのに。
不意に己の感情が沸き立つのを感じる。
そして、彼女の口から「お誕生日おめでとうございます」そう凡庸でありきたりな言葉が出ただけだというのに。
何故こんなに暖かな気分になってしまったのだろう。
これまで、他の誰にも感じたことが無かったこの気持ちは何なんだろうと戸惑いを覚え、また、一度取り出したポットを大事そうに箱に戻している自分の手が信じられなかった。
観月はじめは決して「貰えるものならもしくは好きなものなら、何でも嬉しい」そんな風に思うことはないのに。
今日も沢山押し付けられた紅茶グッズにウンザリしていたというのに。
それなのに。
どうして。
明らかに自分には必要のないプレゼントを、彼女からは嬉々として受け取っているんだろうか。
ライバル校、それも自分の手駒にする予定の少女に対してのいまの自分の行動は、明らかに間違っていると分かっているのに。
どうして。
そして、この気持ちは。
一体、なんなのだろうか。
どう定義づければいいのだろうか。
この行動を、この気持ちを──人は、それを何と呼ぶのだろうか。
自分の中の何かが、いまは知る必要がないと叫んでいる。きっとそうなのだろうと思う。
都大会、関東大会、全国大会へとすすんでいくためには知る必要がないことだ。少なくともこの現状では。
しかしそれでも、いつか。
なぜか自分は、人は、それを何と呼ぶのか自分も知る日が来るのだと、予感ではなく確信している。
それもまた、遠い日ではなく。



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