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切原×巴。友達以上恋人未満的な、そんなカンジ。




***

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「あー! まいったな」

会員になっているテニスクラブの入り口に貼られた紙を見て、切原赤也は声をあげた。
時は年末。クリスマスの飾りが取り外されると同時に、街の至る所に『年末年始の休業日』のお知らせが増えていた。
このテニスクラブでも例外では無かったようで、素っ気ない白い紙には休業日が印刷されていた。

「まあ、確かに明日から休みなのはちょっと困っちゃいますけど、仕方ないですよー」

苦々しく頭を掻いている彼を横目に、ふふっと笑いながら赤月巴はそうフォローした。
テニスクラブの休業日を知るだけでこんなにがっくりしている彼を、巴はほほ笑ましく見ている。
彼がどんなときでも、実生活でもテニスのプレイでも自分の感情を抑えないところも巴は結構気に入っているのだ。
ただ、それを言うと調子に乗ることが分かり切っているから口にする予定はいまのところない。

「だってよー」

切原は不満げな表情を隠そうとしない。

「年明けまでお前と会う用事が無くなるじゃん、俺とお前ってテニスな間柄なワケだし」

……だから、クリスマスも殆どテニスで終わったんですか……、先日のクリスマスをデートというよりラリーとケンタッキーで終了した記憶を反すうさせつつ、内心ツッコんだ。
ライバル校の選手同士の立場、お互いの性格も相まって2人の関係は実に曖昧だ。
恋愛感情を仄めかせて始まった関係だったはずが、単なるテニス仲間とさほど変わり無い関係が続いている。
会って、テニスをして、たまにご飯食べて遊んで……それは友情の域を超えないレベルでの付き合いだ。
ごく、たまーにその域を超えることが無かったわけでは無いけれども、それが持続するわけでも無く気付いたらいつのまにか友情の域内に戻っている気がする。
それでも巴は切原が引退したらもうちょっとどうにかなるだろうと思っていたわけだが、そうでは無かったのだろうか。
やっぱり単なるテニス仲間でしかなかったのか。ちょっと毛色の変わった女子というだけ、それだけちょっと特別な。
そう思ったらいたたまれない気持ちになって、思ったことを理性というフィルターを通さずに口に出していた。

「それは、テニスが出来ないと私と会う必要がないってことですか? それ以外は嫌ですか」

これまでも漠然と感じていた不安。もやもやの原因を、気付いたら彼にぶつけていた。
これで希望も友情すらも全て断たれてしまうかもしれないことには、口から全ての言葉が出終わったあとに気付いた。
いま2人の立つ場所がテニスクラブの入り口で、これからプレイするために訪れたのだということを思い出したのも、その後のことで、出来るならいまの発言を取り消したいと心底思った。
こんなやり取りを、こんな場所で今年最後になるもしれないテニスをプレイする前にすべきではなかった。
しかし切原は「さっさとコートに出ようぜ」と、まるで巴の発言が聞こえなかったかのように、何事も彼女の手を引き、更衣室の前で別れた。
何だか顔を合わせづらいなと、だらだらテニスウェアに着替えた。
さすがに、ここで切原の前から逃げることも叶わず、しかしいつもよりも時間をかけてコートに出た。
切原は当然先に待っている。

「おっせぇよ、赤月。さっさと始めるぞ」

先ほどと変わらず、何事も無かったように切原は物事を進めていく。
ただ、黙々とアップを済ませて2人で打ち合うことに集中する。
テニスをすれば、ネットを挟んで向き合えば、巴もテニスプレイヤーらしく余計なことは考えずプレイに打ち込むことが出来た。
ただ、それは問題を先送りにしているだけだと一瞬だけ思ったけれども、さすがに切原とのテニスは面白い。それ以降は何も考えず、テニスを楽しんだ。
「そろそろ引き上げようぜ」切原がそう声を上げた時には、こんなに時間が経ってるとは思わず驚いたくらいだ。
気付いたらウェアは汗染みが出来るほどで、気まずさから黙々といつもよりも集中していたせいかかなり没頭していたらしい。
やはり切原とのテニスは楽しい。もういっそのことこのままで関係を続けても良いのかもしれない。
つい、そう考えながらざっとシャワーを浴びて、テニスクラブのラウンジで待つ切原のところへと向かう。
コートに出た時にも気付いてはいたが、年末最後の営業のせいかテニスクラブに来る客はいつもより少なく閑散としている。
ラウンジには珍しく誰もいない。従業員も最後というせいかそれぞれ散って片づけや掃除をしているようだ。
こんな調子じゃやっぱり年末年始は休んでいた方が良いよねと納得するくらいに。
切原は珍しく物憂い顔で、ラウンジの椅子に座って待っていた。

「あ、お待たせしました」

「……ん、ああ……」

なんだろう、この気まずい雰囲気は。
やはりさっきの会話のせいだろうか、いつもなら揃ったらさっさと席を立って近くのファミレスやファストフード店に向かうのだが、なんとなくそんな雰囲気では無さそうで、内心ドキドキしつつ巴も椅子に座ってみた。
「…………」しばらく2人とも沈黙が続く。
なにかこちらから言った方が良いのだろうかと、巴はなにか良い言葉が思いついたわけでも無いのに口を開こうとした。
しかし、それは切原の言葉に遮られた。

「あ……、あのさあ」

「はい」

「…………」

「…………」

「……もしかして、俺ってお前のこと、テニス以外でも誘っていいワケ……?」

「……はい?」突然何を言い出すのかと思ったら全く想定外のことで、巴は間の抜けた返事をしてしまう。周囲に見られていたら相当変な顔をしていたに違いないとあとになって思ったくらいだ。
「むしろ、テニス以外のことも誘って欲しいんですけど」とりあえず、自分の希望を端的に述べてみた。
対する切原は「やったっ」と小さくガッツポーズをしていて、巴は小首をかしげた。

「いや、だって、なんてーの? なんとなく俺って単なるテニス仲間に思われてそうだし? てかお前、憎たらしい先輩方を始めとして他校の男子にもテニス仲間が多いじゃん。俺もその中に含まれてんのかなーなんて思ってよ。ちょっと最近へこんでたってか、そんなカンジでさ」

どうやら、切原も巴と同じようなことを感じていたらしい。
言葉足らずで、気持ちが伝わっていないのはお互い様だったらしいことに気付いた。

「つーか、テニス以外でどうやって誘えばいいんだよって話でさ、……なんか悩むじゃん」

「普通にどこいこうとか、そんなで良いんですよ」巴は急に嬉しさが込み上げてきてくすくす笑いながらそう答える。

「だって、私は切原さんに誘われたら嬉しくってどこでも行っちゃうんですから。──単なるテニス仲間だなんて思ったことは一度も無いんですから。つまり、その、切原さんは特別なんです」

「お……おう」自分の言ったこと、巴の答えに対して急に照れが来たのか切原の目元はほんのり赤くなっている。
巴もそれにつられて頬が熱くなってきた。

「こ、ここ、暑いですね……」

「そうだな……」

お互い先ほどとは違った気まずさが漂う。
「あの、私、思うんですけど」巴はそれを打ち消すべく、慌てて声を出した。

「私たち、一度ちゃんと意思を確認する必要があると思うんですけど、つまり、私は切原さんを…………私の好きな人だと思ってますけど、切原さんはどうなんですか」

実に今更な話だが、考えて見ればお互いの気持ちを確認していない。
今日になって話がこじれているのはそれが原因なのだから、ここでもう一度ちゃんとしておかなくては全く意味がないだろう。
ちょうど年末だし、すっきりさせておくに限るとばかり、巴は言い迫る。

「──赤也」切原はぼそっとそう言った。「訂正しろよ」

「え?」

「だーかーら、赤也。そう呼べよ。俺は赤也。俺はお前のことは巴って呼ぶからさ。なんつーか……普通、好きなヤツのことは名前で呼ぶだろ、巴?」

「えええ、突然すぎて無理です!」

『普通、好きなヤツのことは名前で呼ぶだろ、巴?』その言葉を脳内でうっとりと反すうしつつも巴は慌てて答えた。

「恥ずかしくって無理です。ちょっと待って下さい!」

「恥ずかしいって……俺だって、恥ずかしいっての!」

先ほどよりもよほど顔を赤くして2人して言い合う。「呼べ」「無理」の応酬がしばらく続く。
息も切れてきた頃、切原がしぶしぶと「俺が年上だから折れなきゃな」ともっともらしく呟いてから、言葉を紡ぐ。

「じゃあ、来年からそう呼べ。今日はいいから。でも絶対だからな。で、正月は初詣付き合えよ。これも絶対な」

「出来なきゃ罰ゲームキス1回な」そう笑いながら言って、切原は席を立った。
巴は「横暴です」といいながらそれに従って自分も席を立つ。心の中で「──あかや、あかや」と練習しながら。
彼を切原と呼ぶのはどうやら、この年末を持って終了らしい。



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