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「全く!君は馬鹿ですか?」

「……」

「いえ、言い方を間違えましたね。疑問でなく君は本当に馬鹿です」

観月は眉をつり上げうなだれている巴を見下ろす。
見下ろすといってもほんの数センチの差でしかない訳だが。



*そんなきみが…



現在ジュニア選抜の合宿に参加している彼らは
あいかわらず学校という垣根を越えて一緒に行動していた。
もっとも観月と巴というより、ルドルフスクール組と巴といったカンジだ。
青学の面々は多少複雑なところもあるようだが、
巴は一向に解しない。
そもそも他人の感情に恐ろしく鈍い━━━その被害者の筆頭は観月だろう。
単に怖くてしかし親切な先輩だと思われているのではないかと
寝ずに悩むこともしばしばだ。
そして今、巴がうなだれている現在もそれに振り回されている。

二人の足下には湯気の立った湯が広がっている。
そして巴の両足は裸足になっており、湿った靴と靴下は近くに転がっている。
状況から見ればお湯が足にかかったのは明白だ。

「まあ、いいでしょう。今はそれどころじゃありませんから」

「わわっ!」

そういうと巴を横抱き、いわゆるお姫様抱っこの状態で
キッチンカウンターに乗せ、シンクに足を降ろさせ凄い勢いで水を流す。

「つつつ冷たいです!それにイタイです~!観月さん!!!!」

巴は先ほどまでうなだれていたのも嘘の様にわめき散らす。

「自業自得です!それに君のためなんだから我慢しなさい!」

---

合宿はきわめてハードに行われているものの、
それに見合うように休憩時間もキッチリととられている。
15時ぴったりに彼らは休憩を言い渡され、
スクール組面々とお茶を飲むべく食堂にやってきた。
普段は観月セレクトの茶葉を彼本人が紅茶のルールに従いキッチリと入れるが
今日に限っては「たまには私にも入れさせてください!」と張り切った
巴がお茶を煎れるべく食堂横の厨房へと入っていった。
しばらくして金属音と高いところから落ちてきたような水音と沈黙。
皆なんだろうと色めき立ったが、奥から
「お騒がせしてスイマセン~」と巴の声がしたので気にもとめなかった。
また何か巴がドジなことをしでかしたのだろう程度だった。
しかし、何かが引っかかった観月は一人だけ巴の様子を見に行った。
まったく、目を離すとあぶなかっしくて仕方ない。
今度は何をしたというのだろうか。
厨房のドアをくぐり目にしたのは、足にお湯をかけ立ちつくしている巴。
あわてて靴と靴下は脱いでしまったらしい。
━━━呆れた。
観月は一瞬思考停止してしまった。
明らかに熱湯をかけてしまったというのにこの娘は何をしているのだろう。
隣の食堂にいるというのにこの自分に助けも求めず、
かといってすぐに冷やしたりといった応急処置をする訳でもなく立っている。
しかも、火傷の時は患部を覆った布などは取らずにそのまま冷やすのは常識だ。
いや、常識とは言わないまでも
すくなくともスポーツドクターを志す人間には必要な知識ではないのか?
それになにより、
とっさに助けを呼んだりしない位自分は信頼されていないのだろうか?
自分はこんなに心配しているというのに。
こいつは馬鹿か?
その感情はついつい声に出してしまうことになった。

---

「つくづく馬鹿ですね、君は。
こんなコトになっていたというのに何故黙って突っ立ってるんですか」

「だって、熱くて痛くてビックリして…」

「ビックリしたのはこっちの方です。
あまりのことに心臓やら胃やらも痛くなりましたね。
しかも、誰も呼ぼうとしないどころか平気を装ってましたよね」

「また迷惑かけちゃうかなー…って」

「誰が迷惑だなんて言いました?」

「だって観月さんすぐ怒るしー」

だって顔が怒ってるし。
こんなあからさまな表情の観月さんて珍しいし。
やっぱりちょっとこわいなーと思う巴。
もっともそれも嫌ではない様子。

「いつ怒ったって言うんですか」

「今」

「……」

あまりの巴の言い草に観月はフリーズ。
ただ水が勢いよく流れる音だけが響く。
まったく巴くんから出る言葉はびっくり箱みたいですね。
何が出てくるものだか分かったものじゃありませんよ。
それでも気を取り直して観月は話を続ける。

「そりゃ、怒りもしますよ。
処置が遅れて悪化でもしてテニスが出来なくなってしまったら
どうするというんですか?
しかも迂闊にも処置の方法は間違ってますし」

「そ、それは…そうですけど。
観月さんは私のテニスだけが心配なんですか?」

巴にはまるで自分自身の身体は心配じゃない様に聞こえ
少しふてくされる。
そんな巴の気持ちを察したのか観月は答える。

「当然心配ですよ。
僕を冷血人間か何かだと思っているんですか。
それでなかったらどうして僕がここにいると思うんですか?
君の身体に傷でも残ったらすぐに駆けつけなかったことを
悔やんでも悔やみきれませんよ」

少し声のトーンを和らげる。
それに巴もすこしほっとした表情を見せ、
それから一転して厳しい表情、深刻な表情で言葉を口に乗せる。

「私の身体に傷が残ったら━━━それで観月さんが悔やむんであれば、
責任をとってもらいますから、大丈夫です」

当然いぶかしげな表情を見せる観月。
話が読めない。

「責任?」

「はい。責任を取ってお嫁にとってもらいますから」

「━━━!!!」

観月の全身に動揺が走る。
もちろん、巴がそう言う目で自分を意識していたのは嬉しい。
少なくともただの他校の先輩、テニス友達ではない様だ。
鈍い巴でもそう言うことには聡いらしい。
しかし。
しかし、こういうコトは先手必勝で言うことでもない。
ましてや合宿所の厨房で火傷を冷やしつつなんて。
観月の美学としてはきちんとムードをつくって…
順を追って言って欲しい。
と、言うより男の自分が先に言いたかったコトだ。
少し悔しい。
悔しい、だから。

「じゃあ、傷にならなければ僕は責任を取らなくていいんですかね。
つまり━━━君を娶とらなくていいと」

お返しといわんばかりにイジワルを言ってみる。

「あっ…それは!その…」

あわてふためいて否定になる言葉を紡ごうとするが
なんと答えて良いか分からない巴は口をパクパクするばかり。
それは言葉の勢いで。
出来ることならどっちにしてもお嫁に行きたい。
傷跡云々は関係なく。
中学生の身でそんなこと考えるのは尚早だとは分かっているけど
今の自分の気持ちはそう言う風に固まっている。
未だお互いの気持ちを確固たる言葉で確認したことすらないけれど。
愛の言葉なんてお互い囁いたこともないけれど。
私は嫌ではないし、観月さんだって嫌ではないはず。
観月さんはイジワルだ。やっぱり性格悪いよね。
しみじみ巴はそう思った。
そう言うところも好きなのだけど。

「ちょっと傷つきましたね。
いえ、ちょっとどころではなく大ダメージですね。
心の傷として残りそうですよ……」

一つ大きく息をつき言葉を続ける。

「だから、その責任を取ってお嫁に来なさい。
どうせ、馬鹿な君にはお嫁のもらい手なんてある訳無し
願ったり叶ったりなんじゃないですか?
僕の心の傷を一生かけて癒してもらいますからね、覚悟しなさい」

問題の患部は水をかけっぱなしにしているせいですっかり冷え切っていた。
火傷どころかむしろ悴んでじんじんするほどだ。
しかし、巴は気づかない。
あまりの台詞に口を大きく開けたままだ。
そのとき、出しっぱなしの水に気付いた観月は水道栓を閉めこう言った。

「本当に君は馬鹿なんだって、つくづく思いますよ。
ほら━━━足が色を失っているじゃないですか。
君は本当に馬鹿ですね……僕がいないとなんにもできないんですから」

そう言うところも君の魅力の一つではあるんですけどね…。
観月はそう思ったけれども、
調子づけたら今回は事なきを得たものの本当に何をするか分からないので
言わないことにした。



END
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