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アンケート3位でした。手塚×巴です。
手塚卒業後プロ設定です。
***
巴にとっては生まれてから当然のようにあるものなのだが、周囲の大人にとってはそうでないものがある。
学校の先生や部活顧問、下宿先の越前家夫妻などは携帯電話やパソコンがそうだと言う。
いまやあるのが普通みたいだけど、そうじゃないんだな、便利ってありがたいなと巴は実感している。
特にネットを介せば日本だろうが世界だろうがどこでも連絡が取れるし、音声通話ソフトを使えば通話どころかテレビ電話ですら無料で出来ちゃったりするのだから本当に良い世の中になったものだと、生まれてから十数年の若者が生意気にもしみじみと思う。
プロテニスプレイヤーとして駆け出した巴の想い人手塚国光はあいにく日本に留まっていない。
本人にもよくわからないのだがと言わしめるほど世界中を遠征していて、なかなか捕まらないのだ。
けれど、手塚がネットにつなげる環境のところにいればなんとか連絡が出来るし、こうして電話代など気にすることもなく会話も出来る。
手塚から「いま良いだろうか」と携帯電話にメールがくれば、それが通話の合図で、マイクのついた無線のヘッドフォンを着けながら巴はそそくさとパソコンを立ち上げる。
「──で、いま赤月は何をしていた?」
「はい、この間の全仏オープンの録画を見直してました。さすがに技を盗むのは難しいですけど参考になるかな~って」
「そうか向上心のあるところはお前の良いところだな。で? 見ていてどう思った」
お互いの気持ちは通じ合っていると思うのだが、話すと相変わらずの先輩後輩で部活から脱しきれていないような感じがして、巴はそのことを少し気にしていた。
もっともくだけた話題をする手塚もあまり想像できないままなので、仕方ないとは思うのだが。
なので、そのままテニスの技術向上について延々を話し合うことになってしまった。
手塚は巴の都合の良さそうな時間、例えば休日だったり、部活が早く終わる日の夜だったり、そんなときにしか連絡してこない。
元部長ゆえの生真面目さか生来の性格ゆえか、自分も試合や練習で疲れているはずなのに、時差のために昼夜逆転していてもそれは必ず守る。
巴のことを気遣ってくれているのがよくわかる。
だからこの時間はとても貴重で、テニスの話以外にもすることがあるような気がして焦りを覚えたりもするのだが、相変わらずそれ以外の話をどうすれば切り出せるのかわからないままなので結局小一時間テニス論だけで通話終了したりすることもある。
きっと今日もそうなるのだろうと、半ばあきらめながら、それでも熱心に手塚と会話をする。
「あっ」
つけっぱなしだったTVにはカラフルな色彩のウェアを着たトッププロ選手が映っている。
日本でたとえ学校のユニフォームだとしてもそんな色を身につける選手はあまりいないので思わず声を上げてしまった。
「どうした?」
通話では巴の驚きがどこから来ているのかはわからない。手塚はどうしたのかと尋ねてみた。
「いえ、何かあったわけじゃないんですけど、いまテレビに映ってる選手のウェアがすごい色だったのでちょっと驚いちゃって」
「ああウェアか、たしかに有名選手になればなるほど大手メーカーとのタイアップがあったりして人目を引くようなウェアを身に着ける傾向にあるな」
納得したように、手塚はそう返した。
「ということは……先輩もこのままいくと、ピンクとか黄色のウェアを身につけるってことですか! えええ!」
それは、想像できない。というか何となくしたくない。
でも着る可能性があるのだということを知らされて心底驚きの声を上げてしまう。
厳しさが先に立って巴はあまり意識したことがなかったが、手塚は確かにルックスもスタイルも完璧で問題がない。だから、着てみれば案外似合うかもしれない、しかしそれにしてもキャラじゃない。
どうやって阻止すれば良いのだろうと真剣に考え始める。
「何を考えてパニックに陥っているのか安易に想像はつくが……落ち着け。いますぐ着なければならないという話ではないし、そもそも色は選手に自由に選ばせてもらえるだろう」
自分に自信がある手塚だから、そんな話は来ないとは言わない。むしろトップ選手に混じってメーカーから提供があることは前提で話している。巴もそれに気づいて少し安心する。
プロに混じって苦労はあるだろうけど、それでも上を見続けている、自分なんか…と卑下しない手塚の心に、まだまだこの人は強くなるということを確信して安心した。
「よかった~、手塚先輩の青学ジャージ姿と制服姿とかとにかくシンプルな姿しか想像できなかったので、ちょっと怖くなっちゃいました」
強烈な色のユニフォームの手塚が怖い。そんな直接的な言葉はさすがに巴も遠慮した。
「……そうか、でもいまお前が見ている選手の舞台に俺が立てるようになる頃には覚悟してもらわないとな」
「えっ、やっぱりああいう色のウェアを着るってことですか?」
「そうではなく、俺があの選手の年齢に、そしてランキングになる頃には──流石に俺もお前の横で普段とは違う格好をしたくなっているだろうからな」
「?」
手塚には見えないが、巴はさも意味が分からないという表情で首を傾げていた。
普段と違う格好とはどういうことだろう。
「ほら、あの、白いタキシードと言うかタキシードじゃなくて着物でも良いんだが、その時にはお前が隣にいると良いと言うか……………………いや、いまの言葉は忘れてくれ。俺は一体いま何を言いたかったんだろうな……………………通話切るぞ、身体に気をつけてな」
珍しく手塚は一方的に言いたいことを言って通話を終えてしまった。
流石に最後の言葉に巴は手塚が何を伝えたかったのかはわかる。
TVの中で試合をしている選手は23歳。
23歳のころの未来の手塚と自分。
10年近く先の未来だけれど、その言葉を信じて待っていても良いのだろうか。
電話でテニスの話しかしない間柄でも? いま初めてそのテニス以外の話をしたわけだけれど。
ヘッドフォンから聞こえた手塚の低く響く声は甘く、その意味も相まって破壊力抜群で、巴はゆでダコと言われても否定できないくらい真っ赤になった。
手塚国光という人はなんて一本筋の通った人なんだろう。まだ10代なのに、付き合いたいと決めた女性との未来を早くも考えてくれている。
この先プロとしての彼、日本で自分の道を歩く巴が、果たして何年後もこのままで、お互いを想うままでいられる保証はないというのに。
いや、保証がないからこそ、未来を描いてしまうものなのだろうか。
「耳元でそんなこと言われたら……従うしかないじゃない……」なんとか気持ちを落ち着かせようと、深呼吸をしながら思わずこぼす。
ふと、白でありながらも、白いタキシードを着た手塚はきっと誰よりも派手に映ることだろうなと思ってしまい、それを想像してしまったら更に気持ちは落ち着かなくなってしまった。
いまの言葉、実際に逢って聞いたものではなくてよかったと巴は目の前のパソコンに感謝した。逢えばもちろん嬉しいけれども、そんな状況に耐えられそうになかったし、きっとそれは手塚も同じ思いだろうと簡単に想像できたから。
それにきっと、彼は巴が目の前にいないからこそあんなことが言えたのだろうこともまた想像できたから。
耳元に残る声を反芻しながら、改めて良い世の中になったものだと巴はしみじみ感じていた。
END
手塚卒業後プロ設定です。
***
巴にとっては生まれてから当然のようにあるものなのだが、周囲の大人にとってはそうでないものがある。
学校の先生や部活顧問、下宿先の越前家夫妻などは携帯電話やパソコンがそうだと言う。
いまやあるのが普通みたいだけど、そうじゃないんだな、便利ってありがたいなと巴は実感している。
特にネットを介せば日本だろうが世界だろうがどこでも連絡が取れるし、音声通話ソフトを使えば通話どころかテレビ電話ですら無料で出来ちゃったりするのだから本当に良い世の中になったものだと、生まれてから十数年の若者が生意気にもしみじみと思う。
プロテニスプレイヤーとして駆け出した巴の想い人手塚国光はあいにく日本に留まっていない。
本人にもよくわからないのだがと言わしめるほど世界中を遠征していて、なかなか捕まらないのだ。
けれど、手塚がネットにつなげる環境のところにいればなんとか連絡が出来るし、こうして電話代など気にすることもなく会話も出来る。
手塚から「いま良いだろうか」と携帯電話にメールがくれば、それが通話の合図で、マイクのついた無線のヘッドフォンを着けながら巴はそそくさとパソコンを立ち上げる。
「──で、いま赤月は何をしていた?」
「はい、この間の全仏オープンの録画を見直してました。さすがに技を盗むのは難しいですけど参考になるかな~って」
「そうか向上心のあるところはお前の良いところだな。で? 見ていてどう思った」
お互いの気持ちは通じ合っていると思うのだが、話すと相変わらずの先輩後輩で部活から脱しきれていないような感じがして、巴はそのことを少し気にしていた。
もっともくだけた話題をする手塚もあまり想像できないままなので、仕方ないとは思うのだが。
なので、そのままテニスの技術向上について延々を話し合うことになってしまった。
手塚は巴の都合の良さそうな時間、例えば休日だったり、部活が早く終わる日の夜だったり、そんなときにしか連絡してこない。
元部長ゆえの生真面目さか生来の性格ゆえか、自分も試合や練習で疲れているはずなのに、時差のために昼夜逆転していてもそれは必ず守る。
巴のことを気遣ってくれているのがよくわかる。
だからこの時間はとても貴重で、テニスの話以外にもすることがあるような気がして焦りを覚えたりもするのだが、相変わらずそれ以外の話をどうすれば切り出せるのかわからないままなので結局小一時間テニス論だけで通話終了したりすることもある。
きっと今日もそうなるのだろうと、半ばあきらめながら、それでも熱心に手塚と会話をする。
「あっ」
つけっぱなしだったTVにはカラフルな色彩のウェアを着たトッププロ選手が映っている。
日本でたとえ学校のユニフォームだとしてもそんな色を身につける選手はあまりいないので思わず声を上げてしまった。
「どうした?」
通話では巴の驚きがどこから来ているのかはわからない。手塚はどうしたのかと尋ねてみた。
「いえ、何かあったわけじゃないんですけど、いまテレビに映ってる選手のウェアがすごい色だったのでちょっと驚いちゃって」
「ああウェアか、たしかに有名選手になればなるほど大手メーカーとのタイアップがあったりして人目を引くようなウェアを身に着ける傾向にあるな」
納得したように、手塚はそう返した。
「ということは……先輩もこのままいくと、ピンクとか黄色のウェアを身につけるってことですか! えええ!」
それは、想像できない。というか何となくしたくない。
でも着る可能性があるのだということを知らされて心底驚きの声を上げてしまう。
厳しさが先に立って巴はあまり意識したことがなかったが、手塚は確かにルックスもスタイルも完璧で問題がない。だから、着てみれば案外似合うかもしれない、しかしそれにしてもキャラじゃない。
どうやって阻止すれば良いのだろうと真剣に考え始める。
「何を考えてパニックに陥っているのか安易に想像はつくが……落ち着け。いますぐ着なければならないという話ではないし、そもそも色は選手に自由に選ばせてもらえるだろう」
自分に自信がある手塚だから、そんな話は来ないとは言わない。むしろトップ選手に混じってメーカーから提供があることは前提で話している。巴もそれに気づいて少し安心する。
プロに混じって苦労はあるだろうけど、それでも上を見続けている、自分なんか…と卑下しない手塚の心に、まだまだこの人は強くなるということを確信して安心した。
「よかった~、手塚先輩の青学ジャージ姿と制服姿とかとにかくシンプルな姿しか想像できなかったので、ちょっと怖くなっちゃいました」
強烈な色のユニフォームの手塚が怖い。そんな直接的な言葉はさすがに巴も遠慮した。
「……そうか、でもいまお前が見ている選手の舞台に俺が立てるようになる頃には覚悟してもらわないとな」
「えっ、やっぱりああいう色のウェアを着るってことですか?」
「そうではなく、俺があの選手の年齢に、そしてランキングになる頃には──流石に俺もお前の横で普段とは違う格好をしたくなっているだろうからな」
「?」
手塚には見えないが、巴はさも意味が分からないという表情で首を傾げていた。
普段と違う格好とはどういうことだろう。
「ほら、あの、白いタキシードと言うかタキシードじゃなくて着物でも良いんだが、その時にはお前が隣にいると良いと言うか……………………いや、いまの言葉は忘れてくれ。俺は一体いま何を言いたかったんだろうな……………………通話切るぞ、身体に気をつけてな」
珍しく手塚は一方的に言いたいことを言って通話を終えてしまった。
流石に最後の言葉に巴は手塚が何を伝えたかったのかはわかる。
TVの中で試合をしている選手は23歳。
23歳のころの未来の手塚と自分。
10年近く先の未来だけれど、その言葉を信じて待っていても良いのだろうか。
電話でテニスの話しかしない間柄でも? いま初めてそのテニス以外の話をしたわけだけれど。
ヘッドフォンから聞こえた手塚の低く響く声は甘く、その意味も相まって破壊力抜群で、巴はゆでダコと言われても否定できないくらい真っ赤になった。
手塚国光という人はなんて一本筋の通った人なんだろう。まだ10代なのに、付き合いたいと決めた女性との未来を早くも考えてくれている。
この先プロとしての彼、日本で自分の道を歩く巴が、果たして何年後もこのままで、お互いを想うままでいられる保証はないというのに。
いや、保証がないからこそ、未来を描いてしまうものなのだろうか。
「耳元でそんなこと言われたら……従うしかないじゃない……」なんとか気持ちを落ち着かせようと、深呼吸をしながら思わずこぼす。
ふと、白でありながらも、白いタキシードを着た手塚はきっと誰よりも派手に映ることだろうなと思ってしまい、それを想像してしまったら更に気持ちは落ち着かなくなってしまった。
いまの言葉、実際に逢って聞いたものではなくてよかったと巴は目の前のパソコンに感謝した。逢えばもちろん嬉しいけれども、そんな状況に耐えられそうになかったし、きっとそれは手塚も同じ思いだろうと簡単に想像できたから。
それにきっと、彼は巴が目の前にいないからこそあんなことが言えたのだろうこともまた想像できたから。
耳元に残る声を反芻しながら、改めて良い世の中になったものだと巴はしみじみ感じていた。
END
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