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web拍手のお礼に使用した話を加筆修正しています。
ロマンス映画を見たあとの二人の話。



***

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『あとのまつり』忍足×巴



「で、なんで私たち、こんな所でお茶してるんでしょうね?」

10月のよく晴れた休日の昼下がり、客席のほとんどが埋まったカフェで、赤月巴はいかにも腑に落ちないといった表情で目の前の男――忍足侑士に問いかけた。
忍足の返事よりも早くカラン…と巴のグラスの氷が返事をするように音を立てた。


『これにて上映は終了致しました』
映画の感動に浸る間もなく、無機質なアナウンスに促されてふたりは席を立った。
映画館を出る人々の流れに任せて表へ出ると、そのまま映画館前のカフェへと吸い込まれていった。

「いや、普通に映画の後のお茶やろ」

「そうじゃなくて、ちゃんと説明してください」

目の前でしれっとした表情でアイスコーヒーを飲む忍足に答えを要求する。

「せやから、たまたま映画鑑賞券を2枚貰ったんやけど、部活の男どもは『ラブロマンスなんて男と行くもんかー』なんて言うてな、仕方なく一人で行こうと思ってたところに丁度良くジブンが歩いとったっちゅーことやな」

「ちゅーことやな、じゃなくて……無理に連れ込まれたようなものじゃないですか」

確かに映画館前で巴は忍足に会った。
「丁度ええとこに!」と急に腕を引っ張られ、2時間あまり映画を見たあと現在に至る。
ちなみに巴は同居人菜々子に頼まれて駅前のケーキ屋にクッキーを買いに来ただけだった。
完全におつかい途中といった、パーカーとジーンズを身につけ手荷物は携帯と財布だけといった出で立ちで。
いま居るカフェがファミレス的なところだから良いものの、おしゃれなカフェなら気恥ずかしかったかもしれない。

「まあ、ええやん、なかなかおもろかったやろあの映画。主人公らのラブラブっぷりが評判やったんやで」

彼女の不服そうな表情は何のその、何事もなかったかのように忍足は話しかけた。
それに対して巴も忍足のおごりというミルクレープをつつきながら、まんざらでもない表情で肯定する。

「それはまあ……」

「そやろ、な? よかったやん、ジブンもタダで観れて。それにしてもまあ、最後あのヒーローは愛してる愛してる言いすぎやって。あれは凄いよな」

すっかり忍足のペースで話が進んでいるようだったので、巴は自分がここにいる理由の追及を諦めて話に付き合うことにした。

「ですよねえ、あれだけ言われたらきっと絆されちゃいますよねえ」

「――巴も絆されるんか?」

忍足はふいに真顔になって、巴に問いかけた。
よくよく考えると普段呼ばれることのない名前で呼んでいる。そういえばこれまでは「赤月」と呼ばれていたような。
巴はその言葉に一瞬ドキっと胸の鼓動が高鳴った気がしたが、理由については未だ気づいておらず、その結果高鳴りについては無視することにした。

「いえ、そういう愛してるとかって、私にはまだ早いかなあって。自分でいうのも難ですがテニス馬鹿ですから」

巴らしいとはいえ、そのつれない言葉に少々肩を落としながら、忍足は引き続き質問を投げかける。

「それやったら、いつなら早くなくなるん?」

「ええ? そ、それは分からないですよ、まだ中学生ですよ?」

巴は急に何を言うのだと言わんばかりに慌てて答える。
ロマンス映画は観ても、そう言った出来事が自分に降りかかることは全く想像したことがなかったからだ。
急にそんなことを訊かれても答えられるはずがない。
なんだか喉が急激に渇いたような気がして、慌てて自分のアイスカフェオレを啜り上げた。

「……そんな気持ちに早いも中学生も無いって思うんやけどな……まあ、ええわ」

忍足は「よっしゃ」と手をパンっと一つ調子よく叩き、ニヤリと笑って巴に宣言する。

「せやったら、ジブンが早くなくなった頃合いに言うてみたるわ」

「???」

「愛してるって言うたら、そのとき巴が絆されるかどうか知りたいしな。まあ見とき」

忍足も自分のアイスコーヒーを一気に煽り、そう巴に宣言した。
後日、『まあ見とき』そう言った忍足はそれを正確に実行に移すことになる。
そのときになって初めて巴は今日の話題の意味に気付いたが、もはや後の祭りであった。



END
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