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東京に来て私が覚えたことといったら、
テニス、
お料理、
薄いメイクに、
あの人への恋心。



   *チェリー・ピンク



唇に淡い色のグロスをのせる。
まだ中学生だからきつくならないように、薄く。
あの人に顔を作っているとは思われたくはないけれど、
少しでもカワイイと思われますように。
色はチェリー・ピンク。
昨日朋ちゃんと立ち寄ったドラッグストアで
「アンタは絶対この色よ!」と見立ててくれた華やかな色。
自分に似合う色を見定めるスキルはまだまだ修行中。
グロスはかすかにチェリー味で、
いつかあの人がその味に気づいてくれるといいななんて思ったり。
間違ってもそんな事口には出せないけどね。

春休みだというのにハードな練習の毎日で疲れている千石さんは
今はそんなことを微塵もかんじさせずに私の隣を歩いている。
彼からの贈り物を身につけた私を大層喜んでくれたけれど、
私の唇の淡い色には一言も触れず、少なからず私を落胆させた。
彼は、とてもマメな人で、
たとえばシャンプーの香りを変えたり、
毛先を切り揃えなおしたり、
そんな些細なことですら気づいて褒めてくれるような人なのに。
ほのかに色づいた唇を見逃すような人じゃないのに。
もしかして、メイクする子は嫌だったかな。
それとも嫌いな色だったかな?
後ろ向きなことをぐるぐる考えてしまうと、もう止まらない。
大好きな彼が隣を歩いているというのに
もう上の空で、彼の問いかけにも生返事。
馬鹿馬鹿しいとは自分でもわかっているけれど。

「…もえちゃん?巴ちゃん、きいてる?」

「…………」

「巴ちゃん!!!!」

急な大声が自分の殻を破る。

「はっ…はい~!なななな、なんですかっ!」

「どーしちゃったの?ずっと、何か考え込んじゃってさ、
…あっ、もしかして俺キミに何かしちゃった?怒らせたかな?」

本気で心配そうに顔をのぞき込まれ、手を触れられる。
彼の、整った顔を間近に見て心臓が跳ねる。
人は彼の容姿と、持ち前の軽い明るさを見て
いい加減な軽い男だと判断することが多い。
彼がそんな人間だと今の彼を見て誰が思えるかな。

「そ、そんなことあるわけ無いじゃないですか!」

「そう?それなら良かったけど…大丈夫?」

「え?」

「なんだか元気なさそうだからさ、無理矢理つれだしちゃった?ゴメン」

ああ。
とても優しいこの人は。
こんなくだらないことにグダグダしている私にもやっぱり優しい。
千石さんの、そういうところが好きだなあ。

「ごめんなさい!も~ぜんっぜん大丈夫です!」

「じゃ、気を取り直して今日は頑張って遊んじゃおっか」

「はい!頑張りましょう!」

私の見た目に気づこうが気づくまいが彼が手を取る女性は私。
それでイイじゃない。
彼のために唇にのせたチェリー・ピンクは自己満足の塊。
彼に褒めて貰う自分に酔いたいだけのもの。
それは心に押し込めて、今日の目的遊園地を目指して歩く。

気づいたら私の右手は千石さんの左手に絡み取られていて、驚いた。



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