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本文なし
9月25日。
そう言えば、出会ってから1年以上経つんだなあと
秋のからりと晴れ渡った空を見上げつつボンヤリと赤月巴はそう思った。
*プレゼントは何?
と、その時、周囲の大声と共にテニスボールが後頭部に直撃した。
「━━━いたたたたあ」
なによ!と後ろを振り向くと背後には、2年の新部長越前リョーマ。
「ボンヤリしてるなら、グラウンド20周でも走ってきたら?」
巴も2年生になり、夏の大会も乗り越えて桃城ら3年生は引退し部活も新体制になった。
自分が1年生で手塚達元3年生や桃城海堂らと和気藹々と部活していた頃が懐かしい。
いつしか、自分はもう部活を引っ張る立場へとなっていた。
そしてなんだかんだと面倒くさい仕事を押しつけてくる部長や顧問のおかげで
巴は忙しい生活を送っている。
彼女の1日は、まさしく学校と家の往復だけだ。
部活も休むことは出来ないし、部活が早く終わっても雑務などで忙しい。
「まいったなあ…」
律儀にグラウンドを疾走しながら一人呟く。
「今日は彼の誕生日なんだけどなー」
グラウンドを走っていたら部活を終了する時間が遅くなる。
そうなると彼━━━切原赤也に逢う時間が少なくなってしまう。
もしくは逢えなくなってしまう。
今日は、彼の15歳の誕生日だ。
出来れば、いや、絶対にお祝いをしようと張り切っていた。
出会って1年以上は経っているけれど
付き合うようになってからは半年程度なので、この日が初めて祝う彼の誕生日だった。
カノジョとしてはコレは張り切るしかないでしょう!
ただでさえ、普段あまり二人は逢うことが少ない。
東京と神奈川では中学生にとっては遠距離だ。
プチ遠距離恋愛とでも言うべきか。
頑張ってお小遣いを貯めてプレゼントも買った。
朝早く起きてケーキも焼いた。
あとは逢うだけだ。
逢うだけなのに、それが一番難しい。
部活が終わったら電話して、二人の家から中間に当たる駅で逢うことになっているのだが。
「あと5周!がんばるぞ~!!」
ピッチを上げてさらに疾走する。
その巴の姿は陸上選手もかくやあらんといったさまだった。
後日陸上部からスカウトが来たとか来ないとか。
気づいたら日がとっぷりと暮れていた。
今日は頑張って部活を早めに切り上げて、
部の雑務もほどほどに早く学校から出るつもりでいたのだが
結局そうはいかなかった。
校門を出て慌ててケータイを取り出し彼のメモリを呼び出す。
RRRRRRR………
『━━━巴?』
思ったよりも早く出て巴は驚いてしまう。
いつもは、しつこいくらいにコールしないと電話には出ない彼なのだが。
「あっ、切原さん!今、学校出ました。これから…大丈夫ですか?」
自分でもわかっていることだが、想定していた時刻からはかなり遅れている。
切原が怒っているかどうかなど巴には知るよしもないが
自然とおそるおそる…といった話し方になってしまう。
『お前、電話するの遅くね?』
返答する切原のやや棘のある声色で、やはり怒っているらしいと気づく。
もしかしたらへそを曲げてこれから逢えなくなっちゃうかもしれないと思うと
少しドキドキしてしまう。
「ごめんなさい!今日の部活もどうしても抜けられなくて…」
彼を待たせてしまっていたという事実には本当に申し訳なく思っているので
心から謝罪の意を表す。
それを切原も悟ったのか、何も触れずに
『じゃ、約束通りあの駅の改札で逢おうぜ』
素っ気なくそう言って電話を一方的に切った。
そのあまりの素っ気なさに、直接怒りはしなかったものの
あまり機嫌は良くなさそうだなと、巴は冷や冷やした。
そして、慌てて駅へと走り出す。
こうなったら出来れば一本でも早い電車に乗り込みたい。
そうすれば少しでも早く切原を祝うことが出来るかもしれないから。
一言でも多く彼と言葉を交わせるかも知れないから。
ジリジリした気持ちで待ち合わせの駅へと向かう電車へと乗り込む。
待ち合わせの駅に着き、電車の扉が開くと同時にホームを駆け抜け
改札へと猛スピードで向かう。
待ち合わせは二人が放課後に良く待ち合わせをする駅だ。
迷い無く改札へと到着する。
「切原さん!」
既に到着していたらしく人待ち顔で立っていた切原に声をかける。
巴の声に気づくと少し表情を明るくして彼女に向けて手を振る。
「よう━━━お前、どれだけ走ってきたってんだよ」
顔を真っ赤にしながら笑顔で近づいてくる巴にからかうような口調で話しかける。
「えっと、それはその、出来うる限り早く切原さんの所へ行こうと思って…
あと、ほんっとうに遅れちゃってドキドキしちゃって。
全力猛ダッシュで走ってきました!」
「バッカだな。そんなに急がなくったって俺は居なくなったりしねーよ」
「いえ、私が一刻も早く切原さんに会いたかっただけです」
巴は本音をさらりと口に出す。
---
「……っ!」
切原は突然耳に飛び込んできた一言に次の言葉を詰まらせる。
あまりにもストレートすぎる言葉。
巴の本音。
それはどんな凶器よりも危険だ。
まさに殺し文句で。
切原の体温は急上昇し、鼓動はどんどん高まり早まっていった。
「バッ…おま…おまえ何言ってるんだよ!」
悲鳴にも近い声でようやく返事を返す。
巴の本音に返す上手い言葉など出てこない。
ここで、身体を抱き寄せて「俺もだよ」と答えられるのなら苦労しない。
それが出来るなら、それはもはや切原赤也ではない。
テニスに対してならば、いくらでも傍若無人になれるのに
こと恋愛に関して言うなら未熟者以外の何者でもない。
切原は自分のふがいなさに内心歯がみする。
「え?べつに本当のことですけど?」
切原が動揺していることなどつゆ知らず、巴は答える。
巴にしてみれば好きな人に会いたい気持ちなど隠す方がおかしいのだ。
ましてや、お互い気持ちが既に繋がっている間柄なら。
「……」
ついに切原はしゃがみ込んでしまう。
嬉しい。
その気持ちがとてつもなく嬉しくて、照れてしまう。
腰が砕けてしまいそうだった。
「…あんまり、嬉しいこと言ってくれるなよなあ…」
ぼそぼそと呟く。
「そ、そうですか?」
巴はまさかこんな何気ない一言に切原が反応するとは思わなかった。
その素直すぎる反応に巴までドキドキしてきてしまう。
「あー…、俺、ちょっと幸せかも」
切原はしゃがんだまま喋り始める。
「今日は誕生日だし、お前からなにかしらのプレゼントがあるのは
当然だと思ってたけどよ、まさか、
こんな嬉しいことまで言ってくれるとは思ってなかったぜ。
アリガトな、巴」
「え…、でも喜ばせようと思って言った訳じゃないですよ?
普段東京と神奈川でなかなか会えないし、
ついつい本音が出ちゃっただけですから。
でも、それでこんなに切原さんが喜んでくれるんなら
私の方が幸せ者ですね」
満面の笑みで巴はそう答える。
その巴の笑顔を眺めながら切原はふととあることを思いつく。
思いの奥底にあるのはずっとこの笑顔を見ていたいという気持ち。
「そうだ、お前さ、高校は立海受験する気ねえか?
…俺としてはお前と同じ学校にいられるだけで嬉しいんだけどよ。
ま、まあ、お前にも立場って言うものがあるから無理強いはしねえけどさ
少しだけでも考えてみねえ?」
同じ学校なら、ただ誕生日だと言って待ち合わせするだけで
こんなに苦労することはない。
苦労して会うというのも、なかなか良いスパイスではあるものの
一分一秒をムダにしたくない。
一分一秒でも一緒にいたい。
切原はそう思う。
このまま青学にいられると、
青学テニス部の奴らがいつ巴にちょっかいをかけるとも知れないし。
それは今までもこれからも彼の懸念の一つである。
だったら、一緒にいられるようになりたい。
巴が立海の制服を着て自分の隣で笑っていればいい。
素直にそう願う。
「そうですねえ、それも良いかもしれないですね。
あっ、でも、私って立海を受験できるほど頭良くないんですよ!
どうしたら良いですかねえ…勉強頑張るしか…」
あっさり肯定し、未来に向けて頭を悩ませる巴。
細かいことで悩んでいるのが逆に言葉に真剣みを与えている。
「……スポーツ推薦てのがあるだろうよ、でなきゃ俺が立海にいる訳ねーって。
自分で言うのも難だけどよ。
まあ、せいぜい個人戦で良い成績でも取って立海狙え。
多分いまの成績でもちゃんと推薦枠に入れると思うけどよ」
「えー?なんで個人戦なんですか?団体戦じゃダメなんですか」
「お前、自他認めるバカかよ。
団体戦で勝たれるとウチ…立海が困るっつの!
青学には余裕で勝つだろうからそんなこと考えるまでもねえけど」
今の立場は、青学と立海。ライバル校だ。
今年こそ3年の切原が率いる立海が全国優勝を果たす。
常勝立海に敗北は許されない。例え、相手は巴がいる学校でもだ。
切原にとって巴に浮かれていてもそれだけは絶対だ。
巴が立海に進学できるチャンスであっても、それとこれとは別だと思った。
「いーーーえっ!来年も青学が全国はもらうんですーーー!
切原さんには悪いですけど、常勝立海なんてありえませんから!」
巴も強気に切り返す。
敗北なんてあり得ない。負けん気の強さが表情に出る。
そして二人はしばしの間にらみ合う格好になった。
「……」
「……」
「「……っ、はははっ」」
そして笑いあう。
お互いはお互いのこういうところが好きなのだと再確認しながら。
「……ったく、俺はお前のそう言うところが好きなんだったよ。
まったく苦労するよなあ。こういうのが彼女だとさ」
「あっ!何て事言うんですか、苦労なんてさせてませんよ。
現に今日だってこうして切原さんのために……」
♪♪♪~
巴の携帯からタイムリミットを告げるアラームが鳴り響く。
学校の帰りに会おうとすると恐ろしく短い時間になってしまう。
その事を二人して残念に思う。
「……時間だな」
「ハイ、そうですねえ」
寂しくて巴はしょげかえる。
「で、お前さっき言いかけた事ってなんだよ?俺のためにって何?」
「あーっ!そうですよ!
今日は切原さんのためにプレゼントとケーキを持ってきたのに
もう帰る時間になっちゃうなんて…!
ケーキはその辺の公園ででも一緒に食べちゃおうって思ってたのに
結局改札前から一歩も離れられなかったし…」
巴の表情は酷く残念そうで、だが切原の笑いを誘う。
「お前、本当に残念そうだな」
「そりゃそうですよ!切原さんは違うんですか?」
「いや?お前と離れること自体は残念だけどよ、
プレゼントは当然としてお前からイイもんもらったしな」
「イイもん?なんですか、それ」
なにかあげた物あったっけ?と巴は首をかしげる。
「まー、結構イイもんだったよ」
それは巴の気持ちで。
口に出すのは少々恥ずかしいので、答えを濁す。
「もうっなんですか?」
「なんでもイイじゃねえか、ほらほら時間時間。
ケーキは俺一人で有り難くいただくからお前はもう改札に入れよ。
ただでさえ俺は越前家から評判悪いんだからこれ以上下げたくねーよ」
背中を押すようにして改札内へ巴を入れる。
そして改札越しに別れの挨拶を交わす。
「じゃあ、切原さん、またメールしますね!」
「おう、プレゼントとケーキサンキューなイイ誕生日だったぜ!」
そして切原は、帰宅の人混みの中に紛れて電車に乗り込む巴の後ろ姿を見送った。
電車がホームから離れて見えなくなる頃、
切原は手にしていた紙袋を開けた。
「で、結局プレゼントって何なんだ?
あー、あいつの前で開けてやるべきだったよなあ、やっぱり」
切原には居るわけがないのに背中から「未熟者」と叱りつける
テニス部の先輩達の声が聞こえたような気がした。
END
9月25日。
そう言えば、出会ってから1年以上経つんだなあと
秋のからりと晴れ渡った空を見上げつつボンヤリと赤月巴はそう思った。
*プレゼントは何?
と、その時、周囲の大声と共にテニスボールが後頭部に直撃した。
「━━━いたたたたあ」
なによ!と後ろを振り向くと背後には、2年の新部長越前リョーマ。
「ボンヤリしてるなら、グラウンド20周でも走ってきたら?」
巴も2年生になり、夏の大会も乗り越えて桃城ら3年生は引退し部活も新体制になった。
自分が1年生で手塚達元3年生や桃城海堂らと和気藹々と部活していた頃が懐かしい。
いつしか、自分はもう部活を引っ張る立場へとなっていた。
そしてなんだかんだと面倒くさい仕事を押しつけてくる部長や顧問のおかげで
巴は忙しい生活を送っている。
彼女の1日は、まさしく学校と家の往復だけだ。
部活も休むことは出来ないし、部活が早く終わっても雑務などで忙しい。
「まいったなあ…」
律儀にグラウンドを疾走しながら一人呟く。
「今日は彼の誕生日なんだけどなー」
グラウンドを走っていたら部活を終了する時間が遅くなる。
そうなると彼━━━切原赤也に逢う時間が少なくなってしまう。
もしくは逢えなくなってしまう。
今日は、彼の15歳の誕生日だ。
出来れば、いや、絶対にお祝いをしようと張り切っていた。
出会って1年以上は経っているけれど
付き合うようになってからは半年程度なので、この日が初めて祝う彼の誕生日だった。
カノジョとしてはコレは張り切るしかないでしょう!
ただでさえ、普段あまり二人は逢うことが少ない。
東京と神奈川では中学生にとっては遠距離だ。
プチ遠距離恋愛とでも言うべきか。
頑張ってお小遣いを貯めてプレゼントも買った。
朝早く起きてケーキも焼いた。
あとは逢うだけだ。
逢うだけなのに、それが一番難しい。
部活が終わったら電話して、二人の家から中間に当たる駅で逢うことになっているのだが。
「あと5周!がんばるぞ~!!」
ピッチを上げてさらに疾走する。
その巴の姿は陸上選手もかくやあらんといったさまだった。
後日陸上部からスカウトが来たとか来ないとか。
気づいたら日がとっぷりと暮れていた。
今日は頑張って部活を早めに切り上げて、
部の雑務もほどほどに早く学校から出るつもりでいたのだが
結局そうはいかなかった。
校門を出て慌ててケータイを取り出し彼のメモリを呼び出す。
RRRRRRR………
『━━━巴?』
思ったよりも早く出て巴は驚いてしまう。
いつもは、しつこいくらいにコールしないと電話には出ない彼なのだが。
「あっ、切原さん!今、学校出ました。これから…大丈夫ですか?」
自分でもわかっていることだが、想定していた時刻からはかなり遅れている。
切原が怒っているかどうかなど巴には知るよしもないが
自然とおそるおそる…といった話し方になってしまう。
『お前、電話するの遅くね?』
返答する切原のやや棘のある声色で、やはり怒っているらしいと気づく。
もしかしたらへそを曲げてこれから逢えなくなっちゃうかもしれないと思うと
少しドキドキしてしまう。
「ごめんなさい!今日の部活もどうしても抜けられなくて…」
彼を待たせてしまっていたという事実には本当に申し訳なく思っているので
心から謝罪の意を表す。
それを切原も悟ったのか、何も触れずに
『じゃ、約束通りあの駅の改札で逢おうぜ』
素っ気なくそう言って電話を一方的に切った。
そのあまりの素っ気なさに、直接怒りはしなかったものの
あまり機嫌は良くなさそうだなと、巴は冷や冷やした。
そして、慌てて駅へと走り出す。
こうなったら出来れば一本でも早い電車に乗り込みたい。
そうすれば少しでも早く切原を祝うことが出来るかもしれないから。
一言でも多く彼と言葉を交わせるかも知れないから。
ジリジリした気持ちで待ち合わせの駅へと向かう電車へと乗り込む。
待ち合わせの駅に着き、電車の扉が開くと同時にホームを駆け抜け
改札へと猛スピードで向かう。
待ち合わせは二人が放課後に良く待ち合わせをする駅だ。
迷い無く改札へと到着する。
「切原さん!」
既に到着していたらしく人待ち顔で立っていた切原に声をかける。
巴の声に気づくと少し表情を明るくして彼女に向けて手を振る。
「よう━━━お前、どれだけ走ってきたってんだよ」
顔を真っ赤にしながら笑顔で近づいてくる巴にからかうような口調で話しかける。
「えっと、それはその、出来うる限り早く切原さんの所へ行こうと思って…
あと、ほんっとうに遅れちゃってドキドキしちゃって。
全力猛ダッシュで走ってきました!」
「バッカだな。そんなに急がなくったって俺は居なくなったりしねーよ」
「いえ、私が一刻も早く切原さんに会いたかっただけです」
巴は本音をさらりと口に出す。
---
「……っ!」
切原は突然耳に飛び込んできた一言に次の言葉を詰まらせる。
あまりにもストレートすぎる言葉。
巴の本音。
それはどんな凶器よりも危険だ。
まさに殺し文句で。
切原の体温は急上昇し、鼓動はどんどん高まり早まっていった。
「バッ…おま…おまえ何言ってるんだよ!」
悲鳴にも近い声でようやく返事を返す。
巴の本音に返す上手い言葉など出てこない。
ここで、身体を抱き寄せて「俺もだよ」と答えられるのなら苦労しない。
それが出来るなら、それはもはや切原赤也ではない。
テニスに対してならば、いくらでも傍若無人になれるのに
こと恋愛に関して言うなら未熟者以外の何者でもない。
切原は自分のふがいなさに内心歯がみする。
「え?べつに本当のことですけど?」
切原が動揺していることなどつゆ知らず、巴は答える。
巴にしてみれば好きな人に会いたい気持ちなど隠す方がおかしいのだ。
ましてや、お互い気持ちが既に繋がっている間柄なら。
「……」
ついに切原はしゃがみ込んでしまう。
嬉しい。
その気持ちがとてつもなく嬉しくて、照れてしまう。
腰が砕けてしまいそうだった。
「…あんまり、嬉しいこと言ってくれるなよなあ…」
ぼそぼそと呟く。
「そ、そうですか?」
巴はまさかこんな何気ない一言に切原が反応するとは思わなかった。
その素直すぎる反応に巴までドキドキしてきてしまう。
「あー…、俺、ちょっと幸せかも」
切原はしゃがんだまま喋り始める。
「今日は誕生日だし、お前からなにかしらのプレゼントがあるのは
当然だと思ってたけどよ、まさか、
こんな嬉しいことまで言ってくれるとは思ってなかったぜ。
アリガトな、巴」
「え…、でも喜ばせようと思って言った訳じゃないですよ?
普段東京と神奈川でなかなか会えないし、
ついつい本音が出ちゃっただけですから。
でも、それでこんなに切原さんが喜んでくれるんなら
私の方が幸せ者ですね」
満面の笑みで巴はそう答える。
その巴の笑顔を眺めながら切原はふととあることを思いつく。
思いの奥底にあるのはずっとこの笑顔を見ていたいという気持ち。
「そうだ、お前さ、高校は立海受験する気ねえか?
…俺としてはお前と同じ学校にいられるだけで嬉しいんだけどよ。
ま、まあ、お前にも立場って言うものがあるから無理強いはしねえけどさ
少しだけでも考えてみねえ?」
同じ学校なら、ただ誕生日だと言って待ち合わせするだけで
こんなに苦労することはない。
苦労して会うというのも、なかなか良いスパイスではあるものの
一分一秒をムダにしたくない。
一分一秒でも一緒にいたい。
切原はそう思う。
このまま青学にいられると、
青学テニス部の奴らがいつ巴にちょっかいをかけるとも知れないし。
それは今までもこれからも彼の懸念の一つである。
だったら、一緒にいられるようになりたい。
巴が立海の制服を着て自分の隣で笑っていればいい。
素直にそう願う。
「そうですねえ、それも良いかもしれないですね。
あっ、でも、私って立海を受験できるほど頭良くないんですよ!
どうしたら良いですかねえ…勉強頑張るしか…」
あっさり肯定し、未来に向けて頭を悩ませる巴。
細かいことで悩んでいるのが逆に言葉に真剣みを与えている。
「……スポーツ推薦てのがあるだろうよ、でなきゃ俺が立海にいる訳ねーって。
自分で言うのも難だけどよ。
まあ、せいぜい個人戦で良い成績でも取って立海狙え。
多分いまの成績でもちゃんと推薦枠に入れると思うけどよ」
「えー?なんで個人戦なんですか?団体戦じゃダメなんですか」
「お前、自他認めるバカかよ。
団体戦で勝たれるとウチ…立海が困るっつの!
青学には余裕で勝つだろうからそんなこと考えるまでもねえけど」
今の立場は、青学と立海。ライバル校だ。
今年こそ3年の切原が率いる立海が全国優勝を果たす。
常勝立海に敗北は許されない。例え、相手は巴がいる学校でもだ。
切原にとって巴に浮かれていてもそれだけは絶対だ。
巴が立海に進学できるチャンスであっても、それとこれとは別だと思った。
「いーーーえっ!来年も青学が全国はもらうんですーーー!
切原さんには悪いですけど、常勝立海なんてありえませんから!」
巴も強気に切り返す。
敗北なんてあり得ない。負けん気の強さが表情に出る。
そして二人はしばしの間にらみ合う格好になった。
「……」
「……」
「「……っ、はははっ」」
そして笑いあう。
お互いはお互いのこういうところが好きなのだと再確認しながら。
「……ったく、俺はお前のそう言うところが好きなんだったよ。
まったく苦労するよなあ。こういうのが彼女だとさ」
「あっ!何て事言うんですか、苦労なんてさせてませんよ。
現に今日だってこうして切原さんのために……」
♪♪♪~
巴の携帯からタイムリミットを告げるアラームが鳴り響く。
学校の帰りに会おうとすると恐ろしく短い時間になってしまう。
その事を二人して残念に思う。
「……時間だな」
「ハイ、そうですねえ」
寂しくて巴はしょげかえる。
「で、お前さっき言いかけた事ってなんだよ?俺のためにって何?」
「あーっ!そうですよ!
今日は切原さんのためにプレゼントとケーキを持ってきたのに
もう帰る時間になっちゃうなんて…!
ケーキはその辺の公園ででも一緒に食べちゃおうって思ってたのに
結局改札前から一歩も離れられなかったし…」
巴の表情は酷く残念そうで、だが切原の笑いを誘う。
「お前、本当に残念そうだな」
「そりゃそうですよ!切原さんは違うんですか?」
「いや?お前と離れること自体は残念だけどよ、
プレゼントは当然としてお前からイイもんもらったしな」
「イイもん?なんですか、それ」
なにかあげた物あったっけ?と巴は首をかしげる。
「まー、結構イイもんだったよ」
それは巴の気持ちで。
口に出すのは少々恥ずかしいので、答えを濁す。
「もうっなんですか?」
「なんでもイイじゃねえか、ほらほら時間時間。
ケーキは俺一人で有り難くいただくからお前はもう改札に入れよ。
ただでさえ俺は越前家から評判悪いんだからこれ以上下げたくねーよ」
背中を押すようにして改札内へ巴を入れる。
そして改札越しに別れの挨拶を交わす。
「じゃあ、切原さん、またメールしますね!」
「おう、プレゼントとケーキサンキューなイイ誕生日だったぜ!」
そして切原は、帰宅の人混みの中に紛れて電車に乗り込む巴の後ろ姿を見送った。
電車がホームから離れて見えなくなる頃、
切原は手にしていた紙袋を開けた。
「で、結局プレゼントって何なんだ?
あー、あいつの前で開けてやるべきだったよなあ、やっぱり」
切原には居るわけがないのに背中から「未熟者」と叱りつける
テニス部の先輩達の声が聞こえたような気がした。
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