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- 昔書いていた36話(友情系)の転載です。
- 特に加筆修正は行ってません。
- 菊不二前提で書いていたような気がする。
- 巴は出てきません。
- 初出:2003年
***
広い空間にただ水が流れる音だけが響く。
先ほどまで終わることなど無いかのように思えた雷雨は
乾の作った怪談のオチとともに遠くへ消え去った。
「まったく、英二はー。ペンキ被ったんだからさー。
すぐに洗うくらいしようよー」
「だあってさー。遅刻するーと思ったら、それどころじゃないって!
乾に汁飲まされたらどうすんだよー!」
今日は朝練の途中から雨が降り出した。
それに従って放課後もレギュラー陣だけのミーティングが行われた。
ただ、実際のところはミーティングどころではない騒ぎが発生し
(テニスラケットにまつわるホラーな話、だ)
顧問の竜崎スミレの説教とともに終了した。
英二はそのミーティングに向かう途中、
不幸にも塗装業者の落としたペンキが見事にヒット、
それに従い全身が白、特に頭髪などは老人さながらである。
幸い、そのペンキは水性だったようで
友人である不二周助が洗い残しの無いように
白髪の友人を洗っているところである。
「しっかし、不二がシャンプー持ってて良かった。
さすがに俺でもガッコには持ってきてないもん」
整髪料ならば常に持ち歩いている英二がそう言う。
「ん、部活の後シャワー浴びるときがあるからねー。
それより、あんまりしゃべってると口にシャンプーが入るよ」
あわてて、英二は口を閉じる。
周助は喋っていて楽しい相手である。
自らぺらぺら話すことは無いが、
話しを振ると思いのよらないほど話題が豊富なことに気付く。
頭がいいと言うことももちろんだが、好奇心が旺盛だからだ。
だからいつまでも彼と話していたいという気持ちは常にある。
しかし、シャンプーが口に入ってしまうと言うのはよろしくないので
残念に思いながら必要以外口を閉じることにする。
放課後、特に雷雨の後だ、生徒のほとんどが帰宅し
学校特有のただ広い水道場は、
まるでこの世から切り離されたかのように静まり返っている。
部活がある為、当然放課後の校舎にいることは少ないけれど、
それでも今日は特別人が少なく、静かなのではないかと感じる。
いま、校舎に残っているのは、教師はともかくとして
生徒は相当酔狂なものだけだろう。
普段はつきあいの良いテニス部の連中も
今日に限っては英二と周助を残し、先に帰ってしまった。
皆が帰ってしまった後、
俺がこんな不幸な目にあったって言うのに
冷たいヤツらだよなー、と周助にこぼしたら、
シャンプーを貸してあげた上に、残って英二を洗ってあげている僕って
なんて暖かいヤツなんだろうね、と
なんだか含みのある笑顔で返されてしまった。
皆が帰ってしまい、冷たいなと思いながら
しかし、周助と二人の時間が心地よいと感じる自分がいる。
普段、二人が二人とも周囲に人が集まるタイプの人間なだけに
同じクラスでありながら、同じ部活でありながら、
二人だけの時間というのはあまりない。
それだけにこの時間は貴重である。
そんな時間を、しかも自分の髪を洗ってもらうために存在する時間を
持つことが出来たなんてなんてラッキーなんだろうと英二は思う。
周助が今集中していることが自分の髪を洗うことだなんて。
周助の指は強くも弱くもなく英二の頭皮を丹念になで上げていく。
「これでお金が取れるんじゃない?」なんて言うと
あっさりと途中で止めてしまいそうなので、言わないでおく。
黙っていると、ただ周助の指使いと、流れる水の音、
そしてシャンプーの涼しやかなミントの香りだけを感じる。
そう言えば、周助はいつも身の回りはシーブリーズだ。
涼しげなミントの香り。
この鼻腔をくすぐる香りはきっとシャンプーの香りだけでなく
周助自身の香りも入り交じっているのだろう。
そして今日はきっと自分も周助と同じ香りなのだと思うと、
心が躍る気がする。まるで彼に包まれている感じだ。
「まったく。ペンキが完全に乾いてるから洗うのに苦労するよ。
僕の指が荒れたらどう責任とってくれるのさ」
くすくす笑いながら、少しも迷惑ではなさそうに責任を問う。
「そんな責任ならいつだって好きなだけとっちゃうけどね~。
なんなら次は、俺がシャンプーしよっか?」
そう言うと、周助はしばし絶句し、
「……おしまいっ」
そういって直ぐさま蛇口を閉じる。
英二は頭をびしょびしょにさせたまま振り返ると、
ポーカーフェイスの彼にしては珍しく
顔を赤らめ動揺した表情をして立っていた。
英二はニヤリと笑い、蛇口を全開にして周助の頭を捕らえる。
そして勢いよく流れ落ちる水に彼の頭を押し込む。
「…っ!っち、ちょっと!!英二!!!」
「もう、おっそいよーん」
そして周助よりも少し厚めの指で英二は彼の頭を洗い出す。
当然、自分の髪は洗ったままで一滴もぬぐっていない。
水滴は流れ落ちるままだ。
ぽたぽたと周助の背中にシミを作る。
「ちょっと!英二!髪!ぬぐってよ!冷たい!」
「これがおわったらねー」
二人がタオルの持ち合わせがないことに気づくのは、
洗い終わった後、しばらく経ってからのことだった。
END
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