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  • 昔書いていた36話(友情系)の転載です。
  • 特に加筆修正は行ってません。
  • 菊不二前提で書いていたような気がする。
  • 巴は出てきません。
  • 初出:2003年

***

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今日の天気は秋には珍しく夕方から雷雨のようで。

そのせいなのか頭痛で目が覚めた。

天気が荒れる前に頭痛が起こるのはよくあることだし

いつも学校に行くといつの間にか痛みを忘れているので

気にせずそのまま学校に行くことにした。

由美子姉さんは「周助、休んだら?」と言ってくれたが

これまでほぼ皆勤だった僕には抵抗があった。

逢いたい人がいる、と言うのもあったけれど。

 

夏の大会が終わり、引退して気づいたことがいくつかある。

これまでは毎日部活部活で見えなかったことだけど。

そのひとつが朝の時間の使い方は難しいと言うことである。

これまでは朝練が終わって急いで着替えて

始業の鐘にぎりぎり間に合うという生活を送っていたので

登校してから始業までの時間の使い方がイマイチ分からない。

もちろんテスト前後などは朝練が無かったのだけれど

そのときは当然テスト勉強で費やしていたのだ

当然時間をもてあますことなど無く。

しかしテスト期間でもなく、3年生といえども

エスカレーター制のこの学校では過剰な勉強は必要でないし

周助などは今更朝の時間を勉強に費やさなくとも

全く問題ない成績である。

何もせずに惚けているのも難だし、

かといってハイテンションに会話している級友の輪に入っていくのも

ためらわれたので、結局読書をして過ごしている。

周助が登校してくるのはだいたい始業20分ほど前で

その時間では読書もイマイチ集中できないまま終わってしまうので

読書以外に時間をつぶせる方法を思索することもしばしば。

英二がもう少しはやく登校すれば問題解決なのにと思うが

彼は結局朝練があった時と同様の時間に登校するし

それを改める気もないらしいので問題解決の役には立たない。

 

特に今朝はこのもてあます時間がつらい。

登校しても頭痛は治らず、読書する気も起きない。

いつも登校すれば治ると思っていたものは、

結局部活に夢中になれていたからこそなのだろうか。

そう考えると、今更ながら失ってしまったものの大きさを感じる。

もちろん、高校生になれば再び部活中心の生活になるのだろうが

それまでに半年ほどの時間がある現在、遠い将来のことに感じてしまう。

ああ、今日はやっぱり休んでしまえば良かったかな…。

少し後悔しながら、机に身体を伏せる。

始業まであと10分。少しぐらいは休めるだろう。

 

「おっはよ、不二~。どしたん?具合悪い?」

 

大きな目を心配そうにさせて、菊丸英二は友人をのぞき込む。

 

「おはよ、英二。ちょっと頭痛がね」

 

体を起こして友人を見やるとやたら落ち着いた風情で

いつも通り始業ぎりぎりに来たとは思えない。

時計を見るとそれもその筈でまだ5分前だ。

 

「今日、夕方から雷雨らしいけど、英二が早く登校したからかな」

 

「な、なんだよ、それー!不二ひでぇ」

 

自分の、かなりつっこみどころ満載な言葉に

素直に反応して英二は頬をふくらませた。

…かと思えば、またすぐに表情を翻した。心配そうな表情に。

 

「で?頭痛、大丈夫?やっぱり相当具合悪そうな顔してるけど?」

 

「ん~。学校に来たら治ると思ってたんだけどね」

 

本当に思ってたんだけど。

やっぱり本当らしい。

こうして話している間にも少しずつ痛みが楽になってきている。

それとも、英二とこうして話しているからだろうか。

以前から思っていたことだが、自分が何かに躓いたときに支えになるのは

いつも英二だ。直接的にも間接的にもフォローがうまい。

英二自身は大石からいつもフォローされているように見えるので

傍目から見てそうは見えないかもしれないが。

いや、周助にとっては英二の存在自体に救われることもしばしばある。

太陽のようなものなのだろうか。

 

「ちょっと、待ってて、不二」

 

そう言い残すと英二は教室から走り出ていった。

始業まであと2分。

せっかく、今日は少し余裕を持って登校できたのに

自分のせいで慌ただしくさせてしまったなと

すこし申し訳なく思いつつ英二を待つ。

 

英二は始業のベルと同時に教室に戻ってきた。

今日は職員会議がある日なので担任は少し遅れているようだ。

「らっきー。まだ担任きてないじゃん」

よかった、よかったと笑いながら、

英二は周助の机の上に白い錠剤と飲みかけのスポーツドリンクを置いた。

スポーツドリンクを見て英二が大石の所から持ってきたんだと悟る。

彼はここしばらくそのドリンクにハマってそればっかり飲んでいたので。

周助自身も大石から激しく勧められ、それ以降、

コンビニに行けば何となく気になって見てしまうドリンクだ。

 

「これ、大石から?」

 

「そー。あったり~。奪ってきた!」

 

英二は奪ってきたとは言っているが、

実際の所は笑顔で薬もドリンクも渡してくれたのだろう。

青学テニス部の母と呼ばれた大石ならば。

もしかしたらお気に入りのドリンクは本当に奪ってきたのかもしれないが。

その光景が目に浮かぶようで思わず笑みがこぼれる。

「笑ってないで、早く飲めよー。担任来ちゃうじゃん」との英二の声に

あわてて薬を手に取る。

製品名を見ると「成分の半分がやさしさで出来ている」というので有名な

鎮痛剤であった。また薬のチョイスが大石らしく、笑えてくる。

と、言うよりツボにハマったと言うべきか。

笑いが込み上げてきて薬を嚥下するのに苦労した。

ドリンクに噎せなかったのはかなり上出来と言っていいだろう。

 

「サンキュ。助かったよ」

 

そう言ったところで、担任が入ってきて、SHRが始まった。

担任教師が出席を取り簡単な連絡事項を伝え、

1時間目の担当教師がすぐさま入れ替わり授業を開始した。

当然の事ながら薬はすぐには効かないので

頭痛はまだ鈍く残っているけれど

気分は始業前とはがらりと変わり、すっきりしていた。

鏡を見ていないので自分自身は分からないが顔色も戻っていることだろう。

朝は頭痛は朝練に夢中になるから治るんだと思っていたが

もしかしたら、それは英二がいたからこそ、なのかもしれない。

彼の存在はいつも自分を元気づけてくれるのだから。

大石のくれた薬の成分の半分はやさしさらしいけど、

もしかしたら成分のすべてが英二だったら

自分にとってものすごく効く薬になるかもしれない。

 

不意に机の上に隣から手紙が飛んできたので開いてみると、

 

“もう痛くない?だいじょーぶ? 英”

 

と書かれていた。

心配してくれている相手に否定する言葉を返すのもどうかと思うし、

だからといって感謝の言葉をつづるのも今更照れくさいので

 

“やっぱり夕方雷雨だったら英二のせいに違いない(笑)”

 

そう返しておいた。

休み時間になるころには本当に頭痛は治まっているだろうし、

そのときにはキチンと本人に感謝の念を伝えよう。

そして二人で購買に行ってスポーツドリンクを買って大石に届けに行こう。

それから朝の時間の使い方を相談するのも良いかもしれない。

なにしろ英二はよく効く薬だから。

 

END
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