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- 昔書いていた36話(友情系)の転載です。
- 特に加筆修正は行ってません。
- 菊不二前提で書いていたような気がする。
- 巴は出てきません。
- 初出:2003年
***
「なんか、悔しいよなぁ」
青に融ける_1
雲一つない快晴の日。
この夏初めての真夏日。
そんな中行われていた練習は、
いくら体力のある男子中学生と言えども
音を上げるには充分すぎるほどきつく、
それは、青学テニス部の面々にとっても変わりはなかった。
目に見えて体力を消耗させて行く部員をそのままに
練習を続けさせておくほど厳しくも、愚かでもない
部長代理・大石は、
いまは独逸の空の下にいる部長ならば、
少々体力のない部員たちに眉をしかめながら
休憩を言い渡すのだろうか、と思いを馳せつつ
つかの間の休憩を部員たちに告げた。
「で?なにが悔しいって?英二」
大勢いる部員のほとんどが「暑い」と言う表情を浮かべている中、
テニスコート付近の木陰に寝転び、空を観ながら
頬はいささか紅潮しているものの凉しやかに笑みを浮かべている少年が
隣で寝転ぶ、不快さを隠そうともしない表情の菊丸英二に問いかける。
「だーって、悔しいんだったら!不二もそう思わない?」
逆に問い返された少年、不二周助は、
「だから、なにが?」
少々不機嫌そうにさらに問い返す。
「だーかーら!ダブルスのことだよ!お・れ・た・ち・の」
「ああ…。そのことか」
「ああ…。そのことか…って。悔しくないの?不二は?」
「…人ってさあ、結局言葉でしか分かりあえないんだからさ、
自分の気持ちを伝えるのに手を抜いちゃ駄目だよ。
ちゃんとした言葉で僕に伝えてよ」
「…ホントは分かってるくせに聞くんだからなあ。不二は……ったく。
だからさ、俺たちって、……と、トモダチ…だよな?」
改めて「友達」であることを確認することに照れを感じたのか
少し緊張ぎみに頬を赤らめて、英二は周助に問う。
「ん?まあ、一般的にはそう言うカテゴリに入るんじゃない?」
「カテゴリって。…ん~。まあいいや。で、仲良しだよな?」
「そうだねえ。世間的に言えば、そうかな」
「不二ぃ~。お前もねえ…。人が何かを伝えようとしてる時には
真剣に受け止める努力しようよ…」
「僕はいつでも英二に対しては真剣だけど?」
大概においていつもそうであるのだが、
周助はクスリ、と全ての感情を覆い隠すような笑みを浮かべつつ
「友達」であるはずの彼の態度に脱力を感じ、ぐったりした英二の姿をながめる。
この友は面白い。興味深い。飽きない。いや、そんな言葉だけでは言い表せない。
いつまでもつきあって行けたら幸せだと思う。
それを決して、口には出さないだけで。本当にそう思う。
それは何も英二だけでなく、気の善いチームメイトたちにも言えることなのだが。
けれども、英二だけは特別だ。
英二がいれば、ほかの人間が自分から離れようとしたとき、
もちろんそれは苦痛なことには変わりないが、耐えられる気がする。
その逆は━━━考えたくもないが耐えられないだろう。
「…真剣…。ま、いいや。だからさ、俺たちのダブルスってけっこーイケるんじゃない?
なんて思ってたわけよ。なんてったって気が合うしさ」
「そうだね、僕も今日まではそう思ってたかも」
「それが、実際やってみたら、てんでバラバラ。ダブルスになってないワケじゃん。
それがさー、悔しいワケよ。あー。マジ悔しい!」
英二は寝ころびながら、手足をじたばたさせて悔しがる。
休憩中なんだから、そんな無駄な体力使わなければいいのに…。
周助はそんなことを考えながらも口には出さない。
そんなことをしたら英二はいっそう体力を使うような行動に出かねない。
「もちろん大石とだって最初からうまくいってたワケじゃないけど…。
でもなー。お互いのプレイスタイルなんかも知り尽くしてるわけだし
それなりに形にはなるんじゃないかと思ってたんだけどなー」
「そうだね。ちょっと期待はずれだよね。思惑はずれって言うかさ。
実際やってみなきゃ分からない事ってあるんだよね、ホントに。
ただ…さ、こうなるんじゃないかって思ったことも僕はあったよ」
でも、英二といいプレイが出来たらと思い、信じたく無くて、
その考えには今日まで目を背けていたけれど。
「え?マジで?」
まさか、周助がうまくいかないだろうと考えることがあったとは思いもよらず、
驚いた表情を浮かべつつ、隣にいる周助の方に身体を向ける。
周助は相変わらず蒼空を見ながら笑顔の仮面を被っている。
しかし、英二は仮面の下の少し複雑そうな顔を見て取ると、
もう一度空へと向き直る。
彼の、人には滅多に気とらせない感情にも気づくことが出来るようになったのは
いつ頃からだったろうか…英二はそんなことを考え、
だからこそやっぱり悔しいと感じる。
ペアとしては理想的過ぎ、ゴールデン・ペアと称される英二と大石。
日々ペアとしての練習を続け、試合を重ね、
いつの間にか口に出さずともお互いを理解できる位の関係となった。
もちろん試合前のミーティングはしっかりしたものであったが
気配でお互いがどう動くか手に取るように分かったし、
たまに分からないことがあっても、それは信頼というものでフォローできた。
「お互い理解し合っている」「信頼」という点だけ見れば
大石にだけでなく、周助にもそれは当てはまるわけで…。
また、先だっての桃城とのダブルスで得た経験、周助の実力も加えれば
ダブルスには何の問題ないように思えた。
もちろん急増ペアだからコンビネーションには多少難が出るだろうことくらい
英二にも想像が出来たのだが。
それを補って余るくらいのものが自分と周助のペアにはあると思っていた。
周助の他人には見せない感情を理解できる自分、
もちろん逆に自分の感情も理解しているだろう周助。
お互いの実力を十分に把握し、信頼しあっている自分たち。
加えて天才的なプレイヤーである周助の実力。
熟練し、また桃城との試合で成長したダブルスプレイヤーである自分。
何処に問題があるというのだろうか。
初めてペアを組んだにしても、不協和音がここまで甚だしいのは
もう不思議であるとしか言いようがない。
もちろん、お互い強豪テニス部のレギュラーだ。
形だけのダブルスならばこなすことが出来た。
コンビネーションプレイだって問題あるようには見えず
周囲には急造ペアにしては上出来な部類に見えるだろう。
そのあたりは当初目論んでいたように
「お互い理解し合っている」「信頼」の上に成り立ってることだ。
そういった点ではペアは成功ともいえるかもしれない。
けれども二人が目指したかったのはそんな見た目のみのダブルスではなかった。
お互いがお互いを生かしあえ、さらに上に上れる所を目指したかった。
それはゴールデン・ペアさながらに。
そしてそれはあくまで理想でしかなかった。ただの絵空事だった。
---
青に融ける_2
「英二はもしかして気づいてないのかな?理由」
「不二は気づいてるわけ?」
「うん、過分にね。英二は悔しいって言ってたけど、
理由に気づいてるだけに…僕の方がむしろ悔しがってるかもね」
「ええ~?そうなん?」
「そう。考えてみればさ、だめな原因、僕の方が多いと思うんだよねー。
気づかずにいたかったんだけどさ」
ふふふ、とまさに少年と青年の狭間の象徴のような
少し高めの声で朗らかに、歌うように笑い声を次の言葉を紡ぐ。
「やっぱりさ、大石って偉大だよなーって思うよ。さすが部長代理というか」
「大石?」
「僕はどこから見てもそうだけど、英二は本来はシングルス向きだよね。
自分のプレイに集中しすぎる所があるし、マイペースでつかみ所がない」
「んー。そんなに自覚はなかったけど…いや、乾に言われた事あったかも」
「それでもキッチリダブルスのプレイヤーとしてやっていけるのは
大石の包容力って言うか、ゲームメイクによるところが多いと思うんだ。
それは英二も桃城とのダブルスで気づいたと思うんだけど」
「そだね。桃と上手く試合が運べたのも結局大石がいたのが大きかったね。
あの日の俺と桃は、成分大石50%!ってカンジだったもんなー」
「うん、けれども僕には大石という成分を取り入れる事は出来ないんだ。
もちろん、ダブルス、英二に関する助言は受けられるけれども…。
自分で言うのは難だけど、包容力って単語は自分にないし、
だれかと力を合わせて戦うというのには向いてない気がする。
いままで僕と組んでくれたタカさんには申し訳ないと思うけど…ね」
いままでと違い、少々シニカルに周助は笑う。
隣でくすくす笑う声に、
仮面がちょっと外れかけてるかな、不二らしくもない。
などと英二はぼんやり考える。
仮面に隠れる下でシニカルな笑いをするのはいい、
だけれども、誰にでも分かる形で感情が表れるのは面白くない。
周助の感情を悟ることが出来るのは自分だけでいいから。
しかし同時に、自分の前だけで仮面を外すのならば
これほど嬉しいことはないかも、と少し破綻気味な考えもよぎる。
「あー。そーか。俺は大石あってこそダブルスプレイヤーとして生きるし、
だから大石的要素ゼロの不二とはあわないんだ。
たしかに不二はこれまでもダブルスってイマイチだもんねえ。
フツーは多少実力あれば、何とかなることも多いのに」
「イマイチって…ストレートに言わなくても…。
でも、その通りなんだよね、実際。
それなりに合わすことは出来るし、フォローも出来ると思う。
でも、それだけなんだよね。ペアとして強くはなれないんだ」
常に強くありたいのに、と周助の口調に悔しさが滲み出ている。
どこから彼の仮面を外すスイッチがオンになったのだろうか。
この会話、ほかの誰にも聞かれてないといいけれど。
彼を理解できる友は自分だけで十分だ。
さすがに独占欲が強いかなと英二は思った。
思ったのと同時に、隣にいる友は
「こんなヘコんでるところ、英二以外に見せられたものじゃないね」
と呟き、英二を驚かせた。
もちろん彼の独占欲が多分に満たされたのは言うまでもない。
暑い。
見上げる空は何処までも青く、青学のユニフォームにも似た夏の色だ。
このまま寝ころんで空を見ていると青に溶け込みそうだ。
自己を意識できるのは流れる汗と背に敷かれた芝の感触と
気まぐれに紅潮した頬を撫でていく微風。
そして隣に並んで寝ころんでいる友の存在だけで、
そのどれもが自分には心地よいもので。
このまま二人で空に溶け込むならそれでもいいかもしれないと。
口には出さなかったけれど、
お互いそう思っていた。
「ねえ?不二?」
「うん?」
「理想的なペアとしては…おチビに言わせるなら“まだまだだね”だけど、
俺は俺で、不二は不二で、それ以外の何者でもなくて、
ゴールデン・ペアはゴールデン・ペアで、俺たちじゃない。
自分で言うのもナンだけどさ、俺と大石はもちろん理想的なペアだよ。
でも、不二に大石を求めたいワケじゃない」
「ふふ。ゴールデン・ペアの片割れにそういわれるのは悪い気はしないね」
「茶化すなよ。
…で、俺と大石にしか出来ないプレイがあるように
俺たちにしか出来ないテニスがあるんじゃない?
っていうか、俺は不二と、二人だけしか出来ないテニスがしたいよ」
「あれ?さっきまで悔しがってたのに?理想的なペアじゃないって…」
もう一度周助の方に身体を向けると、彼は笑顔を見せ英二の方を向いていた。
仮面のではなくて、くつろいだ笑顔で。
きっとこの先、この笑顔を見るには何度も苦労するんだろうなと
英二はぼんやり思った。でも、自分だけに見せる顔ならそれも悪くない。
周助は周助で、彼の笑顔に驚いたのか
ただでさえカメラのレンズのように大きい英二の瞳が
さらに大きく開かれている事に気づき、
やっぱり彼といると飽きなくて、幸せってカンジでいいなと思っていた。
いまの台詞、何となくプロポーズっぽいよね、と言おうと思ったが
やっぱりやめた。反応なら容易に想像がつくから。
どうせなら想像しがたい反応が欲しいしね。
「まぁ、悔しいのもちょっとはあるけどねー」
「そうだね、僕もやっぱり悔しさは残ると思うけど…。
でもやっぱり、二人らしいテニスって言うのも魅力あるね。
英二の言うとおり、二人だけしか出来ないテニス、してみたいかも。
で、今ちらっと考えたんだけどさ、…こういうのって僕たちらしくない?」
ずりずりと、寝た姿勢のままお互い身体を寄せ合う。
近くには他の部員達がいないことは既に承知していたが
それでも耳元で声を潜めて二人は話し合い始めた。
秘密の作戦会議と言ったところだ。
二人を遠目から見ていた部員たちは
「こんなに暑いのによくくっつけるなー」とか、
「あの二人、なんかあやしーな、あやしーよ」などと口々に言っていたが
二人の耳までは届かなかった。
周囲から見た二人の印象はまさに夏の空に溶け込む風情で
誰かが「あの二人、ドリーム…ってカンジっすね」とつぶやいた。
それ以降、二人がドリーム・ペアと呼ばれるようになったことは
当人たち━━━英二と周助には当然知るよしもなかった。
初めて二人は公式戦で同じコートに立った。
相手は千葉の強豪六角中。
それに加えて相手方の一人は、佐伯は周助の幼なじみだった。
生半可なプレイでは勝てない。
さすがに苦戦は免れないと覚悟していた。
英二は周助に昨日言われたことを思い返していた。
「お互いがお互いであるために。二人のために。
コンビネーションプレイは捨てよう?
僕は僕らしくプレイするし、英二は英二らしくプレイすると良い。
同じコートだけど、ネットを挟んでる時のように競い合おうよ」
大石とペアを組んでからはお互いはお互いのためにプレイしてきた。
それを真っ向から否定するような、
と言うより、ダブルス自体を否定するようなプレイには抵抗がある。
けれども。一緒にプレイするのが周助ならばそれも良いように思える。
「まったく…不二とは仲間で良かったよ」
「え?それは嬉しいけど…なんで?」
こんな作戦考えるヤツが相手だったら恐ろしくてやってられない。
一番そばにいたいと思える人間と一緒に戦える。
どちらも口に出すのは馬鹿馬鹿しく思えたので答えるのはやめた。
「…まあ、僕も仲間で良かったと思ってるけどね」
周助の顔はいつも通り表向きの顔━━━仮面の笑顔だったけれど、
その下に英二が見たものは、彼にだけ向けられる笑顔だったので
二人だけのダブルに対する不安も忘れることにした。
彼の笑顔を消さない方法は、このダブルスの勝利だから。
不安な表情から一転してすがすがしく、
また、戦闘モードにくるくると移り変わる英二を見て、
今日はなんとしても負けられない。
負ける気はもともと無いけど…周助はそう思った。
よく変わる表情を見るのは飽きないけれど
曇った表情だけは見たくない。
英二がいるから、がんばれる。
空は昨日と一転して大きな雲が少し早めに流れている。
陽の光は古い電灯のようにちかちかとコート上を照らしている。
昨日の様に青い空に溶け込むことは出来ないけれど
今日は二人でコートに溶け込む。
英二と周助と、二人だけしか出来ないテニスをプレイするために。
END
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