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- 昔書いていた36話(友情系)の転載です。
- 特に加筆修正は行ってません。
- 菊不二前提で書いていたような気がする。
- 巴は出てきません。
- 初出:2003年
***
「僕のプレゼントは高くつくこと、覚えておいてね。支払期限は2月末日で」
英二の誕生日に周助が言った言葉だ。
その約束を守るならば、期限は今日。
プレゼント2
自分の誕生日が冬の入り口だったなら、彼の誕生日は春の入り口だろう。
2月28日はそう思わせる陽気だった。
風はすっかり春めいて、日中は厚着をしていれば汗ばんだことだろう。
どこからか、梅の香りと沈丁花の香り。
清冽で凛とした沈丁花の香りは周助を思い出させる。
中学三年生である彼らにはもう授業というものはなく、
そもそも、通学しなくて良い。自宅待機の身だ。
このあと学校に行くのは卒業式前の数日のみで
それも、式の練習に費やされる。
しかし、登校日でもないのに関わらず、英二は制服姿で学校へ向かう。
これまでの中学校生活とは何ら変わらぬ制服にラケットバッグを背負って。
通い慣れた学校までの道のりを小走りに。
おおざっぱに分類するなら11月生まれの自分はぎりぎり冬生まれで
そして2月の末日に生まれた彼もぎりぎり冬生まれで。
同じ冬生まれと言っても僕たち二人は大分違う。
もちろん、季節が人格形成に大いに関わるわけで無し
二人が違うのは当然のことだ。
育った環境が違う。
性格も似ているとはとても言えない。
テニスのプレイスタイルも。
試合に対する捉え方も。
共通することと言えば、同じ学校でクラスメイトで部活仲間。
そしてテニスが好きだ。
それだけだ。
それだけなのに、何故彼に惹かれるのだろう。
いくら考えても、答えは出ない。
いつか出る日が来るのかも分からない。
「やば、遅刻!」
学校までは、あともう少し。英二の足は加速度を増した。
「遅いよ、英二。自分から呼び出しておいてさ」
待ち合わせ場所である校門前に既に来ていた周助からきつく咎める声が飛ぶ。
が、その表情は相変わらず穏和そうに見える。
アルカイックスマイルってお前のことを言うんだよな、と
以前英二がからかったら、やはり穏やかな表情は変わらず鉄拳が飛んできた。
この友人は表情から感情を読みとれないのが怖い。
それでも、自分は他の人間よりも分かった気になっているのだが。
「ごめん、ごめん。用意が遅くなっちゃってさ」
「もう、めでたく誕生日を迎えた友人を待たせるなんて、
ろくな友人じゃないよね」
「マジゴメンってば!」
「はいはい。こんな事言い合ってても時間の無駄だよ、さ、用意しよう」
そして、二人は3年間必死になって活動していたテニスコートへと向かう。
多分、青春学園中等部の生徒として、
この青春学園中等部テニスコートでプレイするのはこれが最後だろう。
そう言う思いを込めて、二人は一つの球を向かい合って追う。
授業中の校内は静けさに満ち、
ラケットがボールを捕らえる音、ボールがコートに弾ける音
そしてそれを追う足音だけがコート内に響く。
引退してからも体を怠けさせないように気をつけていた二人ではあったが
やはり、現役の時よりも体が重い。
すぐに息が上がってしまった。
現役当時にこんな早く上がってしまったら、
部長からは「走ってこい」と言う声が、
乾からはスペシャルドリンクのお誘いが。
そして、顧問からは激しい球出しの嵐が怒濤のようにやってくるに違いなかったが
今はそれがない。
嬉しいような、それでいて寂しいような気分に二人はなった。
まだ2月だというのに、陽気のせいかかなり汗を光らせながら
二人はフェンスにもたれて座り込む。
「うーん、俺達も年を取ったってことかなあ」
しみじみと英二はつぶやく。
「馬鹿なこと言わないの、英二。僕誕生日だし洒落にならないよ」
汗を拭きながら周助はそう答える。
「それにしても、英二、よく許可が取れたね」
「え?」
「だから、テニスコート、だよ」
本来ならば、学校のテニスコートだ。
もう部員でもなんでもない一生徒が、1、2年の一般生徒が授業をやっている時間に
私的にコートを使わせて貰えるはずがない。
昨夜、突然周助の元へ英二からメールが届いた。
【件名】明日♪
【本文】やっほー。まだ起きてる?
明日、13:30に青学校門前で待ち合わせって事で!
バースデイテニスしよーぜ(^^)b
たったそれだけで、こちらの都合もお構いなしの誘いだったが
周助は何も言わず、誘いに乗った。
そして、学校前が待ち合わせというのは、分かり易いからだとばかり思っていた。
まさか本当に学校でテニスをするためとは…。
それに、バースデイテニスってなんだか分かるような分からないような。
「テニスコート、ね。許可取るのにマジ頑張ったよ!
スミレちゃん、こないだの卒業試験の成績全教科70点以上だったら良いっていうんだもんよ」
少し興奮したように、英二が答える。
周助は驚いたように目を見開く。
テニス部は文武両道の部として通っているが、
英二にはそこまでの成績は容易ではなかっただろうから。
しかも、どうしてそう言う話になるのかが分からない。
全教科70点以上でテニスコートを使って良いとは。
いくらテニス部顧問といえども簡単に許可できるとは思えなかった。
「ねえ、不二、誕生日、何が欲しい?」
一月程前に英二は周助にそう尋ねた。
「誕生日…ねえ…。このまえ、高くつくって言ったよね?自分で考えなよ」
「えー!不二のけちー!ヒントー!」
おねがーい!と言う目で周助を見つめる英二。
「だってさ、オレの誕生日のプレゼント、マジ嬉しかったんだもん!
不二にも喜んで欲しいんだよ!」
「そうだなあ…。やっぱり英二の気持ち…かな?
それを何で表すかは僕じゃなくて英二が考えることだよね」
にっこりと英二に笑いかける。
「ううう。それはやっぱり答えないってことかよー」
全身で不二のケチーというオーラを出しつつも
そこで英二はあっさり引き下がった。
結局その時点では英二は効果的なプレゼントが思いつかない様だった。
僕は独占欲が強いから。せめて一ヶ月は僕のことで頭を一杯にするといい。
そのときはそれだけを周助は考えていた。
プレゼントが何になるとしても、それ自体が誕生日プレゼントのようなものだ。
結構移り気で好奇心旺盛な、まさに猫みたいな英二が
自分のことだけを考える、それはなんてぞくぞくする事だろうか。
しかも、あの英二がこの自分のために勉強をするなんて。
自分の為にでもそんなに頑張って勉強をしない英二が。
嬉しくて震えが止まらない。
かつて、こんなに興奮することがあっただろうか。
「英二って、びっくり箱みたいだよね?」
いつもは人前に出さないような笑顔で周助は言う。
「ええー?そう?そんなに驚いた?」
さも、満足げに英二は問う。
彼のこんな笑顔が見られるのはきっと自分だけだろうなと自惚れつつも
まさに、それを狙ってましたと言わんばかりに。
周助を満足させるようなプレゼント。
それを考えると言うことがいかに大変かということを英二はすぐに思い知った。
根底に貪欲なものを潜ませながらも、
金銭的に恵まれていることと、元来の性格から物欲や執着心は薄い。
たとえばサボテンやカメラというようなこだわりはあるものの
それを人からもらったとしても喜んで受け取るタイプだ。
食べ物に関しては味覚に少し変質的なところはあるものの
世間一般で言われる「おいしいもの」は普通に美味しく食すし、
あの乾汁が飲めると言うことは逆に嫌いなものが少ないとも言えるかもしれない。
彼の好きな食品を贈るというのも考えたけれど、
しかしながら、それでは芸がないように思えるし
誕生日プレゼントに激辛ラーメンをおごる、なんて言うのは自分的にも許せない。
どうせなら贈った相手に喜ばれ、
なおかついつまでも記憶に留めておけるようなものがいい。
自分と周助の絆になるもの━━━。
そう考えた時にたどり着いたのがテニスだった。
二人の3年間の関係の軸となったもの。
二人がこよなく愛するもの。
お互いが真剣に向き合える数少ない場だから。
場所は何処でも良かったが、どうせなら学校のコートが良かった。
自分たちが打つことが出来るのはきっとこれで最後になるから。
青春学園中等部の不二周助と菊丸英二は数日後にはいなくなってしまうから。
それを思いついた時にはまさに天啓が下ったような気がした。
その時既に深夜に近い時間ではあったが
取り憑かれたように早速顧問に電話していた。
もちろん、「こんな時間に何事だ」と怒られたが全く気にならなかった。
そして、彼らは今テニスコートにいる。
3年間、一緒に同じものを見、同じ高みを目指した場所。
愛すべき場所。
そしてこれからはどんなに焦がれても彼らのものではなくなる場所。
もう既に空は春の色に変わりつつある空を二人はしばらく無言で眺めていた。
その静寂を破ったのは周助の方だった。
「ねえ、英二」
「ん?」
「僕は英二のこと、好きで良かったなって今程思ったことはないね」
「へ?」
英二は急に何を言い出すのかという表情で周助の顔を凝視する。
その驚きの表情を見て周助は相好を崩す。
いつも笑顔ではあるけれど、いつもと違う笑顔。
それは唯一の人にだけ見せる笑顔で。
英二も、周助のことが好きで良かったなと改めて思う。
思った瞬間、すっと唇が触れ、離れた。
英二は、ずっと驚いたままで表情が固まってしまっている。
「まいったな、悔しいな」
「な、なんでまた」
「だって英二は僕が思ってるより僕のことを大切に思ってくれてるから、ね」
「それはないっしょ。寧ろ逆だし、俺こそ悔しいよ」
「……あー、僕たちってお互いを思いやるイイカップルだと思わない?英二」
その一言を呼び水に、二人はひとしきり笑いあう。
「それを自分の口から言うか?フツー」
「僕は、言うよ」
「はははははは。まあ、不二だしね」
「なんだよ、それ。
━━━まあ、いいか、さて在校生の部活までもうちょっと時間があるね。
もう少し打っていこうか、英二」
「賛成、賛成!よーし、はりきっていっちゃうからなー!」
先ほど打ち合った疲労も消え、軽やかな足取りで二人はコートへ向かう。
「あ、そうそう、言うの忘れてた。
終わったら姉さんが英二を家に連れてこいってさ、ケーキあるからって」
「やった!もーっとはりきっていっちゃうからなー!不二覚悟しろよ!」
「はは、それは手強いな。━━━あと、そう、英二」
ネットをはさんで向かい合ったところで
周助は改まった表情で英二に声をかけた。
「素敵な誕生日プレゼントをどうもありがとう」
そして、試合の時と同様に握手を交わした。
試合の時と違うのはお互いがお互いを見つめ、とろけるような表情だったことだけ。
END
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