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家庭科の授業で買った「食品成分表」と計算機が今のお友達。
寝食を惜しんでページをめくり、計算機を叩く。
巴の部屋の中にはプロテインやサプリメント、
その他諸々の箱や包みが積み上がっている。
リミットは明日。
明日までに何とか完成させる。
あの人の驚いた顔が見たくて。
賞賛の表情を独り占めしたくて。



*Precious Drink



今年の誕生日は気合いを入れている。
去年はまだお互いよく分かっていなかったので
誕生日といってもたいしたことはしなかった。
せいぜいお祝いの言葉と適当なプレゼント。
でも後で━━━好きになっていくにつれて物凄く後悔した。
今の私ならもっと上手くできるのに。
だから、今年は気合いを入れて。
頑張ってあの人好みのプレゼントを愛情込めて。
よくやったね、嬉しいよって言ってもらえるように。

だから。

今年は、巴特製汁。

乾先輩が高等部に行っても、残った中等部の私も頑張ってると、
彼の考えを引き継いで頑張っていると認めてもらえるように。
そして、褒めてもらえるように。
1ヶ月前ぐらいから考えて悩んで試行錯誤して、今日までやってきた。
計算され尽くした、栄養。
乾汁とは違って、私なりに味も考慮した。
どうしても味が落ちる栄養素の入った食材は
それを補うサプリなんかでカバー。
乾汁には及ばなくても、私なりに完璧でありますように。

「よっしゃ!これで完璧~♪」

計算上は完璧。
後は明日作って渡すだけ。
気づくと、時計は既に日付を越えていた。
慌てて、翌日の用意をして巴は就寝した。


朝起きて、前日用意していた材料をミキサーに放り込む。
放り込みながら、これを受け取った時の乾に思いを馳せる。
ふと手にとったプルーンを見て、
去年乾と作ったスペシャルドリンクを思い出した。
なんとなく、あの時にはもう先輩のことが好きだったんだなあ。
休日にいきなり電話で呼び出されて速攻会いに行ったもんなあ…。
ついつい、回想モードに入りそうになる。
いけない。先輩に渡すのは登校中。
今日だけは絶対遅れることは出来ないのに。
慌てて止めそうになっていた作業を続ける。


「おはようございます!乾先輩」

また一つ年齢差が開いてしまった乾に朝からハイテンションな巴が駆け寄る。
手にはあからさまな紙袋。もちろんプレゼント入りだ。

「おはよう、トモエ。どうした?今日も元気だな」

「そっりゃそうですよう!先輩、お誕生日おめでとうございます!」

はい、これプレゼントです、と紙袋を渡す。
中身は普通にデータを取る時に使うような文具一式だ。
汁も作ってはいるものの、それはそれ、形として残るものも渡したかった。

「あと、それと、もう一つ用意して居るんですよ!」

「もうひとつ?それは、計算外だな」

これまでのデータから計算するに、乾は巴からのプレゼントは
文具関係のもので間違いないだろうと思っていた。
たしかに今それは受け取ったが、
それ以外にもまだなにかプレゼントがあるという。
さすがにそこまでは読めなかった。

「で、なんなんだ?
それはここ数日お前の様子がすこしおかしいのと関係があるのか?」

ニヤリと笑って、巴の表情を窺う。
たしかにここ数日はソワソワしていて落ち着きがなかった。
それはただ、自分の誕生日が近づいてきているからだろう
うぬぼれだがそう思っていた。
その勘は当たっているようだが、それ以上のなにかがあるらしい。
巴の言葉を待つ。

「えへへ。ばれちゃってましたか」

じゃーん!、そういってカバンから取り出したのは水筒。

「なんだ?水筒…?」

銀色に輝く水筒を見て乾は困惑する。
流石に水筒とは想定の範囲外だ。
手作り弁当とかそう言ったモノならばちらっとは考えたのだが。

「巴特製スペシャルジュースでーす!
このジュースは日常不足しがちな栄養素を補う目的のものです。
だから、毎日飲んでくださいねー」

レシピもちゃんと作ってきていますから…そういってコップに注ぐ。
そして乾に手渡す。
色は謎の色だが、匂いは飲めないにおいではない。
臭みを増す原因の菜っ葉関係は入れてはいないのだろう。
しかし、自分のドリンクの例もあるので
飲むにはすこし躊躇いがある。勇気が要る。
自分が他人に飲ませる分には一向に構わないのだがと思う。
しかし、わくわくという言葉が的確な表情で巴は乾を見つめている。
ここで、飲まなければヘタレ、もしくは別れ話確定だろう。
仕方がない。
一気に喉へとスペシャルジュースを流し込む。

「……ん?案外イケるぞ、これ」

巴の笑顔が全開になる。
その言葉を待っていたのだから当然だ。
乾は残りのジュースを飲みながら、巴の書いたレシピを眺める。
確かに爆発的な効果は期待できるものではないが
毎日の栄養素を補う目的では問題ない。
事細かに考えられた材料選びだ。
生ものの代わりにサプリを使っている事はすこし引っかかるが
味の事を考えたら評価せざるを得ないだろう。
自分でも自分製の汁は毎日飲むに耐えるとは思っていない。
なんというか、その辺の発想は女性的だと思う。
そのような評価を包み隠さず巴に伝えてやる。
乾だって悔しいと思うところはすこしはあるけれども、
自分のためだけに彼女が考えてくれた特製レシピだ。
嬉しいことの方が上回る。

「よく頑張ったな、トモエ」

「やったー!先輩にそう言われたかったんです!」

素直に喜びを表す巴。
そう言うところが、コイツの可愛いところだと思う。
これまでも、自分の教えたこと伝えたことを素直に吸収してきた。
打てば響くというのはこういう事を言うのだろう。
思わず良い子良い子というように頭を撫でてしまう。
身長差からいって彼女の頭は丁度良い位置にある。
巴は思わず顔を赤らめてしまう。
本当に、コイツは可愛い。

「まったく、お前は可愛いな」

これは、本音だ。

「その、打てば響くような素直なところも、
俺のために頑張ってくれるようなも、
データが取りづらい、意表をつく行動もみんな可愛いと思う」

頭を撫でたり、可愛いという言葉を「子供っぽい」ととったのか、
巴はすこし顔を膨らませ「もー、子供扱いしないでくださいよー」
と、抗議の意思を表す。
それすらも愛らしく感じてしまう乾は、
頭を撫でていた手に力を込め、引き寄せる。

「…あっ」

とつぜんの事に足をよろめかせ乾の身体にもたれかかる形になってしまう。
頭に手をしっかり置いたまま、乾は巴の顔に自分の顔を寄せる。

「さすがに、俺は子供に手を出そうとは思わないけど?
まあ、お前の貴重なジュースに媚薬でも入っていない限りだけど、な」

入っていません!
そう巴は言おうと思ったが、その声はさらに近づいた乾の顔にかき消されてしまった。

「でも、媚薬が入っていようがいなかろうが手は出すけどな、お前になら」

本当は媚薬を混入してしまったんじゃないだろうか?
巴は自分自身を疑ってしまう。
乾は普段も急に甘いことをさらっと言うタイプだが、今日は別段甘い。
これをジュースの効果と言わずしてなんと言うだろう。
でも、ジュース、毎日飲んでくれるんだよね…?
こんなコトが毎日だったら恥ずかしくて身が持たないかもと巴は恐れを抱いた。


END
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