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この作品は5000番を踏まれましたユエさまへ。
お題:「学校前で待ち伏せする巴とそれを叱る乾のお話(乾卒業後設定)」
***
(…まいったな…)
赤月巴は厄介なことになると困るので口には出さず内心そう思う。
青春学園高等部の放課後。
とある理由でまるでアイドルの出待ちのように乾を待っていたのだが
いつの間にか塀を背にして見知らぬ男子高校生3人に囲まれている。
「キミ、カワイイねえ」
「ねえねえ、誰待ってるの?」
なんて言う台詞を次々と投げかけられる。
巴が中等部の制服を着ているのも、相手に甘く見られる原因かも知れない。
「ねえ、俺ら先輩なんだから言うことききなよ」
段々、彼らの身体が近づいてくる。
逃げ場はない。
だいたい、何でこんな時に限って誰も知り合いに会わないのだろう。
巴はふと今まで時折ウザく感じるほど構われ続けてきた先輩達の顔を思い出す。
いつもならこういう時、何処かで見てたのではないかと思うくらい
ナイスなタイミングで誰かしらと会う。
ましてや今日自分が居るところは、青春学園高等部。
つまり昨年まで青学中等部3年だった先輩達が現在通っている学校だ。
(もう…誰でもイイから助けてよー!乾せんぱーい!)
必死に現在高等部内にいるはずの先輩達の名を呼び続ける。
しかし誰も来てはくれない。
「ねえ、もうずっと待ってるけど誰も来ないジャン。
そんなヤツほっといて、優しい先輩の俺らと遊ぼうよ」
中の一人がグッと顔を近づけて来た。
事を荒立てたくなかったから今まで黙っていたのだが、
ここは一発、必殺かかと落としをお見舞いするべきか。
巴は決心して右足を振り上げようとする。
「イテッ!」
顔を近づけていた男が悲鳴を上げる。
(あれ…?私はまだ何もしてないよ…?)
何処か痛そうに顔をゆがめている男の後ろに長身の人影。
そこに男の手をねじって立っている乾の姿があった。
「……悪いが、彼女には俺という先約があってね……。
悪いが遠慮してくれないか」
「乾先輩!」
嬉しそうに巴は声をあげる。
お待ちかねの援軍━━━それも一番来て欲しかった人だ。嬉しいに決まっている。
その声で我に返ったように巴を囲んでいた男達はちりぢりになって去っていった。
「…ったく…なんでお前はこんなところにいるんだ?」
二人っきりになったところで乾は少しあきれ顔で巴に訊く。
「なんでって…乾先輩を待っていたに決まってるじゃないですか」
そんな当然のことをどうして訊くのかと不思議そうな表情をする巴。
付き合っている(ということになっている)彼を待つ行為に不審な点はない。
そんな無邪気な表情に内心デレっとなりながらも
周囲の視線に耐えかねて、そして他のテニス部連中に会ってしまう前に
巴の手を引いて乾は歩き出す。
「もう…!乾先輩ってば歩くの速いですよ!」
少しふてくされた表情で巴は言う。
無言で引っ張られて近くの小さな公園まで来た。
今時ブランコと砂場と藤棚のベンチしかない小さな公園は
もちろんあまり子供が近寄る訳もなく閑散としている。
二人の貸し切り状態だ。
梅雨の晴れ間の上天気は少しの動作でも簡単にのぼせ上がらせてしまう。
乾の歩調にあわせて少し早足だった巴も息は乱れ汗を掻いてしまった。
藤棚下の少し日陰になったベンチですこし呼吸が落ち着くのを待つ。
「…すまない、トモエ。
俺としたことが二人の歩幅の差というものを失念していたようだ」
「そうですよー。それでなくても先輩は真っ直ぐスタスタ歩いちゃうんですから」
悪い癖をあげつらうように巴は乾に言う。
「それで?なんで、高等部の前に立ってなんかいたんだ?
俺に用があるにしても、ケータイだってあるだろう?」
詰問するような口調で乾は巴に問う。
「だいたい、あそこに立ってたら会ってしまうのは俺だけじゃないだろう?
テニス部の連中はもちろん、他の知らない男子高校生にだって会ってしまう。
無防備なお前が簡単に目を付けられてしまうことぐらい
俺のデータを駆使せずとも容易に想像がつく」
「え?別に他の先輩方に会っちゃうのは結構嬉しかったりするんですけど?」
乾の真意が読めずにこれまた無邪気に返答する。
しかし、それを聞いてすくなからず乾は落胆する。
実際は見知らぬ相手よりもテニス部の方がタチが悪いのだが
なんの疑いも抱いていない巴にそれを理解しろと言うのも無理な話だ。
みんながライバル、少なくとも乾はそう思っている。
「それはともかく、だ。
言ってくれれば俺が中等部に迎えに行くのになぜお前は事前に言わない?
現にさっき変な奴らに絡まれていただろう?」
「それは…!助けてくれて有り難かったですけど…」
言い淀む。
今日の乾がやたらと絡むことに少しショックを覚えつつ。
実際のところ乾は心配、そしてヤキモチを焼いただけだったが
その事は巴は知らない。
「そんな返答は聞いていない」
いつもより冷たいまなざしにだんだんと涙目になってくる巴。
巴自身こんなところで泣くような女は苦手だが
いざ自分の段となるとその涙の止め方が分からなかった。
乾が冷たい。乾が怖い。
その事実は巴を打ちのめす。こんな気持ちは初めてかも知れないと思いながら。
そしてめざとい乾はその涙に気づいてしまった。
「…っ!!!」
激しく動揺する。
まさか巴がこんなコトで涙が出てくるような性格だと思っていなかったからだ。
自分の知っている赤月巴は涙とは無縁のように
良く笑う明るい少女だった。
動揺したままの乾を尻目に、
大粒の涙をまるでマンガのようにポロポロと流しながら巴は答える。
「…………に行きたかったからです」
「えっ?」
「乾先輩と!七夕に!行きたかったからです!」
聞こえなさそうにしていた乾の耳元で大声で叫ぶ。
何しろ巴の肺活量と腹筋は尋常じゃないのでその大声は頭と鼓膜にガンガンと響く。
そしてガンガンとした頭で、あることに気づいた。
「……七夕?」
それは意外な答えだった。
乾はデータマンだが、こういう根本的なところは抜けていることが多い。
それは巴も知っていたのだが、それでもやはり頭を抱えてしまう。
「だからですよ…。今日迎えに来たのは。どうせ先輩は忘れてると思って」
涙は一時の激情ゆえだったのか、治まってきた涙をごしごし拭いつつ言う。
待ち合わせの約束では確かに乾は忘れかねない。
何しろ記念日という記念日、自らの誕生日すら無頓着な男だ。
あり得ない訳ではない。
今度は乾が頭を抱える番だ。
流石に自分の忘れっぽさが原因でこんなコトになろうとは思わなかった。
「…すまないな。今日のことは俺にも一因があったんだな」
「そうですよ」
ふくれっ面で巴はそう答える。涙のあとはまだ消えない。
乾は両手でそのあとをなぞり、
その巴の目の端に口づけて、
誰もいない公園なのに潜めた声で巴に囁いた。
「七夕祭りの短冊に“好きな人が俺を許してくれますように”
って書いたら…願い事は叶うかな?」
「さあ?どうでしょうねえ?
これからの心がけ次第で、先輩の目の前の織姫様なら叶えてくれるかも」
「……それはいやだな……お前が織姫か?」
「ええー、どういう意味ですか?らしくないっていうんですか!?」
巴は心外だというように肩を怒らせる。
慌てて乾は自分の発言を補足する。
「いや…、だってお前が織姫なら俺が彦星か?
あの二人みたいに俺とお前とが離ればなれになるなんて死んでもイヤだからな」
そしてそれを態度で表そうと
両腕に巴を閉じこめ、離ればなれにならないように固く自分に縛り付けた。
END
お題:「学校前で待ち伏せする巴とそれを叱る乾のお話(乾卒業後設定)」
***
(…まいったな…)
赤月巴は厄介なことになると困るので口には出さず内心そう思う。
青春学園高等部の放課後。
とある理由でまるでアイドルの出待ちのように乾を待っていたのだが
いつの間にか塀を背にして見知らぬ男子高校生3人に囲まれている。
「キミ、カワイイねえ」
「ねえねえ、誰待ってるの?」
なんて言う台詞を次々と投げかけられる。
巴が中等部の制服を着ているのも、相手に甘く見られる原因かも知れない。
「ねえ、俺ら先輩なんだから言うことききなよ」
段々、彼らの身体が近づいてくる。
逃げ場はない。
だいたい、何でこんな時に限って誰も知り合いに会わないのだろう。
巴はふと今まで時折ウザく感じるほど構われ続けてきた先輩達の顔を思い出す。
いつもならこういう時、何処かで見てたのではないかと思うくらい
ナイスなタイミングで誰かしらと会う。
ましてや今日自分が居るところは、青春学園高等部。
つまり昨年まで青学中等部3年だった先輩達が現在通っている学校だ。
(もう…誰でもイイから助けてよー!乾せんぱーい!)
必死に現在高等部内にいるはずの先輩達の名を呼び続ける。
しかし誰も来てはくれない。
「ねえ、もうずっと待ってるけど誰も来ないジャン。
そんなヤツほっといて、優しい先輩の俺らと遊ぼうよ」
中の一人がグッと顔を近づけて来た。
事を荒立てたくなかったから今まで黙っていたのだが、
ここは一発、必殺かかと落としをお見舞いするべきか。
巴は決心して右足を振り上げようとする。
「イテッ!」
顔を近づけていた男が悲鳴を上げる。
(あれ…?私はまだ何もしてないよ…?)
何処か痛そうに顔をゆがめている男の後ろに長身の人影。
そこに男の手をねじって立っている乾の姿があった。
「……悪いが、彼女には俺という先約があってね……。
悪いが遠慮してくれないか」
「乾先輩!」
嬉しそうに巴は声をあげる。
お待ちかねの援軍━━━それも一番来て欲しかった人だ。嬉しいに決まっている。
その声で我に返ったように巴を囲んでいた男達はちりぢりになって去っていった。
「…ったく…なんでお前はこんなところにいるんだ?」
二人っきりになったところで乾は少しあきれ顔で巴に訊く。
「なんでって…乾先輩を待っていたに決まってるじゃないですか」
そんな当然のことをどうして訊くのかと不思議そうな表情をする巴。
付き合っている(ということになっている)彼を待つ行為に不審な点はない。
そんな無邪気な表情に内心デレっとなりながらも
周囲の視線に耐えかねて、そして他のテニス部連中に会ってしまう前に
巴の手を引いて乾は歩き出す。
「もう…!乾先輩ってば歩くの速いですよ!」
少しふてくされた表情で巴は言う。
無言で引っ張られて近くの小さな公園まで来た。
今時ブランコと砂場と藤棚のベンチしかない小さな公園は
もちろんあまり子供が近寄る訳もなく閑散としている。
二人の貸し切り状態だ。
梅雨の晴れ間の上天気は少しの動作でも簡単にのぼせ上がらせてしまう。
乾の歩調にあわせて少し早足だった巴も息は乱れ汗を掻いてしまった。
藤棚下の少し日陰になったベンチですこし呼吸が落ち着くのを待つ。
「…すまない、トモエ。
俺としたことが二人の歩幅の差というものを失念していたようだ」
「そうですよー。それでなくても先輩は真っ直ぐスタスタ歩いちゃうんですから」
悪い癖をあげつらうように巴は乾に言う。
「それで?なんで、高等部の前に立ってなんかいたんだ?
俺に用があるにしても、ケータイだってあるだろう?」
詰問するような口調で乾は巴に問う。
「だいたい、あそこに立ってたら会ってしまうのは俺だけじゃないだろう?
テニス部の連中はもちろん、他の知らない男子高校生にだって会ってしまう。
無防備なお前が簡単に目を付けられてしまうことぐらい
俺のデータを駆使せずとも容易に想像がつく」
「え?別に他の先輩方に会っちゃうのは結構嬉しかったりするんですけど?」
乾の真意が読めずにこれまた無邪気に返答する。
しかし、それを聞いてすくなからず乾は落胆する。
実際は見知らぬ相手よりもテニス部の方がタチが悪いのだが
なんの疑いも抱いていない巴にそれを理解しろと言うのも無理な話だ。
みんながライバル、少なくとも乾はそう思っている。
「それはともかく、だ。
言ってくれれば俺が中等部に迎えに行くのになぜお前は事前に言わない?
現にさっき変な奴らに絡まれていただろう?」
「それは…!助けてくれて有り難かったですけど…」
言い淀む。
今日の乾がやたらと絡むことに少しショックを覚えつつ。
実際のところ乾は心配、そしてヤキモチを焼いただけだったが
その事は巴は知らない。
「そんな返答は聞いていない」
いつもより冷たいまなざしにだんだんと涙目になってくる巴。
巴自身こんなところで泣くような女は苦手だが
いざ自分の段となるとその涙の止め方が分からなかった。
乾が冷たい。乾が怖い。
その事実は巴を打ちのめす。こんな気持ちは初めてかも知れないと思いながら。
そしてめざとい乾はその涙に気づいてしまった。
「…っ!!!」
激しく動揺する。
まさか巴がこんなコトで涙が出てくるような性格だと思っていなかったからだ。
自分の知っている赤月巴は涙とは無縁のように
良く笑う明るい少女だった。
動揺したままの乾を尻目に、
大粒の涙をまるでマンガのようにポロポロと流しながら巴は答える。
「…………に行きたかったからです」
「えっ?」
「乾先輩と!七夕に!行きたかったからです!」
聞こえなさそうにしていた乾の耳元で大声で叫ぶ。
何しろ巴の肺活量と腹筋は尋常じゃないのでその大声は頭と鼓膜にガンガンと響く。
そしてガンガンとした頭で、あることに気づいた。
「……七夕?」
それは意外な答えだった。
乾はデータマンだが、こういう根本的なところは抜けていることが多い。
それは巴も知っていたのだが、それでもやはり頭を抱えてしまう。
「だからですよ…。今日迎えに来たのは。どうせ先輩は忘れてると思って」
涙は一時の激情ゆえだったのか、治まってきた涙をごしごし拭いつつ言う。
待ち合わせの約束では確かに乾は忘れかねない。
何しろ記念日という記念日、自らの誕生日すら無頓着な男だ。
あり得ない訳ではない。
今度は乾が頭を抱える番だ。
流石に自分の忘れっぽさが原因でこんなコトになろうとは思わなかった。
「…すまないな。今日のことは俺にも一因があったんだな」
「そうですよ」
ふくれっ面で巴はそう答える。涙のあとはまだ消えない。
乾は両手でそのあとをなぞり、
その巴の目の端に口づけて、
誰もいない公園なのに潜めた声で巴に囁いた。
「七夕祭りの短冊に“好きな人が俺を許してくれますように”
って書いたら…願い事は叶うかな?」
「さあ?どうでしょうねえ?
これからの心がけ次第で、先輩の目の前の織姫様なら叶えてくれるかも」
「……それはいやだな……お前が織姫か?」
「ええー、どういう意味ですか?らしくないっていうんですか!?」
巴は心外だというように肩を怒らせる。
慌てて乾は自分の発言を補足する。
「いや…、だってお前が織姫なら俺が彦星か?
あの二人みたいに俺とお前とが離ればなれになるなんて死んでもイヤだからな」
そしてそれを態度で表そうと
両腕に巴を閉じこめ、離ればなれにならないように固く自分に縛り付けた。
END
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