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二人っきりの夜。




***

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大人にとって土曜日の夜とは社交にいそしむ日だそうで。
そう、おじさんから聞いたんだけど。


   *pm19:12


確かにその言葉通り。
今日はおじさんとおばさんは友人宅のホームパーティーへ。
菜々子さんは朝はバイトで夜はサークルの飲み会だそうで。
私とリョーマ君は二人っきり。
なんて素敵なシチュエーション。
私たちもこの春ようやく中学二年生で。
先だって行われたジュニア選抜戦も私たちのペアは絶好調で 
ベストパートナーという名にふさわしかった。
終わった後から私たちは少しずつ良いカンジになってきて
ちょっと彼氏彼女な関係っぽくないかなあって
思うようになってきた。
そんなところに、土曜日の晩二人っきり。
おじさん達はいつ帰ってくるかわからない。
こういうのは越前家にお世話になってから
実は初めてでドキドキする。
もしかしたら。
もしかしたら、私たちの関係ももうちょっと進んじゃうかも…?
そう意識しちゃうともうなんだか照れくさくて
顔もまともに見られないカンジ
朝からそんな調子の私にリョーマ君は
ちょっといぶかしげだったけど。
リョーマ君はこんな事なんとも思わないんだろうなあ。
なにせクールだもんね、ちぇ。


今日は珍しく部活がお休みになったので
午前中は二人して朝寝坊してぼーっとして。


お昼ご飯は滅多に取ることのない宅配ピザでお腹を満たして。
(その前に頼むピザの種類で30分くらい口論して)


午後は二人で公園に出向いてそれぞれ壁打ちしたり、
走ったり、ストリートテニスコートで杏さんたちとテニスしたり。


そして、帰りに二人でスーパーへ。
おばさんも菜々子さんもいないと言うことは、
つまりこの私が晩ご飯を作ると言うことなんだよね。
それでリョーマ君に「晩ご飯、なにがいい?」って訊いたんだけど、
「…食えるものなら何でも…」って憎たらしいことを言うものだから
(「食えるもの」「何でも」の両方が憎らしい!メニュー決まらないし!)
嫌がるリョーマ君を無理矢理スーパーに引っ張ってきた。
何が良いのかいわないのなら、その場で決めて貰おうじゃないの!


そして、19時ジャスト。
ようやく晩ご飯、完成。


…もくもく。
黙々とひたすら目の前の料理を平らげていく私たち。
本当にひたすら無言。
もともと、食事中に私たちはあんまり会話はしないんだけど
(主にしゃべっているのはおじさん夫妻…というかおじさんだし)
それでも、二人っきりなんだから
ちょっとくらい何か話したって良いじゃない。
もっとも私もこんな時に何を話していいのか
よくわからないんだけどさ。
家でも。
学校でも。
もちろん部活でも。
二人の会話は主に誰かが介在している。
それに普段一緒だから取り立てた話題というものもあまり無い。
テニスとかゲームしているときはもちろんその話題が出来るけど、
どうせリョーマ君は適当に相づちを打つだけだろう事は想像できるからそれだけに余計に難しいんだよね。

「…赤月…?
お前、さっきから何百面相しながら食べてるの?面白いヤツ」

わっ!いきなり話しかけられた!
…にしても、なんて事いうのよ!オトメに向かって!

「ほら、また変な顔。普通の顔して食べられないんだっけ?お前」

「ひっどい!誰が変な顔しながらご飯食べてるのよー!」

「だから、お前だってば。さっきから何考えて食べてんの?」

珍しくリョーマ君の口元にはかすかに笑みがある。
もしかしてからかわれてるんだろうか。
もしかしてこの沈黙にリョーマ君も耐えられなかったとか…?
まあ、そんなはずはないよね。
この人は何時間沈黙状態でも気にしない人だよ。多分。

「何考えてるって…。会話がないなあって」

「会話?」

「うん。だって普通、これおいしいねー、
とかそんな会話有るものじゃない?」

そう。そうなんだよね。
私がスーパーで食べたいものを無理矢理聞き出してまで
せっかく頑張って作ったって言うのに、
何の感想もないんだよね。リョーマ君って。酷くない?
これじゃあ、まるで。

「これじゃあ、まるで、倦怠期の夫婦だよ!」

新婚さんすら体験してないのに!
そう言うと、
リョーマ君は明らかにニヤッと笑った。

「俺がマズイものを黙ってひたすら食べるような人間だと思う訳?」

いえ、思いません。
と、いうことは、合格点なんだろうか…?
ちょっと嬉しい。
いや。
って、言うか!そんなことは口で言いなさいよー!
そうして私は不満げに口を尖らせる。
また面白そうにリョーマ君は言葉を続けた。

「じゃ、これから新婚さんごっこでもする?」

は?

「じゃあ、お前からね。
『あなた、はい!あ~ん』ってやってみなよ」

は?

「ほら、はやく」

ええー!?

「そしたら俺はこう言ってやるからさ。
『ご飯よりもお前が良いよ』てね」

……。

「どうしたの?せっかく初めての二人っきりの夜なんだからさあ、しっかりしなよ」

そんなこと言われると、急に緊張しちゃうよ。
そりゃ、朝から緊張してたけどね!

「だ、だって…リョーマ君にそんなこと言われちゃうとドキドキするんだもん!」

「へえ?俺も、朝からそうだけど?奇遇だね」

とてもそうは見えませんでしたけど?
そうでしたか。

「ほ・ら、は・や・く」

そろそろ声がいらだたしげ。
うう~。照れくさいけどやるしかないの?
…嫌ではないけどね…当然。
でも、心の準備が。
そう逡巡していると、仕方ないとでも言うようにリョーマ君は深く息をついた、

「あのね、赤月。これからお前は何十年も俺とこんな生活続けていくんじゃない?
今からこんなに躓いてどうすんの?
はじめっから倦怠期体験なんて俺は嫌だからね」

……。
なんて事言うんだ、この人は。
まさかこんな殺傷力を持つ爆弾を投下するなんて。
私だって朝はちらっと『私たちの関係ももうちょっと進んじゃうかも…?』
なんて事は考えていたけれども。
けれども、その先のことまでこの人は考えていた訳で。
負けました。


大人にとって土曜日の夜とは社交にいそしむ日だそうで。
そう、おじさんから聞いたんだけど。
どうやら。
私たちにとって土曜日の夜とは恋愛にいそしむ日みたいです。


だから。

「…リョーマ君、あーんして♪」

私もそれに従おうかと思います。


END
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