忍者ブログ
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

越前家での年越し話。





***

拍手


巴が越前家にやってきて2回目の年越しそばは、
そば屋の檀家からの厚意によって特大エビ天そばだった。
しかも一人三本という豪華さ。
すでにそばがメインなのか天麩羅がメインなのかが分からないものとなっていた。
越前家の面々はそれを素直に喜び、食していた。
家が寺なために、除夜の鐘を鳴らす準備があるので
腹ごしらえと南次郎などは真剣に食べていた。

「おっ、リョーマ、お前それ食べねえのか?」

南次郎はリョーマがまだ残していたエビ天をヒョイと掠め取り、
大きな口を開けて自らの口へと運んだ。
リョーマが、「あーっ!」と叫んだときにはもう遅かった。
動体視力、反射神経には自身のあるリョーマだが、
流石に元プロテニスプレイヤーの能力にはまだまだ及ばないようだ。

「……ちきしょっ」

そう呟くとリョーマは
すかさず自分の隣に座る赤月巴の丼に手を伸ばす。

「ああああああーっ!リョーマくん!!!それっ、私の…!」

巴の丼からは最後に食べようととっておいたエビ天が消えていた。

「お前、それ、食べてないからいらないと思ったんだけどね」

ニヤリと笑って、ゴメンゴメンと心にもないことを言う。
巴はうっすら涙をたたえた目でジトっとリョーマを睨め付ける。
しかしながらさすが親子、似たことしてるなあと変に巴は納得する。
もっともそれを口に出してしまうと、
リョーマは途端に機嫌を悪くするだろう。
それはともかく、とっておきのエビ天を食べられてしまったことで
巴はすっかりしょんぼりしてしまう。
その様子を見ていたリョーマの母倫子は、

「まあまあ、ウチの馬鹿な子がごめんなさいね、巴ちゃん。
お詫びに私の分を食べてちょうだいな」

と、自らのエビ天を巴の丼に乗せ、
その場の空気を和ませようとする。
巴は倫子の配慮に申し訳なく思いながらも、
それでもやはり嬉しいらしく笑顔になる。

「母さん、赤月には妙に優しすぎなんじゃない?甘過ぎ」

わざと拗ねたふりでリョーマは母にそう尋ねる。
もとはと言えば、リョーマが(さらに元は南次郎がだが)悪いというのに、一向に反省する気配はない。弱肉強食と言うことだろうか。
倫子はそのリョーマの拗ねた言葉に堪えることもないようだった。
それどころか。

「あら、だって巴ちゃんはウチのお嫁さんになるんですもんねえ」

爆弾投下。

「おっ…およ……ごほっ」

「かかかかかあさん!」

突然のあまりにもな言葉に巴もリョーマも動揺を隠せない。

「あらあ、そうなったらおばさま、
巴さんと親子になるんですね、うふふ」

菜々子も、冗談ではなくあくまで本気で倫子の言葉に応える。
倫子と菜々子の間には和やかな別空間が存在するらしい。

「ちょっと、待ってよ、二人とも!何で俺が…こんな……」

「そうですよ…おばさん!私、リョーマくんとだなんて…」

リョーマと巴は二人の勝手な決めつけに反論を試みようとした。
しかし、

「おいリョーマ、時間切れだぜ。除夜の鐘つき、お前も付き合え」

南次郎は立ち上がり、
片手でリョーマの襟を掴みずるずると引っ張る。
まもなく12時。
除夜の鐘を突かなければならないのだ。

「なんだよ、親父っ…!」

「腹ごなし、腹ごなし。これもトレーニングだと思え」

二人は言い合いをしながら部屋を出て行ってしまった。
残されたのは巴と倫子、菜々子の女3人。
巴は何となく蛇×2に睨まれたカエルの様な気分になってきた。

「さて、巴ちゃん、これからは本当の母娘のように仲良くしてね」

「リョーマさんと夫婦ってコトは私とは義理の従姉妹になるんですね。うれしいわ、巴さん、よろしくね」

倫子と菜々子はにっこりと巴に挨拶をする。

「えっ、ちょっと…」

ゴーン……

その時、外から除夜の鐘が聞こえてきた。

「あらっ、おじさまの鐘の音ですねー」

「ホントだわ、もうすぐ1年も終わりなのねー」

楽しそうに談笑する女性二人。
結局巴は反論するタイミングを一生逸することになる。
らしい。



END
PR
プロフィール
HN:
ななせなな
性別:
非公開
忍者カウンター
P R
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]