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まるで手のモデル顔負けのきれいな手が巴の手を不意に包んだ。
暖冬とはいえ、風の吹き付ける街路ではややひんやりとした観月の手のぬくもりですら他のものに代え難いほど暖かい。
けれどもついつい巴は声に出して驚いてしまった。

「えっ…?」

「ボクに手を握られるのは嫌ですか?巴くん」

必要以上に驚きの反応を示した巴に不快感が混じった声で観月はそう問いかけた。
巴は慌てて、それを否定する。

「そういうワケじゃないんです、でも、珍しいですね。観月さん普段は手を繋がないから」

ふたりで並んで歩くことは良くあるが、手を繋いでというのは滅多になかった。
巴もそれを愛情のパラメーターに当てはめて不満に思ったりということはなかったが
最近では逆に手を繋がれる方がかえってビックリしてしまうようになっていた。
付き合っているのだからそれはマズイとは思うのだけれど。
今日もやっぱり驚いてしまった。

「手を繋いでどちらかがバランスを崩してしまうと危ないですからね。
 ボクらがスポーツ選手でなければ二人で転んだりするのも楽しいでしょうけど、
 現状では些細なことでも気を付ける必要がありますから」

やはり珍しく手を繋いだ日、隣を歩く人はまじめくさった顔で巴にそう言っていた。
そういった人が今日はこうして手を引いて歩いてくれている。
私と手を繋ぎたかったんだと思うと何だかくすぐったかった。
思わず、クスクスと笑ってしまった。

「……やっぱり、嫌なんですか」

今度は少し傷ついたような声を観月は出した。
どちらかというとスネているふりだ。
巴にだってそれは分かる。

「嬉しいですよ!観月さんに手を握られるといつも嬉しくって驚いちゃいます。
 それに今、ちょっとはじめて手を繋いだときのことを思い出してしまいました」

はじめて手を繋いだときのことを思うと、何だかお互い照れくさい。
もう付き合いも長くなったのに、未だにこういう会話には慣れないのはどういう事だろう。
二人はお互いボンヤリとそんなことを考える。

「はじめてボクが手を握ったとき、キミはどう思ったって言うんですか?」

巴からその話を聞くのは初めてだった。好奇心が隠せない。

「えー…っと、言っちゃっていいんですかねえ…?」

「どうぞ」

「変な意味じゃないんですけど、『男の人だ!』って思ったんです。
 お父さんとは違うんだなあって初めて思いました」

「そりゃボクがお父さんだと困りますけどね」と巴の言葉の意味を計りかねて観月は話の続きを促す。

「だから、ね、観月さん」

巴はぎゅっと観月の手をきつく握りしめた。
テニスで鍛えた握力はなかなか強く、観月でも振り解けそうにないくらいキツイものだった。
もっとも振り解く気などさらさら無いのだが。

「だから━━━異性として好きになっていい人なんだなあって実感したんです。
 お父さんじゃなくて良かったな、って」

ああ、そういう意味かと観月も納得した。

「じゃあ、ボクにもキミが娘とは違うことを実感させてくださいよ」

さきほど巴が観月の手を握りしめたときよりも強く巴の手を握りかえして
そのまま力を利用するように自らへと引き寄せる。
息を呑む間もないくらいの素早さで巴の頬に唇を寄せる。

「━━━観月さんにはまだ娘なんていないじゃないですか」

今いたら困りますけどと言いながら、非難めかして観月に問いかける。
口調はキツいが紅潮した頬がそのキツさを台無しにしている。
観月はんふっといつものように笑い声を漏らしながら、こう答えた。

「さぁ、そのうちキミとの間に出来るんじゃないですか?……違いますか?」

さすがに耳元でそう問われては違いますとも言い難い。
巴の答えも待たずに観月は話を続けた。

「これから親子じゃ出来ないことをいっぱいしましょうか?
 せっかく異性として好きになっていい人が目の前にいるんですから、
 それを逃す手はないでしょう?」



END
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