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本文なし
*甘いお菓子
広く澄み渡る11月の空は本格的な冬を前に
秋の名残の暖かな陽光を地上に降り注いでいた。
そんな日だまりの中、公園の芝生広場にシートを広げ
赤月巴と千石清純は小ぶりの丸いケーキをはさみ向かい合って座っていた。
周囲に人はあまりいない。
陽が暖かいとはいえ、季節はもう芝生広場でくつろぐような時期をすぎている。
「おおっ、これは巴ちゃんの手作りケーキだね!ラッキー!!」
「はい!朝から頑張っちゃいました!」
そう言って、巴はケーキに数本ろうそくを立てる。
「こんな小さいケーキで、しかも公園の真ん中で
ろうそくってムードもへったくれもないですけど…へへへ」
少し恥ずかしそうに笑いながら、ろうそくをライターで点火する。
陽の光で明るさこそ流石に感じないが、
ゆらゆらと青白い炎が揺れているのがかろうじてわかる。
「さ、どうぞ、ろうそくってお願いごとしながら吹き消すんですよね?」
どうぞどうぞと千石を期待の眼差しで巴は見つめる。
なにせ、ろうそくを消して貰わないことにはケーキを食べることも出来ない。
千石に一刻も早く自作のケーキを食べて貰うには、
誕生日ケーキに伴う一連の儀式を早く終わらせてしまわなければならない。
千石は自分のケーキにどういう反応を示すだろう。
それを考えるだけでドキドキしてしまう。
レシピにもぬかりない。男性用で甘さ控えめだ。
試作のケーキも同級生達には好評だった。
今日のこのために作ったケーキも見た限りでは成功している。
あとは、千石の口に合うかどうかだけが問題だ。
頑張った誕生日プレゼント、彼はちゃんと満足して受け取ってくれるのだろうか。
自然と緊張してしまう。
そんな巴の必死な表情を見て思わず吹き出してしまいそうになりながらも、
千石は少し神妙な顔をして、大きく息を吸いそして火を吹き消す。
ふーーーーーっ
「お誕生日おめでとうございます!千石さん」
パチパチパチパチ……
ろうそくの火を消した千石を、巴は拍手で祝福する。
「ありがとう!巴ちゃん。いやー俺ってラッキー!
こーんなカワイイ彼女にこんな風に誕生日を祝われちゃうんだからね!」
心から嬉しそうな表情で千石はそう言った。
その言葉に嘘いつわりはない。
巴はその表情を見て幸せな気分になったが、
彼のこれ以上の表情を見られる可能性━━━美味しいケーキを食べて貰うことを
思い出し、慌ててケーキのろうそくを取り除いて食べられるように準備する。
ケーキを小皿に二人分取り分け、当然大きな方を千石に手渡す。
「どうぞ、食べてください」
「ホント、これ美味そうだよね!いっただきまーす」
大きく口をあけケーキを食べようとする千石の様子を
暖かいコーヒーを水筒からマグに注ぎながら巴は眺める。
大きくフォークに刺したケーキを嬉しそうに頬張る彼の姿は
まるで子供のようで微笑ましい。
千石はもぐもぐと丁寧に咀嚼して時間をかけて一口目を味わう。
何せ彼女の手作りのケーキだ。
いつもの調子で早食いして飲み込んでしまうなんてもったいなくて出来ない。
巴の作ったケーキは成長期の二人が食べる量としては丁度よく、
大きすぎず、小さすぎもしない。
秋にふさわしく、マロンクリームのデコレーションケーキで
栗の甘く煮たものやチョコレートで飾られている。
色合い的には茶系で地味なものだがデコレーションは凝っていて華やかだ。
「んーーーーーーーーーーーーーーんまいっ!最高!」
最上の笑顔で千石は巴に感想を簡潔ながらこれ以上ない言葉で伝える。
そしてまた直ぐさま残りを食べる作業に取りかかる。
巴にとっては、最上の賛辞だ。
頑張った甲斐があったと胸を撫で下ろす。
「あれ?」
巴はなんとなく幸せな気分でケーキを食べる千石を眺めていたのだが、
気づいたら千石は自分の分をすっかり食べ終えていた。
巴自身はまだ一口も食べていなかったのだが。
「巴ちゃんは、食べないの?」
千石は不思議そうに質問する。
まさか巴が自分に見とれていて食べるのを忘れていたなどとは思いも寄らない。
巴は、自分が千石に見とれていた事実に改めて気付き、
うしろめたさに似た気恥ずかしさを感じる。
それを隠そうとしてか、慌てて答えを返す。
「あ、もしよかったら私の分も遠慮無く食べてください!
今日のこのケーキは千石さんのために作ったんですから」
そして、すばやく自分の手にしていたケーキを差し出す。
「え?いいの?ますますラッキー!」
よほど嬉しかったらしく、いそいそと皿を受取り再び食べる作業に没頭する。
巴はこれほど喜んで食べてくれる事実を目の前で見せつけられて、
天にも昇りそうな気持ちになる。
作っているときから、もちろん喜んでくれるだろうとは思っていたが
まさかこれほどまでだとは思わなかった。
こんなに喜んでくれるのなら、もっと以前からつくってあげていればよかったと
余計な後悔までしてしまう。
気がついたら巴の皿のケーキもすぐに消えてしまいそうになっていた。
千石も決して早食いをしようとした訳ではないのだが、
夢中に、必死に、集中して食べていたので必然と早くなってしまった。
ケーキを1ホールあっという間に食べてしまう千石に
巴は驚きを隠せないがそれと同時に嬉しくもあった。
「でも、こんなに美味しいケーキ、やっぱり巴ちゃんも食べるべきだったよ!
まあ、俺が全部食べた後に言っちゃっても全く意味ないんだけどね。
ごめんね、調子に乗って全部食べちゃってさ」
満足げでありながら少し申し訳なさそうに、千石は巴にそう話す。
声は申し訳なさそうでも、表情には全く後悔はなさそうなので、
そんな複雑な彼を巴はまじまじと見つめてしまう。
そして、巴はあることに気づく。
あっ━━━と千石に言いかけようとしたが、
千石はそれに気づかず話を続ける。
「ほんっと美味しかったんだよね、マロンケーキ!
もう言葉では尽くせないくらいだよ、やっぱり食べて貰えばよかったかな?
あー!うまく言葉じゃ教えられないんだよね」
後で思えば、千石のあまりの絶賛ぶりに浮かれていたこともあったのだろう。
巴が普段絶対にすることが無い行動だったからだ。
しかし、このときは先ほど千石に言いかけようとしたこと、気づいたことを
身体で彼に伝えることを思いついてしまった。
「マロンケーキのおいしさ」を教えてもらうことも出来て一石二鳥だと。
巴は、ここが公園の広場だと言うことを忘れて千石に向けて両手を広げる。
そして彼の身体を捕まえる。
いきなりのことと、巴の勢いの強さで千石は体のバランスを崩し、
二人して後ろに倒れ込んでしまい、巴の柔らかな体が押しつけられる。
芝生の上だったのは幸いだとしか言いようがない。
もっとも、コンクリートに打ち付けられて身体にダメージが与えられたとしても
あまりの役得さに痛みは感じなかっただろうけれど。
「とっ、巴ちゃん!?」
普段巴から抱きつかれることなど滅多になかったため、
嬉しいけれども、その唐突さに千石は驚いたような声を出す。
けれども、内心ラッキーと思っているのは仕方のないことだろう。
真剣な表情で巴は千石を見つめて、一言。
「千石さん…クリーム、ついてますよ?」
「え?」
「取ってあげますね」
千石は自分の口の端に暖かさを感じた。
そして、これは何となく夢なんじゃないかと思った。
なぜなら、こんなことありえないから。
巴があろう事か自分を押し倒して口づけている。
結果的にそうなっただけだが、もうそんなことはどうでも良い。
その柔らかい感触に全神経を集中する。
しかし、その感触は直ぐさま消えてしまう。
「きゃああ!すっすいません!!思わずついっ!」
巴は急に我に返り、慌てて身体を離そうとする。
顔を離すことには成功したが、腰に回された千石の手が彼女を放さない。
どんなに藻掻いてもがっちりと固定されムダなあがきだった。
巴は諦めてそのままにされる。
千石が下から仰ぎ見る巴は影になってはっきりとはしないが、
激しく赤面し焦っていることだけは分かる。
自分でこれだけ大胆なことをしておいて、それはないよなあと、
ちくしょう、可愛いなあと千石はボンヤリと思う。
「思わず?つい?」
言葉尻を取って聞き返してみる。
彼女の反応が知りたかったからだ。
「あああああああの、ケーキが美味しいって言うからっっ
じゃ、じゃなくてっ千石さんの顔にクリームがついてて
あのその……ちょっと味見してみたくなりまして……すいません」
巴自身すでに何を言いたいのかがわからない。
自分でもよく分からない。気づいたらこうなっていたのだ。
説明などできるわけがない。
「……」
「……」
すっかり混乱している巴に千石も何故か可哀想になり
かける言葉が見つからない。
何か下手なことを言うと混乱して泣き出してしまいそうだ。
そんななか、かろうじて発することの出来た言葉があった。
「お味は?」
「…………我ながら美味しかったです…………」
「それで、今のキスが誕生日プレゼントだと思ってもいいのかな?」
千石は嬉しかったのでちょっと言ってみたかった。
巴は不意をつかれた表情になる。
もちろんそんなことを考えたこともなかった。
そしてその意味を考えた瞬間ふたたび血圧も顔色も急上昇する。
「せっ千石さんのばかっ!
誕生日プレゼントにするんならもうちょっとまともにキスしますってば!!!」
再び混乱して訳の分からないことを口走る。
かといって、心にもないことはとっさに口に出ないことは確か。
それは千石も分かっている。
「……」
「……」
また二人の間に一瞬沈黙が走る。
もうちょっとまともなキスをくれるのなら
それが誕生日プレゼントでもイイなとは流石に千石も口にしなかった。
巴をさらに暴走させてみるのも面白いかなとは思ったが、自粛。
あまりやりすぎると嫌われてしまうかもしれない恐怖と少し戦う。
「……………………………………………………
お誕生日おめでとうございます」
これは予定外なんですが、とかすかな声が千石の耳を掠める。
それと同時に今度は口の端ではなく真上に柔らかい感触を感じた。
誕生日プレゼント、沢山貰いすぎじゃない?とセルフツッコミを入れながらも
千石はそのプレゼントを有り難くいただくことにした。
一つ目は手作りケーキ。
そして二つ目のケーキより甘いお菓子。
END
*甘いお菓子
広く澄み渡る11月の空は本格的な冬を前に
秋の名残の暖かな陽光を地上に降り注いでいた。
そんな日だまりの中、公園の芝生広場にシートを広げ
赤月巴と千石清純は小ぶりの丸いケーキをはさみ向かい合って座っていた。
周囲に人はあまりいない。
陽が暖かいとはいえ、季節はもう芝生広場でくつろぐような時期をすぎている。
「おおっ、これは巴ちゃんの手作りケーキだね!ラッキー!!」
「はい!朝から頑張っちゃいました!」
そう言って、巴はケーキに数本ろうそくを立てる。
「こんな小さいケーキで、しかも公園の真ん中で
ろうそくってムードもへったくれもないですけど…へへへ」
少し恥ずかしそうに笑いながら、ろうそくをライターで点火する。
陽の光で明るさこそ流石に感じないが、
ゆらゆらと青白い炎が揺れているのがかろうじてわかる。
「さ、どうぞ、ろうそくってお願いごとしながら吹き消すんですよね?」
どうぞどうぞと千石を期待の眼差しで巴は見つめる。
なにせ、ろうそくを消して貰わないことにはケーキを食べることも出来ない。
千石に一刻も早く自作のケーキを食べて貰うには、
誕生日ケーキに伴う一連の儀式を早く終わらせてしまわなければならない。
千石は自分のケーキにどういう反応を示すだろう。
それを考えるだけでドキドキしてしまう。
レシピにもぬかりない。男性用で甘さ控えめだ。
試作のケーキも同級生達には好評だった。
今日のこのために作ったケーキも見た限りでは成功している。
あとは、千石の口に合うかどうかだけが問題だ。
頑張った誕生日プレゼント、彼はちゃんと満足して受け取ってくれるのだろうか。
自然と緊張してしまう。
そんな巴の必死な表情を見て思わず吹き出してしまいそうになりながらも、
千石は少し神妙な顔をして、大きく息を吸いそして火を吹き消す。
ふーーーーーっ
「お誕生日おめでとうございます!千石さん」
パチパチパチパチ……
ろうそくの火を消した千石を、巴は拍手で祝福する。
「ありがとう!巴ちゃん。いやー俺ってラッキー!
こーんなカワイイ彼女にこんな風に誕生日を祝われちゃうんだからね!」
心から嬉しそうな表情で千石はそう言った。
その言葉に嘘いつわりはない。
巴はその表情を見て幸せな気分になったが、
彼のこれ以上の表情を見られる可能性━━━美味しいケーキを食べて貰うことを
思い出し、慌ててケーキのろうそくを取り除いて食べられるように準備する。
ケーキを小皿に二人分取り分け、当然大きな方を千石に手渡す。
「どうぞ、食べてください」
「ホント、これ美味そうだよね!いっただきまーす」
大きく口をあけケーキを食べようとする千石の様子を
暖かいコーヒーを水筒からマグに注ぎながら巴は眺める。
大きくフォークに刺したケーキを嬉しそうに頬張る彼の姿は
まるで子供のようで微笑ましい。
千石はもぐもぐと丁寧に咀嚼して時間をかけて一口目を味わう。
何せ彼女の手作りのケーキだ。
いつもの調子で早食いして飲み込んでしまうなんてもったいなくて出来ない。
巴の作ったケーキは成長期の二人が食べる量としては丁度よく、
大きすぎず、小さすぎもしない。
秋にふさわしく、マロンクリームのデコレーションケーキで
栗の甘く煮たものやチョコレートで飾られている。
色合い的には茶系で地味なものだがデコレーションは凝っていて華やかだ。
「んーーーーーーーーーーーーーーんまいっ!最高!」
最上の笑顔で千石は巴に感想を簡潔ながらこれ以上ない言葉で伝える。
そしてまた直ぐさま残りを食べる作業に取りかかる。
巴にとっては、最上の賛辞だ。
頑張った甲斐があったと胸を撫で下ろす。
「あれ?」
巴はなんとなく幸せな気分でケーキを食べる千石を眺めていたのだが、
気づいたら千石は自分の分をすっかり食べ終えていた。
巴自身はまだ一口も食べていなかったのだが。
「巴ちゃんは、食べないの?」
千石は不思議そうに質問する。
まさか巴が自分に見とれていて食べるのを忘れていたなどとは思いも寄らない。
巴は、自分が千石に見とれていた事実に改めて気付き、
うしろめたさに似た気恥ずかしさを感じる。
それを隠そうとしてか、慌てて答えを返す。
「あ、もしよかったら私の分も遠慮無く食べてください!
今日のこのケーキは千石さんのために作ったんですから」
そして、すばやく自分の手にしていたケーキを差し出す。
「え?いいの?ますますラッキー!」
よほど嬉しかったらしく、いそいそと皿を受取り再び食べる作業に没頭する。
巴はこれほど喜んで食べてくれる事実を目の前で見せつけられて、
天にも昇りそうな気持ちになる。
作っているときから、もちろん喜んでくれるだろうとは思っていたが
まさかこれほどまでだとは思わなかった。
こんなに喜んでくれるのなら、もっと以前からつくってあげていればよかったと
余計な後悔までしてしまう。
気がついたら巴の皿のケーキもすぐに消えてしまいそうになっていた。
千石も決して早食いをしようとした訳ではないのだが、
夢中に、必死に、集中して食べていたので必然と早くなってしまった。
ケーキを1ホールあっという間に食べてしまう千石に
巴は驚きを隠せないがそれと同時に嬉しくもあった。
「でも、こんなに美味しいケーキ、やっぱり巴ちゃんも食べるべきだったよ!
まあ、俺が全部食べた後に言っちゃっても全く意味ないんだけどね。
ごめんね、調子に乗って全部食べちゃってさ」
満足げでありながら少し申し訳なさそうに、千石は巴にそう話す。
声は申し訳なさそうでも、表情には全く後悔はなさそうなので、
そんな複雑な彼を巴はまじまじと見つめてしまう。
そして、巴はあることに気づく。
あっ━━━と千石に言いかけようとしたが、
千石はそれに気づかず話を続ける。
「ほんっと美味しかったんだよね、マロンケーキ!
もう言葉では尽くせないくらいだよ、やっぱり食べて貰えばよかったかな?
あー!うまく言葉じゃ教えられないんだよね」
後で思えば、千石のあまりの絶賛ぶりに浮かれていたこともあったのだろう。
巴が普段絶対にすることが無い行動だったからだ。
しかし、このときは先ほど千石に言いかけようとしたこと、気づいたことを
身体で彼に伝えることを思いついてしまった。
「マロンケーキのおいしさ」を教えてもらうことも出来て一石二鳥だと。
巴は、ここが公園の広場だと言うことを忘れて千石に向けて両手を広げる。
そして彼の身体を捕まえる。
いきなりのことと、巴の勢いの強さで千石は体のバランスを崩し、
二人して後ろに倒れ込んでしまい、巴の柔らかな体が押しつけられる。
芝生の上だったのは幸いだとしか言いようがない。
もっとも、コンクリートに打ち付けられて身体にダメージが与えられたとしても
あまりの役得さに痛みは感じなかっただろうけれど。
「とっ、巴ちゃん!?」
普段巴から抱きつかれることなど滅多になかったため、
嬉しいけれども、その唐突さに千石は驚いたような声を出す。
けれども、内心ラッキーと思っているのは仕方のないことだろう。
真剣な表情で巴は千石を見つめて、一言。
「千石さん…クリーム、ついてますよ?」
「え?」
「取ってあげますね」
千石は自分の口の端に暖かさを感じた。
そして、これは何となく夢なんじゃないかと思った。
なぜなら、こんなことありえないから。
巴があろう事か自分を押し倒して口づけている。
結果的にそうなっただけだが、もうそんなことはどうでも良い。
その柔らかい感触に全神経を集中する。
しかし、その感触は直ぐさま消えてしまう。
「きゃああ!すっすいません!!思わずついっ!」
巴は急に我に返り、慌てて身体を離そうとする。
顔を離すことには成功したが、腰に回された千石の手が彼女を放さない。
どんなに藻掻いてもがっちりと固定されムダなあがきだった。
巴は諦めてそのままにされる。
千石が下から仰ぎ見る巴は影になってはっきりとはしないが、
激しく赤面し焦っていることだけは分かる。
自分でこれだけ大胆なことをしておいて、それはないよなあと、
ちくしょう、可愛いなあと千石はボンヤリと思う。
「思わず?つい?」
言葉尻を取って聞き返してみる。
彼女の反応が知りたかったからだ。
「あああああああの、ケーキが美味しいって言うからっっ
じゃ、じゃなくてっ千石さんの顔にクリームがついてて
あのその……ちょっと味見してみたくなりまして……すいません」
巴自身すでに何を言いたいのかがわからない。
自分でもよく分からない。気づいたらこうなっていたのだ。
説明などできるわけがない。
「……」
「……」
すっかり混乱している巴に千石も何故か可哀想になり
かける言葉が見つからない。
何か下手なことを言うと混乱して泣き出してしまいそうだ。
そんななか、かろうじて発することの出来た言葉があった。
「お味は?」
「…………我ながら美味しかったです…………」
「それで、今のキスが誕生日プレゼントだと思ってもいいのかな?」
千石は嬉しかったのでちょっと言ってみたかった。
巴は不意をつかれた表情になる。
もちろんそんなことを考えたこともなかった。
そしてその意味を考えた瞬間ふたたび血圧も顔色も急上昇する。
「せっ千石さんのばかっ!
誕生日プレゼントにするんならもうちょっとまともにキスしますってば!!!」
再び混乱して訳の分からないことを口走る。
かといって、心にもないことはとっさに口に出ないことは確か。
それは千石も分かっている。
「……」
「……」
また二人の間に一瞬沈黙が走る。
もうちょっとまともなキスをくれるのなら
それが誕生日プレゼントでもイイなとは流石に千石も口にしなかった。
巴をさらに暴走させてみるのも面白いかなとは思ったが、自粛。
あまりやりすぎると嫌われてしまうかもしれない恐怖と少し戦う。
「……………………………………………………
お誕生日おめでとうございます」
これは予定外なんですが、とかすかな声が千石の耳を掠める。
それと同時に今度は口の端ではなく真上に柔らかい感触を感じた。
誕生日プレゼント、沢山貰いすぎじゃない?とセルフツッコミを入れながらも
千石はそのプレゼントを有り難くいただくことにした。
一つ目は手作りケーキ。
そして二つ目のケーキより甘いお菓子。
END
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