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  • 昔書いていた36話(友情系)の転載です。
  • 特に加筆修正は行ってません。
  • 菊不二前提で書いていたような気がする。
  • 巴は出てきません。
  • 初出:2003年

***

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「うっわー!これ、ホントに俺が食っちゃってイイわけ?」

 

「イイも何も…英二が欲しいって言うから、わざわざ作ってもらったのに」

 

 

 

 

プレゼント

 

 

 

本日15歳の誕生日を無事に迎えた菊丸英二が

大型のラズベリーパイを前にきらきらと両目を輝かせていた。

夕方の3年6組の教室。

早くも11月の日差しは地平線の彼方へと消えようとしていた。

この冬入って初めての厳しい冷え込みと言われた気温は、

太陽の後を追うにつれてにさらに下がっていった。

 

「さ、寒くなるから思う存分食べてさっさと帰ろうよ、英二」

 

大型のラズベリーパイを持ってきた不二周助は

早く食べろと向かい合わせて座る友人を急かす。

 

「んじゃ、いっただきま~す!」

 

とろりとソースのかかったパイを遠慮無く英二は食べ始めた。

 

「でも…こんな誕生日プレゼントで良かったの?英二?

これは由美子姉さんの手作りだし…。

正確には僕からのプレゼントって言えないんじゃない?」

 

「誕生日、欲しい物はない?」と聞いた周助に返した英二の返事は

周助の姉、由美子の作るラズベリーパイだった。

それで一生懸命頼み込んで(半年間毎日マッサージ奉仕と引き替えに)

作ってもらったラズベリーパイは、当然すばらしい出来で。

周助も、作った本人である由美子も、現在頑張って口に含んでいる英二も

それぞれ満足のいくものであった。

しかしながらそれは周助には少々納得のいかないことでもあった。

英二が望めば何処でも連れて行くつもりだったし

買ってあげるつもりだったし、食べさせてあげるつもりだった。

そのために、当人には内緒ながらお金も貯めていた。

なのに、まさか、自分の姉の手作りケーキが所望だとは。

まさか、自分からの贈り物は受け取りたくないのかな。

そこまで自分の存在は重荷になっていたかな。

そう考えると大石ではないけれど胃が痛くなりそうだ。

 

「だって…さ…」

 

やや行儀悪く口をもごもごさせながら英二は答える。

すかさず周助は朝に由美子が持たせてくれた水筒から

夕方になってややぬるくなったアールグレイをカップに注ぎ、英二に渡す。

英二はようやくオアシスを見つけた砂漠の旅人のような勢いでそれを飲み干す。

気づけばパイはホール半分が減っている。

 

「だって、ただお金を出して何か買ってきたりするよりも、

お金とか関係なしに誰かに頼んで手配したりとかしてくれた方が

自分のために頑張ってくれてるーって気がするじゃんか。

俺への気持ちを試してるってワケじゃないけどさ、

どうせ何かくれるって言うんであれば

自分のために頑張ってくれてる不二の気持ちが欲しかったワケ」

 

一気に理由を告げるとまた、パイに没頭する。

周助はといえば、予想外の理由にしばし呆然とする。

まさか、自分からのプレゼントは欲しくないと言う英二の意思表示だと

受け取ってしまっていたとは本人に言えるわけもない。

ただただ、パイと格闘している英二を見つめていた。

お金で簡単に買えるようなプレゼントだって

中学生の自分からしたら相当頑張らないといけないのだけど、

確かに英二の言うことは一理あるかもしれない。

これからは半年間姉にマッサージをしなければならない。

もちろん姉は好きだし、頼まれれば毎日してあげるかもしれないけれど

それでも、普段なら「マッサージでも何でもするからお願い」なんて

頼み方はしない。日々仕事で疲れている相手に対しては当然しない。

「周助のワガママなんて、珍しい物が見られたわ」と快く受けてくれたけど

平日にもかかわらず夜を徹してパイを作ってくれた姉には頭が下がる。

英二のためでなければ頼めない。

英二のためだからこそ頼めたことだ。

 

「本当は何だって良かったワケなんだけど、

どうせなら不二がいつも味わってるものを俺も味わいたかったんだよ。

ゼータクなの。俺は。いつでも…ね」

 

パイはいつの間にかあと一切れになっていた。

気がつけば陽はとうに暮れ、教室にも暗闇は訪れていて、

室内は廊下と校庭の明かりだけが頼りだった。

気温もそれに伴って学ランだけでは心許なく感じるようになっていた。

周助はなんと言って良いか分からず、

また唇はすっかり冷え切っていて上手く動かすことは出来なかった。

 

「じゃ、不二も!はい、あーん」

 

英二は周助の冷えた口元にぐいっと最後の一切れを差し出した。

その勢いにのまれるように周助はそれを口に入れる。

パイを咀嚼し嚥下すると同時に冷えた唇に触れた熱があった。

最初は柔らかに。そのうち少し強めになり包み込むように。

繰り返し、深く、浅く。

感じるのは自分を探る少しかさついた、しかし柔らかい感触とラズベリーだけで。

冷えていた唇が熱を伝染され燃えるようになったころその感触は途絶えた。

 

「誕生日プレゼント、ごちそうさま。不二」

 

欲しかった物が手に入った子供のような笑顔で頭を下げる英二に、

周囲を片づけつつ、にっこりときれいに笑って周助はこう答えた。

 

「僕のプレゼントは高くつくこと、覚えといてね。支払期限は2月末日で」

 

もちろん、高くついたのはケーキ以外のプレゼントの事だけど。

言うまでもない、よね?

 

 

 

END
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