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夏の水遊びにご用心。




***

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「は~っ!今日も暑いっ!疲れたあ」

「……暑いのは当然じゃない?夏なんだし……」


---


世の中の水分は空気中にしかないのではないかと錯覚させる夏の午後。
空気も動かず、大地に影指す雲一つ見あたらない。
赤月巴と越前リョーマは寺のテニスコートで特訓していた。
わざわざ休養に当てるようにと1日の休日が与えられたというのに
二人は部活と変わらぬ内容の練習を続けていた。

「まあ、そりゃそうなんだけど……もう今日は終わりで良いよね?」

「━━━俺はもっと練習できるけどね」

「ああ、そう。じゃあやってる?一人で」

「…………ちぇっ」

さらっと、リョーマは強がりを言う。
しかしそれはいつものことだったので巴はあっさり流す。
ぶつぶつ文句を言いながらも、リョーマも脇に置いてあったタオルを手に取り庭の片隅にある水道に近づく。
元々テニスコートを湿らせるために設置したものだったが
今日のところはまさに焼け石に水というか暑さのためにすぐに乾いてしまう。
もはや今日のところは別の用途に使われることに
重きが置かれていた。
リョーマは蛇口を上に向け、ザァッと勢いよく水を放つ。
夏の日差しに照らされた水しぶきはキラキラと輝き、
水の軌跡にいくつもの虹を作った。
巴はそれを見て思わず目を細めて見とれるが、
その虹を壊すことを躊躇わずにリョーマはそこへ頭を突っ込む。
水道からあふれ出る水は冬のそれに比べてかなり温んでいるものの
練習後に火照った身体には丁度気持ちがよい。
勢いのある水は髪だけといわず体中を湿らせていく。
既に全身濡れていたが、自宅の水道だ。躊躇うことはない。

「リョーマ君ばっかりズルイ!」

気持ちよさそうなリョーマをジリジリとした思いで見ていた巴は
もうたまらず声を出す。
自分だって水に触れたい。
夏の陽に照らされた人々にとってその思いは誰だって一緒だ。
巴も例外ではない。
思わず手が伸びる。
リョーマを押しのけて自分が水道の前に立つ格好になった。
流石にリョーマと違って全身水浸しになる訳にはいかないので
躊躇いがちに髪だけを濡らしていく。

「━━━お前ねえ…」

呆れた表情で見るリョーマを尻目に思う存分流水に身をゆだねる。

「きっもちいいー!」

歓声を上げる。
髪が長い分、頭部の熱のこもり方が違う。
髪を感じるだけで体感気温が上がるカンジだ。
水によって冷やされていく長い髪が心地良い。
ついつい、長い時間その気持ちよさにすべてを忘れてしまう。
髪の長い自分が長時間水に浴びていたら、どうなるか。
知らず知らずのうちにその長い髪に水が伝わって
身体をも濡らしていく。
気持ちよさにうっとりしている巴はそれに気づかない。
気づかないどころかいよいよ気持ちよくなっているので気にしない。

「━━━っ!!」

気づいたのはリョーマの方だ。
じわじわと濡れていく巴の白いTシャツ。
その白いTシャツは水によって透け、肌に張り付いていく。
シャツにうっすらと浮かび上がるよく焼けた肌の色と今日の空のような色の下着。
身体を前に傾けた為に露わになったうなじは
普段陽に当たらないため白く濡れている。
リョーマはなにかに取り憑かれたように魅入ってしまう。
ぼーっと見ていたのは一瞬だったのか
長い時間だったのか分からない。
我に返ったのは、何がきっかけだったのだろうか。
おそらく鳥の声みたいな些細なことだったのだろう。
慌てて視線を彼女から、夏の割に抜けるような青い空へ移す。

「そろそろ…やめろよ、バカ月」

喉がカラカラで張り付いていたので思わず声がうわずる。
彼女に気づかれなければいいんだけど。
祈るような思いで制止の声をかける。

「え?あああああああああああっ!」

水の心地よさから現実の世界に引き戻された巴が叫ぶ。
どうやらリョーマの制止の意図に気づいたようだ。
びしょ濡れの自分。
リョーマに下着が露わな自分を見られて動揺する。
冷静に考えると露出度は水着の方が高い訳だが何故か恥ずかしい。
ショックすら覚える。
脳内は「どうしよう…!」の嵐だ。
すっかりパニック状態の巴を見てリョーマは冷静さを取り戻す。
それと同時に少し不愉快さを覚える。
…まったく、俺に見られるのがそんなにいやなのかよ。
もちろん、巴からしてみればそれとこれとは関係ない乙女心なのだが
リョーマに通じる訳もない。

「ったく」

自分の手に持っていたタオルを巴に投げる。
今日持ってきてたのが大きめのスポーツタオルだったことに
感謝するべきか、後悔するべきか、判断は彼自身ついていない。

「あ、ありがと」

「ここが敷地内で感謝するんだね━━━他の誰にも見られないから。
でも、お前ちょっと迂闊じゃない?
いくらそんなんでもお前女なんだし慎んだ方がいいと思うけど」

思わず苦言を呈する。
自分の前でなら、そんな姿いくらでも見せてくれて構わない
むしろ歓迎するほどだが、
他の男の前でもそんなんじゃたまらない。
しかし、その本音は飲み込んだまま。
そのリョーマの言葉に巴は身の置き所がないといった表情だ。

「そんなんでもって…!それはちょっとあんまりじゃない!?」

変なところに巴は突っかかるが
リョーマの冷ややかな表情を見てとるとその威勢も小さくなる。

「……それは……、その、そうなんだけど。うん。
ゴメン、私が考え無しだったね。迂闊だったよ」

「分かればいいけど」

ずっと遠くへ目をそらしたままリョーマは答える。
巴も彼の視線を追って青い空へと目を向ける。
ふと、彼の言葉が照れ隠しと心配からきていることに気づく。
声も軽蔑から来るような冷たい声じゃない。
自分の無防備さを心配するような声。
他の男子なら、こんなびしょ濡れの自分をどんな目で見るだろう。
すくなくともラッキーだと思われるんだろう。
リョーマ君は、横で遠くを見たままの彼はどう思っただろう。
逆に視線を自分に釘付けに出来ないことを悔しくも思う。

「本当にゴメンね。無防備な私を心配してくれてるんだよね?
でも━━━」

最後は言い淀む。
それは言ってもいい言葉なのか巴自身も判断できなかったからだ。
しかし、リョーマはそれを聞き咎めて訊ねる。

「でも?」

「……」

どうしよう。言ってみようかどうか迷う。
目の前のもしかしたら身体の赤さは暑さだけが原因じゃないかも知れない彼に。
言ってしまって、軽蔑されたらどうしようと恐れる自分と
むしろ彼の反応を窺ってみたい自分が脳内でせめぎ合う。
勝利したのは反応を知りたいと思った自分。

「でも、リョーマ君になら見られたって一向に構わないんだけどねっ」

反応を知りたかったのに、やっぱり口に出してしまった自分が恥ずかしくて巴はおもわず身体を翻して母屋へと歩き出してしまう。
当然リョーマがどういう反応を示しているか表情や態度では知ることが出来ない。
言ってしまった自分はこんなにドキドキしているのに
リョーマはどうなのだろうか。
巴は、私ってヘタレだなとやや落ち込む。
そんな時、後ろから声がかかる。

「どうせなら、何も着てなくても俺は一向に構わないんだけどね」

もう、怖くて後ろは振り向けない。
あのリョーマが本気で言っているのか、夏の暑さに頭がやられているのか知りたいような、知りたくないような。
いっそのこと夏のせいにして何もなかった振りをするしかない。
いつか何も着ていない自分を見せる日が来るのかも知れないけれど、
今は、まだ振り向けない。
まだ早い。



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