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━━━カランカランと祝福のベルが周囲に鳴り響く。

「うん、俺ってラッキー!」

「千石さん、すごいです!」

目の前にころがっているパチンコ玉みたいな銀の玉をみて
巴と千石は手を取り合ってはしゃぐ。

「2等当せんおめでとうございます!
賞品は青春台スポーツ店より“スポーツグッズ”をペアで差し上げます」

抽選所のおじさんは声高らかに私たちにそう告げた。



   *祝当選



「“スポーツグッズ”だって!まさに私たちにピッタリですよね!
さすがラッキー千石って呼ばれるだけのコトはありますよねえ」

興奮と称讃の色を隠さず、巴は千石にそう言った。
千石はまんざらではなさそうにそれを聞きながら、賞品の袋を受け取っている。
久しぶりにお互いの時間が合い、街へと二人は買い物にやってきた。
まずは腹ごしらえから…と、入ったファミレスで抽選券をもらい、
とりあえずせっかくなので1回ひいてみようと抽選所へとやってきた二人だった。
たった1回きり。
それでいて2等。
いつもティッシュか飴玉しかもらった事のない巴にとっては
まさに奇跡のような出来事を千石は起こしてみせた。

「で、賞品の中身ってなんですかね?」

近くの小さなベンチに二人腰掛け、賞品の袋を眺めた。
待ち切れないといった表情の巴を、
むしろ賞品の袋よりも真剣に眺める千石は
そういう顔の時ってめちゃくちゃかわいいよなぁ、などと考えながら、
「じゃあキミがあけてしまってよ」
と巴に頼んだ。
ばりばりばりばりと豪快な音を立てながら袋はあっけなく破られ、
そのなかから出てきたのは有名スポーツブランドのトレーニングウェアと
リストバンドだった。

「うわあ!物凄く高そうなウェアが出てきましたよ!千石さん!!!」

巴の声が弾む。
部活に生きる二人にとって、ウェアは実用的な品だ。
中学生の小遣いでは手を出すのも大変なそのウェアは
1等の高級レストランお食事券よりもはるかに上等で
むしろ彼らにとってはこちらが1等だろう。

「わお♪すごいね。
しかもキミとペアだなんてラッキー!」

千石も弾む声で答える。
最初から「ペア」だと言われていたものの
直接目で見ると、実感が湧いてくる。
若い層向けのラインで販売されているそのウェアは
当然彼ら向けの作りで、明るくさわやかな色味だった。
このウェアを着て二人でトレーニングなんか出来たら最高だよね!
巴は心が弾む。
何故か河川敷などをランニングする自分たちを想像して
ちょっと顔がにやけている。
家も離れているし、高校生の彼と中学生の自分では
逢う時間どころか連絡でさえなかなか取れない。
そんな状態なので実際問題二人でトレーニングなどというのは
絵に描いた餅状態であるが、
そんなことははなっから無視だ。
オトメの、特に巴の妄想力はたくましい。
うきうきにやにやと様々な妄想を楽しみ百面相をする巴を
幸せそうに眺めながら千石はぽつりとつぶやく。

「でもね、もっといい“当たり”を引いたんだけどね、俺は」

それはキミ。
キミと出会えたこと。
沢山のライバルを押しのけてキミをこの手で掴んだこと。
なんて、ラッキーなんだろうね。
もちろんキミはものじゃないから、そりゃもうカワイイ女の子だから
“当たり”なんて適切じゃないかもだけど。
俺の気分としては、
お年玉年賀葉書より、
宝くじの一等前後賞よりも、
何よりも価値のある、欲しいものだったから。
キミはこの発言の意味合いを理解できてないみたいできょとんとしてるけど
いつかその“当たり”の意味を。
そしていつか全身で俺のラッキー具合を実感させてあげるよ。
で、気づいてよ。
俺を選んだ自分のその“ラッキー”さも、ね。
そんなことを考え、また巴とシンクロして千石も顔がにやついてきた。
端から見ればまさか片方は妄想力を爆発させて、
もう片方は自分の幸運さに顔をほころばせているとは誰も思わないだろう。
ただ商店街の抽選に当たって喜んでいる幸運なカップルとしか。



END
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